『鬼滅の刃』はなぜ、兄弟姉妹ネタが多いのか? テーマ、作劇的都合、社会的背景から推察

なぜ『鬼滅の刃』は兄弟姉妹ネタが多いのか

3.社会的な背景――日本ではふたりきょうだいが基本

 しかし、ではなぜ基本的にふたりきょうだいなのか? これはテーマ的に言えば、継承を描くなら一対一での関係がもっともわかりやすく美しいからだろう。

 作劇上の都合で言うと「ただでさえキャラが多いのに、大正時代のリアルに合わせて四人やら七人ならのきょうだいを無闇に出すと読者に負担を強いる」から避けた(だからたとえば産屋敷家の五つ子はふたり死んでひとりはほぼ出てこず、実質ふたりになる)、と考えられる。

 もうひとつ、作品外の社会的な背景から考えてみよう。

 厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、児童(子ども)のいる世帯数は1986年に46.2%だったのが2018年に22.1%と半減している。ところが一方で、児童のいる世帯の平均児童数は1986年で1.83人だったが、2018年では1.71人とあまり変わっていない。2000年代後半までは2人きょうだいがもっとも多く、次いでひとりっ子だったが、2000年代以降は子どものいる家族で一番多いのはひとりっ子になり、しかし、ふたりきょうだいも割合としては拮抗している。

 つまり、30年以上にわたって、日本人にとってもっとも身近な兄弟姉妹像は「2人」なのだ。だから自然とそうなった、という身も蓋もない理由もあるかもしれない。とはいえ六つ子を描いたヒット作は記憶に新しく、別にフィクションが現実に寄せる必然性はない。

 などと考えていくと、ぐちゃぐちゃ言ってきたが、やはり作品内在的なロジックで「実はこういう設定があって、だから兄弟姉妹関係が重要だった」という展開を公式が用意してくれることが一番納得のいく理由になる。吾峠先生、何卒!

 ……みなさんはなぜだと思いますか?

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる