キュウソネコカミと盟友たちが刻んだ“ロックバンド”を続ける意義 愛溢れた『極楽鼠浄土』を完全レポート

キュウソ10周年記念『極楽鼠浄土』レポ

キュウソネコカミ

 ソゴウタイスケ(Dr)のどデカい2発から「ウィーワーインディーズバンド!!」でスタートダッシュを切った主催・キュウソネコカミは、「メジャー10年、ついに、ワールド記念ホール売り切れたー!」と喜びを爆発させ、「MEGA SHAKE IT !」「ファントムヴァイブレーション」「ビビった」を束ねていく。のちにヤマサキ(Vo/Gt)は「ここにきてワールドを売り切るのがキュウソっぽい」と称していたが、ライブハウスのステージを踏みしめながら到達した今夜は、間違いなく彼らにとって1つの到達点であり、その軌跡は時にファニーな、しかし正鵠を得た時代への視線と不可分であった。

 ヨコタシンノスケ(Key/Vo)が鳴らすイントロに大歓声が湧出した「ファントムヴァイブレーション」や毒を以て毒を制すようなざらつくオカザワカズマ(Gt)のプレイと、社会を制すようなリリックが印象的な「正義マン」、ギザギザとした世界に足を救われる様子をしたためることによって逆説的にハートフルでいることを促す「囚」も、容易に変貌していくディストピアを世の中のもどかしさを表現したナンバーなのである。

ヤマサキセイヤ(Vo/Gt)
ヤマサキセイヤ(Vo/Gt)
ヨコタシンノスケ(Key/Vo)
ヨコタシンノスケ(Key/Vo)
オカザワカズマ(Gt)
オカザワカズマ(Gt)
ソゴウタイスケ(Dr)
ソゴウタイスケ(Dr)

 こうした同時代性と、キュウソを貫いてきたロックバンドとしての責任感が手を結んだ1曲が、「ロックバンドを続けるというのは難しい面もたくさんあります。10年、15年と転がり続ける難しさを知っているからこそ、今日、どのバンドを見ても目頭が熱くなりました。これからも、ロックバンドを、皆さんと、今日出演していたバンド、そして今日出られなかったたくさんの仲間たちに向けて、この曲を歌いたいと思います」と演奏された「The band」。〈ロックバンドでありたいだけ〉と最奥に抱き続けてきた創作の源泉をシャウトする同曲は、自分たちに向けた鼓舞として、そして力を貸してくれた仲間たちに対する「これからも一緒に戦おう」というメッセージとして充満していく。上行形をなぞる音階で伝えられた〈新曲ありがとぉぉぉ!!!〉の一節は、今この瞬間を分かち合える尊さと、偶然同じものを好きになれたことへの歓喜で溢れていた。

 アリーナスケールの舞台らしい炎の特効が炸裂した「DQNなりたい、40代で死にたい」を終えて投入された「何も無い休日」では、オレンジと紫を基調とした夕暮れ時を彷彿とさせるライティングの中をひとりごつヤマサキの歌声が流れていく。夕焼けに縋りつくみたいに、ダメな自分を受け入れようとする態度は、ヨコタが語った「君たちがいて、俺たちがいたら、そこが極楽鼠浄土だと思います。だから、しんどくなったらいつでも俺たちが音を鳴らしている場所に来てください」というイベントに込めた思いと表裏一体。完璧でなくとも、転んで傷だらけでもそれをよしとできたなら、気持ちは少しでも上昇するはず。エンディングを彩った「ハッピーポンコツ」で響き渡った〈ハッピーポンコツインザワールド〉の特大合唱は、集った一人ひとりがセルフハグを交わした証左であると同時に、キュウソからオーディエンスに対する巨大なラブソングが打ち立てた絶景にほかならなかった。

 アンコールでは、「家」の演奏とともに結成15周年47都道府県ツアー『感謝の鼠回り』と『極楽鼠浄土2026』の開催を発表。大胆かつ慎重に戦い方を探してきたキュウソの歩幅を綴る「ネコカミたい」で記念すべき『極楽鼠浄土』初回の幕を降ろした。もちろん、メンバーそれぞれが感傷的な表情を浮かべることもあったけれど、戦友たちとメジャーデビュー10周年の祝杯を上げた本イベントは、ともすればさらに情緒的な余韻に浸るステージになってもおかしくはなかったはず。しかし、『極楽鼠浄土』は修行を積んできた各バンドが真っ向からぶつかる舞台や、キュウソからファンに対する感謝を伝える場として機能していたように思う。

 エポックメイキングな1日をライブハウスの延長線上に位置づけられた背景は、キュウソの人生がまだまだ続くためであり、〈死ぬまで一生ネコカミたい〉〈俺らとあんたの人生をまだまだ続けていたい〉と誓ってくれているから。時に及び腰になりながらも、世間へ切り込み、食らいつき、私たちの鬱蒼と陰った感情を確かに上向きにするバンド・キュウソネコカミ。この先も彼らは音楽を鳴らし続けてくれるだろう。

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