直木賞『熱源』・芥川賞『背高泡立草』がワンツーフィニッシュ 文芸書週間ランキングを考察
直木賞ノミネートも遠い未来の話じゃないだろう、と思わされる注目の作家が10位ランクインの凪良ゆう氏。『流浪の月』は、吉川英治文学新人賞の候補作となり、本屋大賞にもノミネートされた作品だ。もともとBL小説の分野で活躍していた凪良氏が、一般文芸のジャンルで最初に注目を集めたのは2017年に刊行された『神様のビオトープ』。死んだ夫の幽霊とともに暮らす女性の日々を描いた同作に胸をうたれた編集者ふたりが、ほとんど同時期に声をかけて刊行とあいなったのが昨年9月に発売された『流浪の月』と12月に発売された『わたしの美しい庭』だ。
『流浪の月』は、少女誘拐監禁事件の被害者と加害者の物語。父を亡くし、母に捨てられ、叔母の家で性暴力を受け、逃げ場のない孤独に耐えていた少女。成熟した女には興味を抱くことのできない青年に連れられ、彼とともに過ごした日々は少女にとって両親が揃っていた日々の幸せを思い出させるものだった。青年は少女に触れてもいなければ傷つけられてもいない。大人になった今でも、彼の記憶はとても甘い。なんの障害もないはずなのに、世間の目は二人がともにいることも、“普通”に生活することも許さない――。理不尽な不自由に苦しめられる二人の物語もまた、強制的な“同化”に抗う物語なのかもしれない。
■立花もも◎1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。