柴咲コウ「ただ面白いだけで終わりたくない」 『響宴』というテーマから浮かび上がる一貫した人生観
柴咲コウから、新作EP『響宴』が届けられた。2022年に音楽活動20周年を迎えた柴咲コウにとって約2年ぶりの新作となる本作は、“四季”や“輪廻”をコンセプトに据え、オリジナル曲4曲、カバー曲2曲で構成されている。12月からは全国ツアー『KO SHIBASAKI LIVE TOUR 2024 ACTOR'S THE BEST 〜響宴〜』がスタート。アーティストとして新たなフェーズに入った彼女に、EP『響宴』の制作、ライブへの意気込み、音楽との向き合い方などについて語ってもらった。(森朋之)
「コンサートでは、エネルギーが循環していることが大事」
——EP『響宴』は“四季”や“輪廻”をテーマにした作品ですが、制作はまずコンセプト作りからですか?
柴咲コウ(以下、柴咲):そうですね。プロデューサーの吉田雄生さんとの出会いがあり、まずインタビューしていただいて。自分の好みだったり、今の感性みたいなものを抽出してもらった上で、楽曲を集めていただいたのが最初ですね。
——インタビューというのは、柴咲さんの音楽の志向についてですか?
柴咲:音楽だけではなくて、人生観だったり、趣味だったり、「今、夢中になってるものは?」ということをヒアリングしてもらった感じですね。その中で“雨”や“水”というワードが出てきて。それが「紫陽花」や「想待灯」の疾走感につながっているんですよね。
——“雨”や“水”は柴咲さんにとって重要なファクターなんですね。
柴咲:私はとにかく水が好きなんです。自分の中では瑞々しさを常に持っていたいし、水も毎日2リットル飲んでるし(笑)、お風呂も大好きで、欠かせないもの。でも泳ぐのは苦手だったり、海よりも川が好きだったりとか。とはいえ、自分の中では当たり前のことでも、誰かにわかってもらおうとしたことはなかったんですよね。それをコンセプトとして落とし込んだという感じです。
——水のパワーを感じながら生活していると。
柴咲:そうですね。去年の春に黒沢清監督の映画(『蛇の道』)の撮影でフランスに行ったんですけど、向こうは硬水じゃないですか。日本で生まれ育ってるから余計に感じるのかもしれないけど、頭皮が痒くなったり、髪がガチガチになっちゃって。水の成分によってこんなに影響されるんだなって感じましたね。日本は森林が多いし、美味しい水が飲めて。豊かな国だなと思ってます。
——EP『響宴』には日本的な情緒が流れている印象もありました。
柴咲:それはもともとの自分の好みと言いますか。これまでの楽曲にも和楽器が入っていたり、一貫しているものかもしれないですね。
——これは柴咲さんの特長だと思うのですが、歌い回しにもところどころに“コブシ”みたいな雰囲気があって。
柴咲:それは「月のしずく」の頃からずっとあるもので、ああいう感じで“逃がす”ように歌うのがラクなんですよ。あんまりやりすぎると嫌がられるかなと思ってたんだけど、KOH+で「ヒトツボシ」という曲をレコーディングしたとき、福山雅治さんに「それが個性なんだから、もっと出していいよ」と言ってもらって。プラスに活かせることもあるんだなと気づいたし、最近はあまり気にせず歌うようにしています。
——『響宴』というタイトルについては?
柴咲:それも吉田さんが提案してくれました。これまでのライブや楽曲制作、ファンとのコミュニケーションを含めて、“エネルギーの交換”ということをずっと言ってきていて。特にコンサートでは、自分だけが能動的で、聴いてる人たちは受動ということではなく、お互いに共鳴し合って、エネルギーが循環していることが大事だと思ってるんですよ。それを『響宴』という言葉に変換してもらったというか。なので12月から始まるツアーでも、そのまま『響宴』をタイトルにしたんです。
——柴咲さんにとってコンサートは、エネルギーが響き合う宴なんですね。そういう感覚は最初からあったんですか?
