YMCK、クリスマスシーズンに馳せる“見えない労働”への想い 初の実写MVに込めたメッセージ
YMCKにとって初の実写となる「皆様、ご安全に」のMVは、映画『凶悪』(2013年)で観る者に強烈なインパクトを与えた個性派俳優 ジジ・ぶぅの存在感が際立つ作品となった。また、深夜のオフィスで通信サーバーのメンテナンスをしている会社員は森重誘介が熱演(余談だが実はこの2人、女王蜂の「失楽園」「DANCE DANCE DANCE」以来7年ぶりの共演を果たしている)。2人が演じるのは、社会の中で人々の快適さや利便性、安全面を支える役割を担う労働者たち。監督を務めた映像クリエイターのファーリンは、実写映像にYMCKらしいピクセルアートを織り交ぜることにより、クリスマスの“見えない美しさ”をビジュアル的に補完しつつ、現実とノスタルジアが交差する独自の世界観を作り上げた。それにより、楽曲のメッセージを一層際立たせているのだ。
YMCKは、「皆様、ご安全に」で資本主義を単に批判するのではなく、その中で生きる人々の現実を描きながら“やさしさ”を模索した。資本主義社会から完全に脱却することは難しい現代において、“見えない労働”に対する感謝や人々とのつながりを取り戻すことこそが、次なる一歩であると考えさせられるのである。
思えば前述のインタビュー(※1)の中で、『FAMILY INNOVATION』収録曲「グローバル・イノベーション」について栗原みどりはこのように述べていた。
「最初に除村が持ってきた歌詞は、今よりもう少しメッセージ性がはっきりしていたのですが、個人的にはあまり強い言葉で断言したり、自分なりの結論みたいなものを明示したりしない方がいいと思ったんです。例えば『コンビニエント』という曲も、聴いた人がそれぞれ考える余白を持たせる歌詞にしたかったんですよね」
リスナーに対し一方的な答えを押しつけず、自ら考えるきっかけを提供する姿勢は「皆様、ご安全に」にも引き継がれた。これはYMCKの音楽が単なる娯楽を超え、社会に根差した視点を持つからこそできることだ。
なお、本EPに収録された3曲は、いずれも「クリスマス」をテーマにしているが、それぞれ異なる視点で描かれている。リードトラック「皆様、ご安全に」が働く人々への感謝と祈りを込めた楽曲である一方、「PaPaPaPa Christmas for You」と「LaLaLaLa Christmas for You」は、純粋にクリスマスを楽しむ喜びを歌い上げる。どちらも軽快なスウィングビートをフィーチャーした遊び心あふれるアレンジが印象的で、クリスマスの賑やかさや高揚感をそのままに表現してみせた。
これらの楽曲が「皆様、ご安全に」と同じEPに収録されていることは、単にコントラストを成すためだけではないはず。異なる角度からクリスマスを描くことで、リスナーの心に多層的な響きを生み出している。華やかなイルミネーションの影で働く人々の努力や思いやりに目を向けることで、この特別な季節をより深く味わうきっかけとなるはずだ。
※1:https://realsound.jp/2022/09/post-1139977.html
YMCK、シリアスな目線とメッセージ性に富んだ『FAMILY INNOVATION』 活動20周年に向けチャレンジ精神旺盛な意欲作に
男女3人組の8bitミュージックユニット、YMCKによる通算9枚目のアルバム『FAMILY INNOVATION』がリリースされ…
◾️リリース情報
YMCK
『YMCKのやさしいクリスマス曲集』
2024年11月27日(水)配信開始
ダウンロード/ストリーミング:https://ultravybe.lnk.to/ymckchristmas2024
<収録曲>
1.皆様、ご安全に
2.PaPaPaPa Christmas for You
3.LaLaLaLa Christmas for You