小学校からの英語教育に現場は混乱……『小学校英語のジレンマ』が浮き彫りにする問題点

『小学校英語のジレンマ』レビュー

 「じゃあどうしろと?」という疑問に対しても、バラ色のプランはないと断りながら、4案提言している。

 案1は「専科教員型」。専科教員を増員し、専科指導を前提にする(学級担任による指導は任意のものとする)。ハードルとしては教職員定数改善に関わる法改正や、予算が増えるために財務省の抵抗が予想される。

 案2は「学級担任型」。大規模名研修機会を提供し、学級担任の英語指導力を向上させる。ハードルとしては研修制度の構築の困難さ、およびやはり予算がかかることに対する財務省の抵抗が予想される。

 案3は「選択教科化」。必修ではなく、教育条件が整った学校・自治体から導入する。ハードルとしては、初等教育における選択教科導入の前例がないこと。機会均等を求める現場や保護者などからの反発が予想される。

 案4は「全廃」。必修の外国語科をやめる。ハードルとしては、小学校英語をグローバル人材育成に必要と考える官邸、財界、文科省内の改革派からの圧力が予想される。

 著者の推しは1か4だというが、みなさんはどう考えるだろうか。

 本書は、この問題に関心のある小学教育関係者、英語教育関係者、保護者などには一読をおすすめしたい。特に小学生の親の多くは教育関係者と比べてこの件に、そこまで知識がないと思うが、何も知らずに「英語ってとにかく早く始めた方がいいんでしょ?」などと言う前にぜひ読んでいただきたい。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

■書籍情報
『小学校英語のジレンマ』
寺沢拓敬 著
価格:本体840円+税
出版社:岩波書店
公式サイト

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