tofubeats × imdkm『リズムから考えるJ-POP史』対談 「イノベーションの瞬間を記録している」

宇多田ヒカルのリズム解像度

tofubeats:実際そういうことがわかると、音楽の楽しみ方が変わりますよね。宇多田さんの曲もimdkmさんの解説を踏まえて聴くと、楽曲に対する粒度がより細かくなるので、全部の音楽の楽しみ方が変わってくると思うんです。実は会場に居る人も、無意識のうちにそういう体験を経ているんですよね。それを改めてこの本で見返して、こういうことだったのかって思ったりできますね。あと、解説で書こうと思って書かなかった話なんですけど、僕の祖父が今老人ホームに住んでいて。tofubeatsの「RIVER」を、ある日突然歌ってくれたんですよ。メロディも歌詞もちゃんと歌えてるんですけど、リズムがやっぱり違う。僕らからしたら、すごく簡単なリズムじゃないですか。でも上の世代の人にはこのリズムの解像度がない。〇〇節とかは上手く歌えるし、ジルバとかも踊れるんですけど、「RIVER」のリズムは身体に入ってないんですよね。実はJ-POPの中ではそういうことが何回も起きていて。世代が40~50年離れるだけで、それだけ断絶が出来るのはすごく面白いな、と思いました。
これからimdkmが書きたいこと

tofubeats:宇多田さんが純文学好きということはよく言われてますけど。その辺りを楽曲と絡めてちゃんと書いた論評って、実はあまり知らなくて。
imdkm:純文学と言っても、隠喩とかモチーフレベルでの分析批評みたいなのはあるんだけども、萩原朔太郎さんの詩論で言われているのはそういうことじゃない。“日本語を操る”こと自体に宿るクリエイティビティの話を物凄く原理的にしているので。
tofubeats:我々が日本語で歌詞を書くのと、宇多田さんが日本語で歌詞を書くのはそもそも違いますからね。imdkmさんの次回作も期待したいですね。
<質疑応答タイム>
質問:中村佳穂さんのリズムの話について書くことはありますか?
imdkm:いまは見れませんが一つだけnoteに書きましたね。先日リリースされた「LINDY」は、意識的に日本に土着的なリズム構造を取り入れて、実践しているのがすごく面白くて。途中で祭囃子みたいなビートが入ってきたりして、それが特に日本の民謡などに通じるリズム感覚をダンサンブルな形で表現している。それに関する分析はしたいと思ってますね。あとライブ中、バンドの中で中村佳穂さんが、楽曲のリズムや演奏法をスイッチングしていくくだりがあるんですよ。そこでバンドメンバーに無茶ぶりをするんですが、そこで突然数字を言い出すんです。最初は10とか1とかだったんですよね。それが突然「今日は44!」と言い出して。その言った数字の分、「ダン!ダン!ダン!」ってリズムのキメをやる。だからそれを44回やるわけですよ。この間は100を超えたんですけど、衝撃的だったのが途中で倍速になるっていう(笑)。
tofubeats:中村さんは、初めてレコーディングしたときからリズム感が“ネクストジェネレーション”って感じでしたね。我々はギリ小室世代のリズムなんですけど、中村さんには宇多田以降のリズム感があるんですよね。
質問:以前、久保健司さんが「日本の音楽のダメなところは、ドラムのサウンドを気にしないところだ。ニルヴァーナはスネアの音ひとつにもこだわってるから売れてる。そういうのが日本にはない」と仰っていましたが、そういった音色に関して思うことがあれば教えてください。
imdkm:本ではサカナクションの話をしていますね。サカナクションは、一つひとつの音のトーン、チューニングの具合やリズムの立ち上がりの感覚、一つひとつの音の長さのレベルで、ロックにおけるグルーヴ感の出し方をかなり意識的にコントロールしている。他のダンスっぽいロックとは違う、繊細なアプローチをしているんですよね。音色レベルでの議論はこの本の中ではそんなにないんですけど、僕は彼らのサウンドの凝り方が面白いなと思ってます。
tofubeats:そもそも音色が良い状態を定義するのって難しいですよね。海外でいいとされてるスネアの音と、日本でいいとされてるスネアの音は当然違うし。たとえば、スペクトラムっていうバンドのLPはすごく音がいいんですよ。でも、全く洋楽っぽくはないんですよね。tofubeatsの曲を聴いてたらわかると思うんですけど、僕は結構ペナペナな音が好きなんです。でも洋楽もいいなとも思うし。そこら辺はそもそも方角が違うっていうか。もちろん海外の音楽はミックスもキレイで、それを目指すべきだとも思うんですけど、そこを一直線に語れない難しさもあって。そういうところで悩んでるクリエイターって多いんじゃないですかね。
(取材・構成=南明歩/写真=泉夏音)

■発売情報
imdkm『リズムから考えるJ-POP史』
【ISBN】978-4-909852-03-8 C0073
【発行・発売】blueprint
【発売日】2019年10月3日(木)予定
【価格】1,800円+税
【判型・頁数】四六判・二百六十四頁
【取扱】全国書店/Amazonにて予約受付中


















