リアルサウンド連載「From Editors」第88回:『Apex Legends』という沼から出られない
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
第88回は、いま『龍が如く8』をプレイしながら“漢”とは何かを考え続けている伊藤が担当します。
初FPSによって変わった価値観
夢を見ているときって、できないことがあるじゃないですか。
代表的なところだと声が出なかったり、上手く走れなかったり。自分はあることを始めてから、この“できないことラインアップ”に新しい項目が加わりました。それは、“銃を撃てない”です。……いや別に物騒な話ではないのです。もっと正確に言うと、“Apexで銃が撃てない”です。
そう、バトルロイヤル型FPSゲーム『Apex Legends』(以下、『Apex』)にハマってからというもの、「いま攻撃すれば絶対に勝てる!!」というタイミングで、上手く銃を撃つことができずに負けてしまうという新たな夢を見るようになりました。
『Apex』とは何なのかというと、いわゆる“バトロワ”と呼ばれる形式での対人対戦ゲームでして、広大なマップに3人1組(自分以外もコンピューターではなくどこかの誰か)で降り立ち、銃やグレネード、回復アイテムなどを拾って最後の1チームになるまで戦うというシステムです。自分はオンライン対戦のFPSに『Apex』で初めて触れたのですが、この新しいゲーム体験によって、既存の価値観をおおいに揺さぶられました。
まず認識を改めたのが、「“eスポーツ”はスポーツだ」ということです。あまりゲームに触れていない方にとっては、ゲームを“スポーツ”と呼ぶことに抵抗のある方もいるかもしれません。自分もそれなりにゲームを遊んできましたが、どこかで“eスポーツ”を認めていない部分がありました。しかし、今ならはっきり言えます。“eスポーツ”は、スポーツです!
『Apex』では勝利するためには、どんなチーム編成にするのか、いつ攻撃を仕掛けるのか、どの位置を陣取るのかという戦略面から、射撃の正確さ、キャラクターコントロール、立ち回り方などのフィジカル面まで、チーム&個人における高い能力が求められます。プロの試合を観ていると、同じデバイスで操作をしているはずなのに、とても真似のできないスーパープレイの数々が繰り広げられます。その感動は、通常のスポーツ観戦で感じるそれとなんら遜色のないものでした。いやマジで普通に泣けます。
また、「コミュニケーションツール」としての優秀さにも驚きました。本ゲームでは、同じチームの人とは音声で会話をしながら試合を進めることができます。これによって、遠くに住む友人とも『Apex』をきっかけにコミュニケーションを取ることができるのです。自分もSNSで知り合いが『Apex』をやっているのを見つけ、10年ぶりくらいに連絡を取って一緒にゲームを楽しみました。もちろん、一人で気楽に遊びたい場合には、自分のマイクもチームメイトのマイクもオフにして楽しめるのでご安心ください。なお音声を繋がなくても、ボタンひとつで「ありがとう」を伝えられたり、進む方向を示したりできるため、ゲームプレイに支障はありません。すごい。
最後に「ゲームが進化する」こともカルチャーショックでした。従来ゲームというものは、ソフトに収まっているデータで完結していました。しかし、現代のゲームは“アップデート”によって中身がまるっきり変わってしまいます。新しいキャラクターやMAPの追加、武器やキャラクター能力の調整、ユーザーインターフェースの改善まで、一夜にして別ゲームになるレベルの変更が加わる場合もあります。これにより、これまで最善とされていた戦略が通じなくなったり、雑魚キャラが最強キャラへ変貌したりと、プレイヤーには勝利するための新たな対応が求められるのです。アップデートのたびに試行錯誤を繰り返す必要があり、それもまた楽しく、飽きさせてくれません。
そんな『Apex』ですが、ひとつだけ悪いところがあります。それは、時間を無限に喰らい尽くしてしまうということです。勝ったら嬉しくて、負けたら悔しくて、終わり時が分かりません。またプレイするごとに“強くなっている実感”が湧いてきて、「もっと強くなりたい」という向上心が芽生え、ゲームを続ける手が止まりません。だんだんと普段街を歩いていても、「ここで接敵したら、あの場所が遮蔽になりそうだな」「この場所が最終円になるなら、あの場所に陣取れば勝てる」などおかしなことを考え出してしまいます。しかも基本プレイ無料なんて……。
誰か、僕に『Apex』をやめさせてください。
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