時短レシピ本、本当におすすめなのは? 現役主婦ライターがレシピを実践

   “時短レシピ”を謳う本が近年、書店の棚で幅を利かせている。ただでさえ競争の激しいレシピ本シーンにおいて、なぜここまで“時短レシピ”本は支持され続けるのか。その魅力に迫るため、『凍ったまますぐ使える 1人分冷凍パック』(大和書房)、『No.1家事代行「ベアーズ」式 楽ラクうちごはん』(世界文化社)、『やせる!作りおき&帰って10分おかず330』(新星出版社)の三冊を取り上げ、実際に家事に励むお母さんでもあるライターの大信トモコ氏がそのレシピ通りに調理。それぞれの魅力をレポートしてもらった。(編集部)

『凍ったまますぐ使える 1人分冷凍パック』

村上祥子著『凍ったまますぐ使える 1人分冷凍パック』(大和書房)

   忙しい時ほど立ちはだかる献立づくりの壁。「パパっとつくれておいしいのは……えーと……」と考えあぐねる脳内の片隅で、「準備も後片付けも楽なヤツね!」と、わがままな自分が「とりあえず生ね!」くらいの軽いテンションで、囁いてくれちゃったりするのは私だけではないでしょう。今回は、そんな私と同類の皆さんに、ナイスな時短レシピ本を3冊紹介したい。まずは人気料理研究家の村上祥子著の『凍ったまますぐ使える 1人分冷凍パック』(大和書房)から。さすがは2019年7月10日付けで初版が、同月25日に第2刷が出たほどのベストセラー。手にしたその日から役立った。

   本書をざっくり説明すると、「一人分の肉と野菜を食べやすく切ってフリージングバッグに入れて冷凍したものを使ったレシピ集」である。いうなれば、自家製ミールキットづくりの本だ。あらかじめ材料を食べやすい大きさに切って冷凍保存しておけば、下ごしらえにかかる時間を節約でき、思い立ったときに食事の支度に取りかかれる手軽さが良い。そして、その調理法は最初から最後までぜ~んぶレンチン。

 「後片付けも料理のうち」というが、火を使わない、つまり鍋やフライパンなどの調理器具の出番がないため油汚れと対峙することもない。しかもほとんどのレシピで3分から6分ほど、長いものでも10分しかレンジ時間を要しないから、調理時間の短縮にももってこい。それでいて栄養面も考慮されているのが本書の高ポイントなところ。なんと、1人分の冷凍パックそれぞれに1回の食事に必要なたんぱく質食材50gと野菜100gが入るよう、きちんと計算されている。さらに著者の村上先生いわく「鍋で煮るよりも水の量を減らせて栄養成分が流れ出にくいから、栄養素を逃さず調理できる」。なるほど。ファイトケミカルの宝庫である野菜が無駄なく取れる。ということは、免疫力アップへの近道にもなるはず。忙しいと、おろそかになりがちな栄養管理もしっかりフォローしてくれるなんて、村上さん、こころのお母さんと呼んでいいですか? 

 本書に登場する食材は、すでに家にあったり、スーパーで手に入れやすかったり、料理初心者にもとてもとっつきやすいものばかり。筆者もいざやってみよう!と夜中に思い立ったが、近所のスーパーで難なく用意が整った。記念すべき最初の自家製冷凍ミールキットは「サラダチキン+豆もやし+小松菜」。まずはトントントンと材料を切っていく。ゴールが見えるシンプル仕立てなレシピのおかげで、包丁さばきも気分も軽いのだ。トントントンのトントン拍子だ。
  

   カットした小松菜と、ほぐしたサラダチキン、そしてありのままの豆もやしをフリージングバッグにおさめ、冷凍庫にしまったら、下準備はおしまい。村上先生いわく「大きさは多少不揃いでも電子レンジ調理なら均一に火が通るからOK」とのこと。また、「レシピはあくまでも目安。レシピ通りの分量でなくてもOK」「なければないで家にあるものを代わりの食材としてもOK」とも書かれている。なんだなんだ、ここはレシピブック界のOK牧場か?と思うぐらいOKだらけで、ゆるい。縛りのない優しい世界。お母さん、聞こえますか。「私、おいしさを味わう前に解放感を得てしまっています。今」。 

   朝がきて、凍らせの儀を経た冷凍パックを取り出してみた。夕べ切ったときのままカキーンと凍る姿は、『スターウォーズ/帝国の逆襲』でカーボン冷凍されてしまったハン・ソロを彷彿とさせるが、映画のように手はかからないぜ。耐熱容器に移してチーン。はい、解凍完了。

 
 つくってみたのはチキンカスクート。カスクートはバゲットに肉や野菜などの具材を挟んだパリ発祥のサンドイッチで、本書での味付けは潔く粒マスタードのみ。冷凍キットを600Wで3分レンチンしたら、粒マスタードを塗ったバゲットに挟むだけ。たったのそれだけで、見た目もおしゃれなチキンカスクートがあっというまに完成した。びっくりしたのは、その味。調味料が粒マスタードのみなんて信じられないおいしさ、各素材の味がとても濃く感じられる。噛みしめるたびに、バゲット、サラダチキン、粒マスタードそれぞれに含まれた塩気が、野菜の味をがっちりバックアップしてちょうどいい塩梅なのだ。初めてのおいしさにアゴも喜んでいる。

 
 じつは買ってきた材料でもう1つ冷凍パックをつくっておいたので、スープにも展開してみた。レシピ通り、耐熱容器に凍った具材、チキンコンソメ(顆粒の鶏ガラスープの素)と塩コショウ、水を入れ、レンチン6分。サラダチキンから出たうまみの効いたこのスープは、麺やごはんも頼もしく受け止めてくれるだろう。

   本書で紹介されている各フリージングバッグにはそれぞれ「おかず」「主食」「汁物」など、和洋中3通りのレシピがついている。例えばこの冷凍サラダチキン軍団に味噌を足せば、ちゃんちゃん焼き風にもなるとのこと。味付け前に冷凍するから、具だくさんなインスタントラーメンなど、本には載っていない料理へのアレンジも効かせやすそうだ。この本で冷凍保存のコツをつかめば、せっかく買った材料を余らせてしまう悲劇を回避できるから、時短はもとより経済的なメリットにもつながる。村上先生のいう「冷凍に向かない食材はほとんどありません」を信じて、余りそうな食材はどんどん冷凍していこうと心に決めた。

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