作曲は“モード”から始めるべし? 『作曲の科学』が伝える、異色の作曲理論
また、作曲を「『モード』から始めるべし」と提言しているところも面白い。一般的な理論書ではメジャースケールなど、誰もが慣れ親しんでいる音階を題材にして説明されることが多く、最初からモードを使うアプローチはほとんど聞いたことがない。
私はどうして、そのスタンダードな道を避けたのか?
その道筋がおそろしく単調で個性の見えない、ありきたりな曲作りに突き当たりそうでいやだったからです。
教会旋法(モード)という“非日常”にトリップしてもらうほうが、きっと楽しいはず!──そう考えての私独自の教育法でした。(本書より引用)
苦行のようなお勉強を良しとせず、「楽しむこと」を最優先する著者のこのような姿勢は全編で貫かれている。ややもすると辞書的な羅列になる理論的な知識を、音楽の歴史と絡めたストーリーで説明しているのも、そうした配慮のひとつだろう。
21世紀の現在、私たちが日々、耳にしているポップスやロックミュージックは、いったいどんな理論に基づいて作曲されているのでしょうか?
意外に思われるかもしれませんが、かつてクラシックの巨匠たちが「もう飽きた!」と一蹴した、あのラモーによって18世紀に確立された和声学に基づいているのです。
ジャズや現代音楽で多用されている不協和音を「野蛮な音」とよんでいた18世紀の感性で、20世紀後半以降のロックが作られている。ロックミュージックの存在意義を考えると、じつに面白い状況です。(本書より引用)
過去から現在までを広く俯瞰する本書の歴史的視点は時にスリリングでもあり、本書の大きな魅力になっている。特設サイトではオリジナル曲を含む数多くの連動音源が用意されており、活字だけでなく耳からの理解を促してくれるのも嬉しいポイントだ。
クラシックからジャズ、それにアフリカ音楽を始めとするワールド・ミュージックまでを渉猟し、従来の音楽理論を超越した「メディタミュージック」と呼ばれる独創性溢れる音楽を展開している著者。その広大なバックグラウンドから語られる音楽のセオリーは理路整然としており、懐が深い。
作曲とは数学である。(本書より引用)
冒頭でこんなことが書かれているとおり、本書はなかなか捉えづらい音楽のメカニズムを簡明に表現してくれている。
■熊谷和樹(くまがい かずき)
1985年生まれ。ライター/編集者/カメラマン。音楽系メディアを中心に活動中。
『作曲の科学 美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」』
フランソワ・デュボワ 著、井上喜惟 監修、木村彩 翻訳
価格:本体1,000円+税
発売/発行:講談社(ブルーバックス)