呉勝浩が語る、新作『スワン』で“銃乱射事件”を描いた理由 「乗り越えられない悲劇に向き合いたかった」

呉勝浩が語る、新作『スワン』で“銃乱射事件”を描いた理由 「乗り越えられない悲劇に向き合いたかった」

物語を登場人物が進めていく感覚

――なぜ主人公を女子高生にして、重い運命を背負わせたのでしょうか?

呉:最初はまったく主人公にするという気持ちもなく、10代の女の子が出てくることしか考えていませんでした。とりあえず事件と、サバイバーズ・ギルトの格好も作ろうと思っていたので、誰かは生き残るだろうと。生き残らないと話にはならないので(笑)。あと警備員が出てくるので、その2人の視点にしようと途中までは思っていたのですが、事件が終わりそうなときに、これはもう女の子だけの話にしようとなりました。だから、書き始めたときは何も決まっていませんでした。

――登場人物が物語を進めていったということでしょうか?

呉:そうですね。それは受け入れるタイプなので。書いているうちに「この子が主人公らしいぞ」と教えてもらう感じでした。いつもは、書き始めに主人公くらいは決まっていますが、今回は本当に何もない状態で始めています。

――日本という国でどのように銃乱射事件を表現するのかが気になっていたのですが、3Dプリンターで銃を作るというのは予想外でした。

呉:これは担当編集も調べてくれました。海外のサイトなどで話題になっていて、「実際にできるらしい」となって。でも、あまり詳しく書いてしまうのは問題なので、弾薬の作成や火薬の入手などについてはぼんやりさせて書きました。

――詳しい内容でなくても、弾薬や火薬のことに触れられているだけで、「日本で銃を使う」ということがリアルに感じられました。

呉:リアルに可能かどうかは実は大事ではないのですが、「描写に手を抜いて真剣に読む気がしない」と思われるのは避けたかった。フィクションなので、どこまでも手抜きしようと思えばできてしまうので、最低限のことはやりました。

――3Dプリンターというアイディアは、「銃乱射」というものが先にあって出てきたものですか?

呉:ほぼ同時ですね。最初は“教室で猟銃”という考えもあったのですが、やっぱりもっと広いところにしようと。それなら持って動きやすい方が、演出的にいいなと思っていたときに、3Dプリンターが頭に浮かびました。

――そういうディティールがあることも関係あると思うのですが、呉さんの作品は頭で映像にしやすいです。そこはいつも意識していますか?

呉:そうですね。こちらも映像が浮かぶ方が書きやすい。映像に頼りすぎてるのでは? と自分でも感じてしまうことがありますが、それが自分の資質でもあるので。今回もショッピングモールという、横にも縦にも抜けのある環境というなかで犯人が現れる。そういう映像が頭にあって書き進めていきました。

ーーショッピングモールの場面の後に、被害者を集めるという発想はどこから浮かんだのでしょうか?

呉:事件パートを書いている終わりくらいに浮かんだんですが、事件だけだとどうにもならないので、「じゃあ集めてみよう」と。グループ・カウンセリングという案も浮かんだのですが、それだと真面目すぎる話になってしまう。僕は面白くなければ読んでもらえないと、どんなテーマの小説を書くときにも思っているので、思いっきりミステリー仕立ての「お茶会」をやってみようと。でも最初のお茶会のときには、まだ何をどうミステリーにするかも決まっていなくて。あそこで放り込んだ謎も、当初は自分でも解けていなかった(笑)。

――本当ですか(笑)?

呉:主人公の片岡いずみが「私はスワンにいませんでした」と言ったときに、自分でも「え? なんでいないの?」となってしまって(笑)。でも、言わせたら面白そうだなと思うと、結局言わせてしまうんです。しかも、面白いと思ったセリフは削れない。もったいない病にかかってしまって。削ったら、自分が行けると思っていた場所に行けなそうな気がするんです。いなかったことにしなければいけない。では、どうすればいいんだ?と考えていくわけです。最初のお茶会は、謎を突散らかして終わりました。

――読者としては、すべて計算だと思って読んでいました。登場人物のセリフも強いので。

呉:書いている途中で2度くらい「どうにもならん」となって、この話を書くのをやめようかと思ったんですよ。「明日、担当編集に電話しよう」とか考えながら、夜にウォーキングしたりしていました。それが2回目のお茶会のシーンを書いてるときに、いずみが「ここまでは予定通りだ」というようなことを、心の声で言うんですが、あれでなんとか乗り切れました。この主人公は何か企んでるなと。

――登場人物に救われたんですね。

呉:まさにそうです。書いてるこっちが「企んでたんだ!」というのが分かって、そこで物語の芯が見えてきました。すでに100ページくらい進んでましたけどね。

――確かに、そこまでは「純粋な被害者」にしか見えないです。

呉:僕はそこで文学的に何かを描くような作家ではないので、あくまでエンターテインメントのお皿に盛りたい。でも、この段階ではお皿もできていなかったわけです。だから本当に助かりましたね。当然、芯が決まってないと物語は書けないんですが、書かないと見つからない。このスパイラルからは逃れられなくて、常に不安です。

 一応、今回でいうと「乗り越えられない悲劇」のような、大きなテーマやビジョンはあるので、そこだけは外さないようにします。それでも、ある段階を超えると、登場人物が言うことを聞かなくなってくるので、難しいんですよ。格好つけた言い方に聞こえますけど、これは本当です。言わせたいことを書こうとするんですけど、それは作者が言わせたいだけで本人の言葉じゃないときもあって……。

――特に本作は犯人以外に、完全な悪意を持った人がいないので、会話の部分は大変そうです。

呉:悪いだけとか、イジワルするだけの人は出さないってことには、毎回気をつけていて。ああいうの大嫌いなんですよ、ただのバカが出てくると冷めますよね。だからギリギリのラインを狙って書いていきました。嫌なことも言わないと盛り上がらないし、でもそれだけで終わらせたくない。それを念頭にやりとりとか、セリフを考えました。読者を嫌な気持ちだけで終わらせたくないので。

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