福山雅治、初挑戦尽くしの全曲バラードライブ 音楽でこそ表現できる“想いを馳せることの美しさ”

福山雅治、初挑戦の全曲バラードライブ

 31回目のデビュー記念日である3月21日、福山雅治が自身初となる全曲バラードライブ『Fukuyama Masaharu 31st Anniv.Live Slow Collection』を開催した。無観客、8カ所のプラットフォームで配信。セットリストは2020年末にリリースした6年8カ月ぶりのオリジナルアルバム『AKIRA』の初回限定「30th Anniv.バラード作品集『Slow Collection』盤」(応募総数1万通超のファン投票上位16曲を収録)の全曲に加え、最新曲「心音」、さらにはファンクラブ限定チケット購入者に向けたアンコール2曲を披露。テンポがスローである、という共通点以外は多彩な表情を持つ楽曲群で、工夫に富んだ演出を次々と繰り出し飽きさせることなく公演を繰り広げた。

 現場にマスク姿で到着した福山は、会場入り口で検温と消毒。各セクションのスタッフに挨拶を済ませると、セットの組まれたスタジオ内へ。歌唱中を除き、リハーサルを行った後の映像をチェックする際にもすぐマスクを着用し、自らが率先して感染防止対策を心掛けていた。サウンドチェックはもちろん、照明演出を確認したり、撮影プランに対してのイメージを伝えたり、福山は全方位に意識を配っていた。「一年に及ぶコロナ禍の中で、ファンの方々は様々な不安、心配ごと、ストレスがあると思う。もちろん僕もそのひとり。だからこそ、今自分が出来る形での音楽をやり切る」と今のコロナ禍の状況に想いを馳せ、ライブに対しては「バラードという楽曲の世界観に入り込んでいただいてももちろんいいんですけども、ライブ会場とは違ってどれだけリラックスしてご覧になっていただけるかも一つのテーマ。気付いたら寝ちゃってた、みたいなことでも......(笑)」とオンラインライブならではの自由な楽しみ方を提案。音楽の力が人の心に何をもたらしうるのかーーコロナ禍でエンターテインメントが苦境に陥る今、福山はこの初挑戦尽くしのライブで新たな可能性を模索しようとしていた。

 今回のオンラインライブは、2つのステージを駆使して曲ごとの世界観を表現。バンドはメインステージに留まりつつ、福山は双方を行き来してパフォーマンスする、というスタイルだ。冒頭で「今日をもちまして、私、福山は音楽デビュー31年目に突入しました。本当にありがとうございます」とファンに挨拶。当初は全国ツアーを予定していたこと、この日は本来ならば熊本公演を行っていたはずだったことなどを語っていく。有観客ライブが軒並み中止や延期となる中、「今だからこそつくれるライブをつくろう」という想いの下、昨年末には自身初のオンラインライブ『FUKUYAMA MASAHARU 30th Anniv. ALBUM LIVE AKIRA』を開催し、「オンラインライブには通常のライブとはまた違った表現がある」との手応えを得たのだと回顧。自身初の全曲バラード楽曲で構成されるライブとなる今回の配信も、「通常ではおそらくやらなかったはず。画面越しの最前列、最後までじっくりお楽しみください」とオーディエンスに語り掛けた。

 長崎の古い教会や、マヤの天文台を思わせる神秘的なメインステージのセットに立ち、静けさの中アコースティックギターを携えると、1曲目の「milk tea」をバンドと共に披露。もう何百回とセッションを重ねてきた最強のバンドメンバーたちが織りなす極上のグルーブに乗せて、温もりを感じさせる歌声を響かせた。今回の全曲バラードライブ用に選ばれたマイク、ノイマンが歌声の奥行きをリアルに届けてくれる。

 続く「恋人」もそうだが、〈逢いたい〉という歌詞がどうしても離れた場所にいるファンの存在を想像させ、胸が締め付けられる。熱のこもった真っ直ぐな眼差しが大写しで確認できるのは、オンラインライブの利点である。ギターをエレキに持ち替えて歌った「7月7日」は、Charへの提供曲ながらリクエスト10位にランクインしている人気曲。『Slow Collection』はシングル曲に偏ることなく幅広く選ばれたリクエスト結果となっていて、自ずとこの日のセットリストは実にバリエーション豊かな内容となっていた。

 事前に「あなたの拍手・歓声」と題してファンから募集した音声データ(通称:顔の見える声)を活用し、無観客の会場にも関わらず、まるで目の前に観客席が存在するかのような臨場感で配信ライブは賑やかに進行。福山とのエアコール&レスポンスも呼吸ピッタリに繰り広げられていく。そういった拍手や声を聴くことで、かつてのライブで浴びていた「皆さんの声と笑顔を思い出すことができるんです」と福山は感慨深げである。花道を歩き、ホワイトステージと名付けられた2つ目のステージに移動しながら、「恋愛を入り口にしながら、その人の人生の現在・過去・未来を表現できるのがラブバラードだと思っています」と自身のバラード観を明かすと、「今夜は、30年にわたり描き続けてきたバラードの数々をじっくりたっぷり、最前列でお聴きいただければと思います」と画面の向こうのファンへ改めて伝えた。

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