YMCK、クリスマスシーズンに馳せる“見えない労働”への想い 初の実写MVに込めたメッセージ
華やかなイルミネーションが輝き、賑わう街並みに道行く人の心もどこか浮き足立つ。そんなクリスマスシーズンにも、その快適さや利便性、安全面を支えている人たちがいることに思いを馳せたことがあるだろうか。8bitミュージックユニット YMCKが贈る新作EP『YMCKのやさしいクリスマス曲集』には、そんな煌びやかさの“裏側”にフォーカスした異色のクリスマスソング「皆様、ご安全に」が収録されており、クリスマスを機に、私たちが暮らす現代社会における必要な視点を提示している。
おそらくこの曲「皆様、ご安全に」が生まれた背景には、コロナ禍以前からYMCKが感じていた“資本主義への違和感”が深く根ざしている。この曲のメッセージは単なる批判ではなく、効率化や便利さがもたらす矛盾への問いかけであり、そこから生まれる“やさしさ”“思いやり”を見つめ直す試みでもあるはずだ。
というのも以前、アルバム『FAMILY INNOVATION』(2022年)に関するインタビュー(※1)の中でメンバーの除村武志は、「コロナ禍になる少し前から、資本主義について関心があった」と語っていた。効率化や便利さを追求する社会の一員として、その仕組みそのものに対し深く疑問を抱くようになったのだという。
「私はアプリの開発にも携わっているのですが、『これで便利になります』『コストを大幅にカットできます』といった触れ込みで効率化を進めていくと、回り回って結局は自分の仕事が減ってしまうことに気づくわけです。『あれ? 何だかおかしいぞ、成り立たなくなるよな』と思うようになって」(※1)
こうした除村の葛藤が、今回の楽曲制作にも大きな影響を与えたのは間違いない。冒頭で述べたように、「皆様、ご安全に」に描かれるのは、クリスマスの裏で安全や便利さを支える仕事に従事する人々の姿。この曲の中でYMCKは、資本主義の矛盾とそれを乗り越えた先にある景色を見出そうとしているのだ。
〈ほら雪の街で/赤い誘導灯を振る僕です/みんなご安全に/この夜が平穏無事に終わりますように〉
〈寝ていたノートPC起こし/はじまるよワーキングタイム/ああみんなのその便利を/支える素敵なお仕事です〉
歌詞に描かれているのは、冷たい風の中で赤い誘導灯を振る交通整理員の姿であり、静かな部屋でパソコンに向かう労働者の姿だ。クリスマスシーズンを謳歌する人々の平穏無事を、〈みんなご安全に〉と祈り、〈夜が明けたらみんな/またそれぞれの場所で/その思い出を胸に抱いて/生きてほしい〉と願う。そんな彼らを通じて、「当たり前のもの」として見過ごしがちな日常の美しさを問いかける楽曲になっている。資本主義の恩恵を受けている私たちに、その陰で見えにくくなってしまった“人々のつながり”や“感謝の気持ち”を改めて想起させようという狙いがあるのではないだろうか。