経済産業省「音楽ビジネス報告書」を深読み アニメタイアップ=海外ヒットという好況への懸念
経済産業省から「音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書」が発表された(※1、2)。
約80ページにわたる同レポートは、ストリーミングが主流になりつつある音楽産業の構造、SNSでの拡散がヒットの起爆剤となる現状を踏まえて、音楽を巡る状況を分析している。
特に興味深いのが、冒頭のエグゼクティブサマリーから「日本の音楽産業全体の拡大には、海外展開が必要不可欠な状況にある」と位置づけているところだ。
マクロな人口動態推移を見ると、日本の人口ピラミッドは少子高齢化が進み、若い世代の割合が減少しつつある。一方で、世界全体の音楽市場は今後も大きく成長していくと予測されている。
そして、日本の音楽文化の特徴を「多様性」と「蓄積」と位置づけている。これまで数十年にわたるポップミュージックの歴史の積み重ねがあり、今それらの楽曲の多くを聴くことができる環境にあること。特に近年ではボーカロイド文化など独自の創作文化が育まれてきたこと。そうしたオリジナリティが海外展開における強みになる、としている。
では、近年大きく変化を遂げている国内アーティストの海外展開については、どんな現状があり、この先に向けてどんな課題があるのか。同レポートをもとに考察したい。
現在の“海外ヒット”の状況整理
まず前提として言えるのは、「海外」という言葉では事象を捉えるための解像度が低すぎるということだ。それがアジアなのかアメリカなのかヨーロッパなのか、それによって状況は異なる。
同レポートでは、スポティファイジャパン株式会社の発表している「海外で聴かれた日本の楽曲ランキング」(※3)に加えて、昨年にBillboard JAPANがローンチしたチャート「Global Japan Songs Excl. Japan」(※4)を分析し、主要国における日本の音楽の受容をまとめている。
全体的に言えば、まず大きいのは、やはりアニメとのタイアップだ。
前述の「海外で聴かれた日本の楽曲ランキング」では、2017年から2023年上位の曲のうち、約6割である65曲中39曲(延べ数)が日本のアニメ、マンガ、ゲームの関連曲。YOASOBI「アイドル」、米津玄師「KICK BACK」、LiSA「紅蓮華」など、人気アニメの主題歌が上位に並んでいる。
一方で、ここ最近は、アニメとは関係なく、SNSのバイラルによって海外に広まる楽曲も増えてきている。TikTokやYouTubeなどで二次創作が広まることによって楽曲が伝播する形のヒットだ。同ランキングで2022年と2023年の1位となった藤井 風「死ぬのがいいわ」、2023年の4位となったimase「NIGHT DANCER」がその代表だろう。
また、XGのようにファンダムを形成し、人気につなげているような例もある。
「Global Japan Songs Excl. Japan」チャートを見ると、より詳しい状況も見えてくる。
たとえばアメリカ、イギリス、フランス、インド、ブラジルなどではアニメタイアップ曲の人気が高く、一方で、韓国、タイ、シンガポールなどアジア各国ではアニメタイアップ曲が人気の上位に占める割合は小さい。
アーティストごとの国別ポイント構成比も興味深い。例えば優里やOfficial髭男dismは特に韓国でポイントが高く、SiMやLiSAは特にアメリカでポイントが高い。RADWIMPSと藤井 風はインドのポイントが韓国やアメリカに匹敵する高さとなっている。