豪華ミステリー作家が集結『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』小説アンソロジーの見どころ

『わたモテ』小説アンソロジーの面白さ

4、相沢沙呼『夏帆』

 アンソロジー中、最も激しい関係スパークが観測できる1本。手掛けるのは『小説の神様』などの相沢沙呼先生だ。ここで主題になっているのが“加藤さん”こと加藤明日香。この加藤さんは、いわゆるスクールカーストの頂点に立つキャラだ。しかも他のキャラは本編で「心の声」が多いのだが、この加藤さんはそうした描写が1度しかなく、完璧だが何を考えているかは(まだ)分からない人物。そのミステリアスさも重要な魅力の一つだ。内面に踏み込むのは難しいし、一歩間違えれば魅力を削ぎかねない。そこでタイトル通り夏帆(かほ)という加藤さんの友だちキャラを主人公に、加藤さんの人物像を外から見える範囲で描く作戦に出ている。かつて地味で自分に自信がなかった夏帆が、加藤さんと出会ってどう変わったか? そしてこれからどう変わってゆくか? こうした切り口から夏帆と加藤さんの関係性を掘り下げてゆく。巧みな手腕が輝く1本だ。

5、円居挽『モテないしラブホに行く』

 トリを飾るのは『ルヴォワール』シリーズを手掛けた円居挽先生。1人だけ中編の分量なのが恐ろしい。今回はミステリー要素を入れつつ、黒木智子と田村ゆりをラブホに行かせるアクロバットな技を見せている。田村ゆりは智子を取り巻く中でも特に目立つキャラクター。先述の根元陽菜は口数も多く、感情表現も豊かだが、ゆりはその対極に位置する。表情を変えず、感情を表に出さない。そして智子の奇行には暴力で対応する。そんな2人をラブホに放り込んだ時点で勝利と言えるだろう。謎解きと瑞々しい青春を描きつつ、最後はコメディタッチで落とすのも心憎い。原作を上手く自分のフィールドに引き込んだ作品だ。

 駆け足気味で申し訳ないが、以上が各作品のざっくりした内容だ。それぞれの作家のカラーがハッキリと出ており、アンソロジーの名に恥じない1冊だ。何より普通は実現しない本であるし、何年か経ったら「あれは何だったんだ? 面白かったけど……」と振り返ることになるだろう。いい意味の奇書であるのは間違いない。

■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

■書籍情報
『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 小説アンソロジー』
谷川ニコ、辻真先、青崎有吾、相沢沙呼、円居挽
出版社:講談社(星海社FICTIONS) 
価格:¥1,595(税込)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「カルチャー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる