CEIPAとTOYOTA GROUPの共創プロジェクト「MUSIC WAY PROJECT」始動の経緯とは? 共同記者会見をレポート

一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会(CEIPA)とTOYOTA GROUPが、本質的な日本音楽産業のグローバル化、持続的な成長支援・推進する共創プロジェクトとして「MUSIC WAY PROJECT」を始動。2月25日に行われた共同記者会見にCEIPA理事長の村松俊亮氏、TOYOTA GROUP代表の豊田章男氏、作曲家・文化庁長官の都倉俊一氏が登壇した。
「MUSIC WAY PROJECT」では、「日本の音楽が世界をドライブする」を合言葉に、音楽で世界に挑戦する人たちの「人づくり」と「場づくり」にフォーカス。「人づくり」では、音楽を志す未来ある若者の道しるべとなるべく、学生人材のための寄付講座や業界若手の育成、クリエイターとのワークショップなど、海外で活躍する才能を磨いていく。「場づくり」においては、国内外への文化発信を目指し、国内では、本年秋に開業するTOYOTA ARENA TOKYOを活用。また、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各都市にて日本音楽の魅力を伝えるショーケースライブを展開する。さらに、販売拠点は170以上、製造拠点はおよそ30ほどあるというTOYOTA GROUPの海外拠点と連携し、海外活動の足掛かりとなるリレーション活動をサポートするという。
CEIPAとTOYOTA GROUPは、まず3月にアメリカで開催される Ado、新しい学校のリーダーズ、YOASOBIが出演するグローバルショーケース『matsuri ‘25:Japanese Music Experience LOS ANGELES』や『SXSW TOKYO CALLING x INSPIRED BY TOKYO showcase』のサポート、CEIPAが今年初開催する国際音楽賞『MUSIC AWARDS JAPAN』へのトップパートナーとしての参加という形で連携していく。

会見冒頭、村松氏は「主要音楽5団体が集結し、日本のエンターテインメント産業を拡大しグローバルへ発信するために設立したのがCEIPAです。日本音楽の未来を切り開いていく若者たちが、国境を越えてつながる“道”を用意したい。そのために必要な“人づくり”と“場づくり”を推進するプロジェクトを展開していきます」と、本プロジェクトの趣旨を説明。続けて「音楽はアーティストがファンの前でパフォーマンスすることでダイレクトに魅力が伝わります。その衝撃はSNS等によってあっという間に波及していく強みがあるはずです。ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手はアメリカだけでなく世界を席巻しています。『matsuri ‘25』に出演する3組のアーティストは、音楽というフィールドで彼と同じくらいのパワーを持っていると我々は信じています。大谷選手がメジャーリーグに挑戦できたような環境をこれから我々が音楽のフィールドで作っていきます。日本の音楽が世界のニュースタンダードとなることを目指して、今後世界各地で継続的にライブを開催していきたい」と、ライブエンターテインメントの海外展開に対する思いも語った。



「この我々の思いに共感いただき、力を貸してくださる最強に力強いサポーター」として紹介されたのが、TOYOTA GROUP会長の豊田氏だ。輸出額では、音楽を含むコンテンツ産業約5.8兆円に対し、自動車産業は約22兆円。日本の産業を牽引する自動車業界の最大手が、なぜ今回音楽業界と組むことになったのか。

「私は2009年から2023年までの14年間、トヨタ自動車で社長をやらせていただきました。当時の私の原動力が何だったかを振り返ると、日本が大好きという思いに尽きると思います。とにかく私は日本が大好きなんです。だからこそ、世界から必要とされる日本であり続けてほしいと思っています。円高の時もものづくりの力を失っちゃいけないと信じて工場を続けることにこだわりました。そんな私は日本を飛び出して世界に挑戦する日本人を見ると応援したくなります。イチロー選手のように、そこを極め世界から認められる人のことを心から尊敬しております。野球に限らず、バスケの八村塁選手、そしてエンタメの世界でもアンナ・サワイさんなどたくさんの方が活躍されています。そんな若者たちの活躍に、私はいつも胸を躍らせています。WBCやワールドカップでは、熱狂的に応援する多くのサポーターの姿も目にいたします。50年前、私自身もフィールドホッケーの日本代表でした。日の丸を背負う誇りや応援で得られるパワーは本当にすごかったと今でも記憶しております。オリンピックやパラリンピックで選手たちが応援されている姿を見ていますと、自分まで勇気づけられる気がしてまいります。ただ、悔しく感じることもありました。例えば、モータースポーツ。世界に挑戦する若者がいますが、残念ながらその応援は野球やバスケほどではありません。さらに言えば、我々自動車産業も日本代表として戦っているつもりですが、なぜか日本ではそのことを理解してもらえていないと感じます。そんな悔しさを感じている時にCEIPAのみなさんや都倉さんにお会いいたしました。そこで日本のエンタメもやはり日本のために世界で戦おうとしていることを知りました。私は純粋にそれを応援したいと思いました。

車には、数値で表すスペックというものがございます。以前のトヨタは、車の良さをこうしたスペックで語っておりました。車は量産品です。均一に作らなくてはいけません。こうした数値が大切だということは分かっております。しかし、私が考える車の良さは数値だけで示せるものではありません。車はもっとエモーショナルなものだと思っております。私自身、ドライバーとして車の開発に関わっておりますが、大切にしているのは体に伝わってくる乗り味です。数値ではありません。そうして作られた車には、ストーリーが宿っています。数値も大事ですが、私は一台一台に込められたストーリーをもっと大切にしていきたいと考えております。

音楽には一曲一曲に作者の込めたストーリーが宿っています。さらに面白いのは、聴く人によってもそれぞれの思い出、それぞれのストーリーが存在するということです。私は車をもっともっとエモーショナルな存在にしていきたいと願っております。私たちトヨタは、音楽から学ぶべきことがまだまだたくさんあると感じました。私自身、音楽の世界とは遠いところにいたと思いますが、TOYOTA GROUPとして色々なことを学ばせていただきながら、日本のエンタメがもっと世界に認められるようなものになるために何かお手伝いをさせていただきたいと考えております」(豊田氏)

都倉氏は両名のプレゼンテーションを受けて、音楽家として単独で海外に挑戦しなければならなかった長年の苦悩を振り返りつつ、「自分としても、若いアーティストがいかに自分たちの素晴らしい作品、また自分たちのエネルギーを世界に発信する最短距離を作ってあげたいという気持ちで、村松さんとCEIPAのみなさんとお話をいたしました」と語り、音楽を始めとした文化芸術を産業として育成することの必要性とともに、数字だけでは測れない価値についても言及。豊田氏への感謝の言葉とともに日本の音楽の新しい出発にエールを送った。