柴咲:いえ、最初の頃は卒倒しそうでした(笑)。そもそも“歌う”ということは私の人生にまったくなかったんですよ。いきなり歌うことになったんですが、CDデビューしてから人前で歌うまでに5年くらいかかっているし、あまり積極的ではなかったんです。もともと“私を見て”というタイプではないですし、うっかりこの世界に入っちゃったので(笑)。音楽活動に貪欲になれたのは、自分を媒介として使うというか、“心と身体を使って届ける”という感覚になってからですね。そこからエネルギーの循環も感じるようになって。ただ、目立ちたくない、できるだけひっそり暮らしたいというのは今も変わらないですけどね。人の根本的な部分はそんなに変わらないと思うので。
「切り取り方や掛け合わせ方によって、新鮮に受け止めてもらえる」
——では、EP『響宴』の収録曲について聞かせてください。1曲目はタイトルトラック「響宴」。LITTLE(KICK THE CAN CREW)さんが作詞(作曲にも参加)を担当した、ラップのテイストを取り入れた楽曲です。
柴咲:歌い出しの〈ぐるぐる巡り巡るサークル〉もそうですが、私がずっと表現してきた“輪廻”や“循環”を汲み取って書いていただいた歌詞だなって思います。柔らかさとか、包み込むような愛も内包されていて。デモ音源はLITTLEさんが歌ってくれていたんですが、すごく完成されていたから「私が入る余地があるのかな?」と思っちゃって(笑)。ラップの歌い方にも慣れていなかったんですが、それを技として取り込みながら、囁くようなボーカルに落とし込みました。
ーー言葉がスッと入ってくる歌ですよね。
柴咲:それも意識しましたし、日常の中で何か作業しながら流しておきたい曲になりうるなと思って。サビではメロディがグッと入ってくるんだけど、家事をしたり、何か考え事をしながら聴けるような曲にもなったかなと。
——小田和正さんが作詞作曲された2曲目「woh woh」は、柴咲さんが出演したドラマ『安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜』(TBS系)挿入歌。5曲目にはやはり柴咲さんが出演した映画『ミステリと言う勿れ』主題歌の「硝子窓」(King Gnu)のカバーが収録されています。
柴咲:去年リリースした『ACTOR'S THE BEST 〜Melodies of Screens〜』(俳優として出演した映画、ドラマの主題歌や挿入歌をカバーしたアルバム)を一度きりで終わらせるのはもったいないなと思ったんですよね。自分が今までやってきたことを肯定できたというか。お芝居している自分と歌を歌う自分を切り離そうとしてたんですけど、その2つをやっと融合できたんですよね。私としてはそれを継承していきたかったんですけど、『ACTOR'S THE BEST』の第2弾を作るというより、もっと通常モードとして続けたくて。もちろん、自分の哲学や思いを込めたオリジナル曲も作っていきたいし、欲張りなんですけど(笑)、その両方を入れたかったんですよね。
——俳優として出演した作品の楽曲を、歌手として歌う。これまでになかったコンセプトの作品ですよね。
柴咲:そうかもしれないですね。音楽もそうだし、いろいろなプロダクトが飽和していますけど、切り取り方や掛け合わせ方、どうアプローチするかによって、新鮮に受け止めてもらえるのかなと。『ACTOR'S THE BEST』は自分たちにとっても面白いなと思える作品になったし、ファンの人たちにも喜んでもらえたと思います。
——「woh woh」「硝子窓」というセレクトは、このEP全体のコンセプトにも合ってますよね。『安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜』は、100年先の未来から送り込まれたアンドロイドとの関係を描いているし、映画『ミステリと言う勿れ』も、ある一族に受け継がれる因縁がテーマになっていて。どちらも命の繋がり、長い時間の流れを含んだ作品ですよね。
柴咲:そこまで考えていたわけではないですが(笑)、やっぱり私の中で一貫しているものがあるんでしょうね。螺旋状に続いていくものだったり、遺伝子的につながるものだったり。『CIRCLE CYCLE』(2011年)というアルバムを作ったこともありますし、それは今回のEPにもつながっているのかなと。
——「woh woh」「硝子窓」を歌うときは、どんなことを意識していましたか?
柴咲:「woh woh」は〈君を見つめてる〉という言葉がまっすぐに届いて、それゆえにすごく感情に迫ってくる曲で。「こんなふうに言われたい」「言わせたい」という思いを触発されるんですよね。歌うときも余計なことを考えず、まっすぐに歌詞の世界に没入していました。テイク数もかなり少なめだったんじゃないかな。「硝子窓」は、難しかったです(笑)。イメージ的には木枯らし、枯れ葉の色だったので、そういう声に近づけたらいいなと。キーが高いから、自然に歌うと繊細な感じになって。あえてファルセット気味にしたり、囁くように歌っているところもありますね。