デマや流言にはどのように対処すべきか? 荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』に学ぶ

デマや流言にはどのように対処すべきか?

 世界的に感染が広がる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)により、感染患者の増大や様々なイベントの自粛といった問題が生じているが、混乱に乗じて根も葉もないデマや流言が飛び交っていることにも注意がなされるべきだ。

 関東大震災の際に「朝鮮人が井戸に毒を入れた」という流言が広まり、多くの人々が民衆の手によって殺されたのは有名な話だが、非常時の流言飛語という意味では紀元64年にまで遡る。ローマ大火で「皇帝ネロが新たな都を作るために火を放った」「(当時ローマ帝国に迫害されていた)キリスト教徒が犯人」というデマが広がったように、人類の歴史にデマや流言はつきものと言える。悲しいことに歴史は繰り返すのだ。

 東日本大震災の際にもデマや流言により救援物資が必要な人に届かず、それが被災者の生死に関わることもあった。そうした中、評論家の荻上チキが2011年に上梓した『検証 東日本大震災の流言・デマ』は、デマや流言が起こるシステムを検証し、具体的な処方箋を提示した本である。つまり、今最も切実に読まれるべき本だ。荻上は「私が強い実感として思うのは、歴史に学ぶということ」と記す。

 具体的には、「擬似的に騙されるという追体験」をすることの重要さです。つまり過去の流言やデマの事例を知っておく。流言やデマについて書かれた書籍を数多く読めば、時代や国が変わっても、流言やデマのパターンというのは、実はあまり変わっていないことが分かります。基本的なパターンを知っておくことで、「あれ?これは以前流言やデマの事例で似たようなことがあったような」という既視感を抱きやすくしておくことは、かなりの程度、有効なのではないかと思います。(同書 P18)

 確かに、トイレットペーパーの在庫がなくなる、というデマは73年に始まったオイルショックの時にもあったもの。東日本大震災が原発事故を引き起こした際には、ヨウ素を多く含む食品(イソジンなど)を多量に摂取すれば放射性物質が中和される、といったデマも流れた。「こういったことがあるかもしれないから気をつけてよ」という情報は、伝言ゲームが続く中でいつの間にか「〇〇ではこういったことがあるから気をつけろ」と変わっていく。どんどん話がエスカレートしていくのだ、と荻上は言う。そして、内容が伝聞にも関わらず広めて欲しいという要求があるものは、まず疑ってかかるほうがいい、とも述べている。

 情報を取得する際には、いくつかのNGワードを頭に設定するといいでしょう。拡散希望、みんなに教えてといった具合に無理矢理その情報を広めている人がいるケースや、多くの人が信じて行動を促しているにも関わらず、誰もその情報を検証していないケースなどは、ひとまず流言の可能性を思い浮べて「保留」にし、内在的チェックを働かせることを勧めます。震災後は、特に拡散希望をつけられたツイートが平時の何倍にも激増し、その中には流言も多く含まれていました。(P119)

 また荻上は、医者や専門家といったインサイダーからの密告形式を取る流言やデマにも注意喚起を促す。自分の持つ情報こそが本当だという説得力を出すために、情報を捏造・誇張しているものが多く含まれるからだ。

 荻上はネットの普及により一次情報を特定しやすい面もあると書いているが、2020年の現時点では、情報発信の発達はこれまで以上にデマや流言を広まりやすくしている。事実、お湯やビタミン、正露丸、花崗岩(かこうがん)などが新型コロナウイルスの感染予防に効くというデマは圧倒的な速度で広まった。

 そもそもデマや流言がまさしくウイルスのようなもので、WHOによると、デマや流言はTwitterやFacebook、YouTubeを通じて、コロナウイルスそのものより速いスピードで世界に拡散しているという。それも、一次情報のソースがなんだったのかが、判然としないまま拡散されてしまうということもある。

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