『ケンガンアシュラ』はバトル漫画と格闘技漫画の良いとこ取り? キャラの扱いにも独自のルール

『ケンガンアシュラ』3つの強み

特筆すべき3つの強み

 そしてもう一点、本作には特筆すべき点がある。それはキャラクターが重視視されていることだ。格闘技漫画は敗れたキャラがそのまま消えてしまうことが多い。これは例に出した『タフ』に限らず、同じく格闘技漫画の金字塔である『グラップラー刃牙』もそうだ。これは格闘技漫画の構造的な弱点でもある。格闘技漫画は色々な格闘技の特徴・長所・短所を解き明かしていく点に面白さがある。たとえば「主人公VS柔道家キャラ」をテーマにした場合、格闘技漫画では主人公が「柔道」をどう攻略するかが大事なのであって、柔道家の人格や、柔道家との関係性はそこまで大切ではないのだ。そして主人公は柔道家を倒したら、すぐにまた次の格闘技と対戦しなければならない。背負っている格闘技を抜きにして、際立って濃いキャラでもない限り、消えてしまうのは仕方ないだろう。

 その点『ケンガンアシュラ』はヤバ子氏がインタビューで答えている通り、キャラが消えることがない。負けたキャラの復活/再登場や、その後が描かれることが非常に多く、格闘漫画だと忘れられがちな非・戦闘要員の出番もしっかりある。そもそも主人公は格闘家の十鬼蛇 王馬(ときた おうま)だが、彼をサポートする山下 一夫(やました かずお)は平凡な中年サラリーマンだ。本作は2人のバディものでもあり、2人の成長譚でもある。他にも王馬にただならぬ感心を示す美青年、桐生刹那(きりゅう せつな)など、主人公の周りには「目の前に立ち塞がる障害」以上の意味を持つキャラクターが多数配置されている。死闘を繰り広げる格闘家同士でカップリング妄想をするキャラクターまで登場するのは、なかなか珍しい。

 格闘漫画では敗者は早々に消えてしまうし、バトル漫画でも戦いのインフレについていけないキャラは、いつの間にか姿を見なくなるもの。同作はキャラを大事にすることで、「格闘漫画」としても「バトル漫画」としてもレベルの高いものになっている。「バトル漫画」らしいハッタリと、「格闘技漫画」らしいリアリティ、そしてキャラクターを大切にする姿勢。この3つが『ケンガンアシュラ』の強みだろう。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。@DAITOTETSUGEN

■書籍情報
『ケンガンアシュラ 1』
原作:サンドロビッチ・ヤバ子
作画:だろめおん
価格:571円+税
出版社:小学館
公式サイト

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