舞城王太郎×奥西チエの王道グルメ漫画『月夜のグルメ』はいかにして誕生した? 奥西チエが語る、独自の漫画表現と東京の食文化

舞城王太郎×奥西チエの王道グルメ漫画『月夜のグルメ』はいかにして誕生した? 奥西チエが語る、独自の漫画表現と東京の食文化

 『週刊SPA!』で連載中の『月夜のグルメ』は、唯一無二の世界観で読者を魅了する小説家・舞城王太郎と、繊細なタッチに定評がありグルメ漫画を中心に作品を発表してきた漫画家・奥西チエの異色タッグによる正統派グルメ漫画だ。同じく『週刊SPA!』で連載、テレビドラマ化されて大ブームとなった『孤独のグルメ』の後継作品となるとの評価も受けている本作は、都内で働く女性の朔良(さくら)が“深夜の冒険”として、父の残した手帖に記された飲食店を訪れ、温かな記憶を辿りながら1人の食事をじっくりと楽しむ物語。月の光が夜更けの食文化の豊かさを優しく照らし出す様を、画用紙に鉛筆で作画するという独自の手法で描き上げた秀作だ。奥西チエ本人に、舞城王太郎との共作や食文化への考え方、グルメ漫画の魅力などについて話を聞いた。(編集部)【インタビュー最後に舞城王太郎&奥西チエのサイン本プレゼント企画あり】

鉛筆描きは深夜の表現に向いている

奥西チエ

ーー『月夜のグルメ』は『孤独のグルメ』を彷彿とさせる、読み応えのある作品です。舞城王太郎さんとのタッグということで、どんな作品なのかまったく想像ができなかったのですが、実際に読んでみたらとても繊細で心温まるグルメ漫画になっていて感銘を受けました。そもそもどのようにして立ち上がった企画なのですか。

奥西:本作で企画を担当しているリアルコーヒーエンタテインメントという会社が、2017年に『始発のグルメ』というZINEを出しました。そのZINEで私は漫画を担当したんですが、なかなか評判がよくて。その後に舞城先生の原案で『週刊SPA!』で連載をしようという話になりました。舞城先生は、いつかこういうグルメ作品を手がけてみたいという希望はあったみたいです。

ーー画用紙に鉛筆で描いているのが特徴的です。なぜこのような手法を採ったのですか。

奥西:これは編集さんが出してくれたアイデアです。普通の漫画雑誌の紙や印刷方法だと鉛筆の線が綺麗に出ないのですが、『週刊SPA!』は紙の種類も印刷方法も違い、すごく綺麗に線が出るんです。だからこそ活かせる手法で、料理の質感とかを細かく表現するのに役立っています。それと、深夜の雰囲気を表現する上でも、黒に濃淡をつけられる鉛筆描きは適していると思います。美術系の高校に進んだので、受験の頃からデッサンは習っていたんですけれど、印刷することを踏まえて料理を描くのはまた違ったテクニックが必要で、一口に鉛筆で描くといっても色々なやり方があるなと感じています。

ーーコマ割りにはどういうこだわりがありますか。

奥西:編集さんから、食べ物が飛び出すように描いてほしいと言われているので、それは意識しています。食べ物は、すごく描き込むことができる題材なので、描いていて楽しいです。あと、鉛筆書きなので読みやすいように、あまり複雑にならないコマ割りを心がけています。せっかく鉛筆で描いているので、見開きで絵画的に楽しめるようなページもあります。

ー描いていて難しかった料理は?

奥西:形がぼんやりした料理とか、色数が少ない料理はやっぱり難しいですね。第2話で登場した「イカ墨のパエーリャ」とか、連載が始まったばかりだったし、形もぼんやりで色も黒かったのでどう表現するべきか悩みました(笑)。

ーーでも逆に「イカ墨のパエーリャ」は想像力を刺激されたところがあって、印象に残っています。朔良が「イカ墨ってイカ墨味って言うしかないですね」と言うのに対して、店員さんが「この味を覚えると真っ黒がおいしそうに見えてくるんですよね」と返すやりとりも「どんな味だろう?」と興味をそそりました。

朔良は食事を通して、少しずつ成長している

ーー舞城先生とのやりとりについても教えてください。そもそも原案は舞城先生のエッセイのようなものなのか、それとも完全な創作なのか。

奥西:舞城先生は、いろんな街やお店を回られているので、当然ご自身の体験も入っていると思いますが、話の流れは創作です。エッセイというより、ほとんど朔良の一人称の小説のような形でプロットが送られてきて、それをもとに漫画として膨らませていくという形で制作しています。実際に私もそのモデルにしたお店に行って、指定のメニューを食べたり写真を撮ったりという取材をするんですけれど、食べようと思っていたメニューが季節限定でなかったり、予想以上に庶民的な雰囲気のお店だったり(笑)。漫画として面白いものにしなければいけないので、私が解釈してアレンジしている部分もあります。でも、ネームを描いてみるとちゃんと形になるので、やっぱり舞城先生のお話の作り方はすばらしいなといつも思います。

編集担当者:「あの原案がこういう漫画になるんだ!」って、我々も驚きながら読んでいます。舞城先生にもネームを確認してもらうんですけれど、「思い描いた通りなので大丈夫です」と、赤字もほぼ入りません。舞城先生が奥西さんの絵をすごく気に入っているという部分も大きいと思います。

奥西:私は毎回、「これで合っているのかな?」と不安になりながら描いているんですけれど、たしかに大きな修正が入ることはありませんね。

ーー朔良のキャラクター設定も読者との距離感が絶妙で、すごく共感しやすいです。だんだんと性格もにじみ出てきた感じで。

奥西:朔良は、もともと自分の中にはいなかったタイプのキャラクターで、舞城先生が作った設定をもとに、描きながら探っていった感じです。すごくマイペースで、一つのことに真剣に向き合うことができるけれど、そうなると周りの声が聞こえなくなるところもある子なのかなと(笑)。特に食べ物に対しては真面目ですよね。周りに対して何かを押し付けるようなことはしないけれど、芯が強いところがあって、だから1人で深夜の食べ歩きにも挑戦ができる。そういう部分は羨ましく感じています。

ーーお父さんが残した手帖に記されたメニューを食べることで、その記憶を辿る物語でもあります。朔良の回想で、お父さんの輪郭が少しずつ浮かび上がってくるのも印象的でした。

奥西:朔良は毎回、ご飯を食べるたびにお父さんのことばかり考えているわけではないけれど、根底にはお父さんをはじめとした家族の面影がいつもあります。食事を通して、お父さんの知らなかった一面を見て、少しずつ成長しているように感じていました。行動も、ちょっとずつ大胆になっていっている(笑)。季節の移り変わりも同時に描いているので、より一緒に生きているような感じがするのかもしれません。お父さんがどういう人だったのかも、舞城先生のお話を聞いて描くたびにだんだんと出来上がっている感じです。食べ物を通して、人との繋がりや文化の成り立ちを理解していくのは、この漫画ならではの角度(?)なのかなと。

ーー朔良は味覚も成長しているというか、どんどん通好みになっていますね。

奥西:割と渋いものが好きですよね。日本酒をよく飲む子だなぁと思って描いていました(笑)。あと、もつ焼きも好き。《お父さんの書いた手帖》を基にしてるので、食べ物の好みにムラがあったりするんですけれど、それも面白いのかなと。

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