星野源が貫くミュージシャンとしてのあるべき姿 『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』“ばらばら”の世界に向けて

星野源が貫くミュージシャンとしてのあるべき姿 『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』“ばらばら”の世界に向けて

世界は ひとつじゃない
ああ そのまま ばらばらのまま
世界は ひとつになれない
そのまま どこかにいこう

 これは2010年に発売された星野源の1stアルバム『ばかのうた』の1曲目「ばらばら」の冒頭の一節だ。この曲について当時のインタビューで彼はこう言っている。

みんながばらばらなことを考えながら集団を持続させていくのって、むちゃくちゃめんどくさいんですけど、それが健全なんじゃないかなと思います。ばらばらのままでも「ひとつ」のものを生み出せるだろうっていう、そんな歌だと思います。
(参照:CINRA.NET

 安易に「世界をひとつに」などと言わずに、お互いの違いを認めながらも先へ進んで行こうという、彼らしい現代的な感覚を持ったタイトルだと思う。

 そしてこの“ばらばら”の4文字は、2017年に始まった『おげんさんといっしょ』の初回放送時から掛けてある、おげんさんの家の欄間額の言葉でもある。もちろん今回放送された『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』(NHK総合)でもおげんさん人形のすぐ後ろに飾ってあって、いつも以上に強い存在感を放っていた。

 まさかこの4文字が、2020年を生きる私たちが置かれている状況を物理的な面でも、あるいは気持ちの面でも端的に示す言葉になろうとは誰が予想しただろうか。もとより気持ちの面ではとっくの昔から“ばらばら”だったのかもしれないが、物理的にもまさに“ばらばら”になってしまうとは思いもよらなかった。

 思い返せば、3回目となった昨年の放送も台風19号が日本列島を襲った週の直後の月曜日のオンエアだった。それゆえに視聴者の期待も大きく、放送前からハッシュタグ「#おげんさん」はトレンド入りし、Twitterのトレンドワードランキングでは世界1位を記録するなど大きな反響が寄せられたという。それは、ある種の枯渇感がもたらしたのだと思う。

 現在、国内の新型コロナウイルスの感染状況はひと頃より落ち着いたものの、まだ予断を許さない状態であり、またいつ第2波が襲ってくるか分からない。いつまでこの生活が続くのか、先の見えない不安が覆っている。だからこそ私たちは、人形化した可愛らしいおげんさんファミリーの見せるたわいのない日常的なやり取りに癒されるのだろう。

 加えて、4月に始まった「うちで踊ろう」企画は、誰もが“ばらばら”な状況でも楽しむことができる貴重な参加型のエンターテインメントのひとつとなっている。番組で彼はこの企画について改めて次のように語った。

「3月の真ん中ぐらいから、これから家の中でしばらく過ごすことになるんだろうなと海外の様子を見て思った」

「その中で、きっと少しずつみんなストレスが溜まっていったりだとか、苦しい時間が増えてくるんじゃないのかなというのを予想して、そうなる前に何かできないかと考えて、じゃあ一曲歌を作って、いろんな方が自由に演奏を重ねていいですよ、ダンスとかイラストとか重ねていいですよっていう曲を作ったら楽しいんじゃないのかなって」

 実際この企画はムーブメントと言える規模にまで膨れ上がり、多くの人びとが楽しめるものになっている(星野源「うちで踊ろう」はなぜ一大ムーブメントとなったのか? 3つのポイントから考察)。

 また、タイトルの“うち”に込めた二重の意味についても続けて明かした。

「お家で過ごすだけではない人がいる。どうしても仕事に出ないといけない方々とか」

「(僕たちが)家でじっとしていられるのは、働いている人がいるおかげだなと思う。だから、そういう人たちに対して“家の中にいよう”とは言えない。そういう人たちも参加できるものにしたいなと思った」

「“おうち”から“お”を取って“うち”にすれば、“心のうち”という言葉があるから、心の内側で踊るっていう意味になる。“心で踊ろう”という歌にもなる」

 些細なことだと思われるかもしれないが、こうした細部へのこだわりは大切なことだと筆者は思う。こうして作品に“理念”を組み込んでいるからこそ、iPhoneで撮った簡易的な動画であってもここまで広く共感を呼ぶのだ。

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