YMCK、忠実に再現した『FAMILY INNOVATION』のテーマやコンセプト 3年ぶり単独公演をレポート
前作『FAMILY CIRCUS』からおよそ3年ぶり、通算9枚目のアルバム『FAMILY INNOVATION』をリリースした男女3人組の8bitミュージックユニット・YMCKが10月15日、東京・代官山UNITにて単独公演『INNOVATION CONFERENCE 2022』を開催した。
「タイトルに「カンファレンス」(会議)というワードを入れたように、ビジネスカンファレンス的なノリでスタートして、だんだんYMCKらしい世界観へと引き込むような内容にしたいと思っています」
新作リリースに伴うインタビュー(※1)で、栗原みどり(ボーカル、作曲)がそう予告していたように、この日の公演はまず黒いタートルネックにジーンズ姿のクリエイティブディレクター(に扮した)除村武志(作詞、作曲、編曲)による「基調講演」からスタート。日本語と英語の同時通訳でYMCKのこれまでの軌跡と新作のコンセプトについて説明を始めると、フロアは大きな笑いに包まれた。
続いて本編であるYMCKのライブ。オープニングはアルバム冒頭曲「夜明け」が流れる中、ステージ後方のスクリーンにQRコードが大きく映し出される。それをオーディエンスがスマホで読み込むと、メンバー登場までのカウントダウンがスマホ画面上で行われるという心憎い仕掛けだ。
ステージ中央にはボーカルの栗原が、その両端にラップトップを操る除村と中村智之(映像・作曲)が並ぶいつもの編成でライブがスタート。1曲目の「コンビニエント」では、怪しいアプリが勝手にインストールされてしまうという、「ネット詐欺」を模したサプライズが、先ほどのQRコードを読み込んだ各々のスマホ上で行われるなど、普段アプリのプログラミングを手がける除村ならではの凝った演出に唸らされる。
また、ロックンロール風味のベースラインが印象的な「Perfect Device」(2015年)では、スクリーン上にまるで「音ゲー」のように、手を打ち鳴らすタイミングを示すアイコンが次々と現れ、オーディエンス全員でそれに挑戦するというインタラクティブなコーナーを曲中で設けたり、「Neo Identity」(2015年)ではヘッドギアを装着され、新しい人格(Neo Identity)をインストールされた除村と中村が、突然狂ったように踊り出す寸劇があったり、1曲ごとにまるで遊園地のアトラクションを乗り換えるような楽しさが用意されている。
ただし、「ミリオネアたちの高笑い」(2019年)では、スウィングビートに乗って〈楽チン楽々丸儲け〉〈この世は金が全て!〉などと拝金主義的なワードをオーディエンスにコール&レスポンスさせ、新曲「グローバル・イノベーション」では〈ビッグデータ〉〈仮想通貨〉〈ソーシャルネットワーキング〉といったビジネスワードを次々と叫ばせるなど、オーディエンス参加型のエンターテインメントのようでありながら、「新自由主義社会」に対するピリリとしたブラックジョークを随所に散りばめている。この辺りが、コロナ禍や戦争でより顕在化された資本主義の限界や、人々の対立・分断などをテーマに据えた彼らにとっては異色な最新作、『FAMILY INNOVATION』のテーマやコンセプトを忠実に再現しているのである。