高岡早紀、自分らしい表現で歌う楽しさ デビュー35周年を経て高まるシンガーとしての意欲

高岡早紀、高まるシンガーの意欲

 高岡早紀がデビュー35周年&歌手活動再開10周年記念アルバム『Decade -Sings Cinematic-』を1月31日にリリースした。

 1988年4月にシングル『真夜中のサブリナ』で歌手デビュー。加藤和彦、森雪之丞といったトップクリエイターが参加した4枚のオリジナルアルバムを発表し、80年代後半〜90年代初頭の音楽シーンにおいて独自の存在感を放った。その後は俳優として、舞台・映画・テレビドラマなどで活躍し、2013年4月に「君待てども 〜I'm waiting for you〜」(主演映画『モンスター』エンディングテーマ)で歌手活動を再開。本作『Decade -Sings Cinematic-』は、ジャズ、ボサノバ、ラヴァーズ・ロックなどのテイストを取り入れながら、シンガーとしての表現の幅を広げてきたこの10年の集大成と称すべき作品となっている。

 高岡早紀にとって、歌うことの意義とは? 本作をフックにしながら、彼女自身に語ってもらった。(森朋之)

高岡早紀 - トーキョームーン(Album『Decade -Sings Cinematic-』)トレーラー

「“女優の高岡早紀”がやっていることには変わりがない」

——2013年に歌手活動を再開してから10年以上が経ちましたが、高岡さんにとってはどんな時期でしたか?

高岡早紀(以下、高岡):もう10年も経ったんだなって。そんなに経ったような感じがしないのは年齢のせいか何なのか(笑)、意外とあっという間でした。振り返ってみると、新曲も結構たくさん出してきたなって思いますね。7インチのアナログ盤もいくつかリリースしているんですよ。最初は『Sunny』(2020年)だったんですけど、アナログレコードがまた流行ってるということで、そこに乗っかってみようと(笑)。デビュー当時、1枚だけLPレコードを作ったんですけど(1stアルバム『Sabrina』/1989年)、その後はCDになって。LPのジャケットはすごく力を入れて作っていたのに、シングルCDなんてすごく小さかったじゃないですか。『Sabrina』の写真は篠山紀信先生に撮っていただいたんですよ。でもCDになってからはそういうこともなくなってきて。なので7インチを出して、ジャケット写真をしっかりと作れるのは嬉しかったです。

——ストリーミングサービスがすっかり浸透しましたけど、“モノ”を求めるリスナーも多いですからね。

高岡:私たちの世代はモノがないと信じられないというか(笑)。サブスクは便利だし、私もすっかりそっちになっていますけどね。家でレコードをかけるかって言えば、そうでもないですし。もちろんレコードプレイヤーはあるし、レコードもいっぱいあるんですけど。

——レコードは高岡さんのコレクションなんですか?

高岡:ウチにあるレコードは全部、父のコレクションです。母がずっと保管していたんですけど、今は私が管理していて。かなりレアなレコードもあるらしく、山下洋輔さんが見に来たこともあるんですよ。すごい数なのでとても全部は聴けないですけど、1日1枚ずつ聴いてみようかな。

——幼少の頃からジャズが流れている環境だったんですか?

高岡:そうですね。学校から帰ってくると、母がよくジャズのレコードを流していたり。詳しいわけではないし、いまだによくわかってないんですけど、小さい頃からの刷り込みというか、耳に入っていた音楽はどこかに残っているんじゃないかなと思います。音楽に限らず、人生のなかで見聞きしたものはすべてが無駄ではないと思っていて。それをどう表現していくかはまた別の話だし、きっと大事な経験だったんじゃないかなと。

——すべての経験が、今の高岡早紀さんの表現につながっていると。

高岡:歌うことは私も楽しんでいますし、聴いてくださる方、ライブに来てくださる方が少しでも「楽しい」とか、幸せな気持ちになってくれたら嬉しいなと思っていて。すごく歌が上手くなりたいとか、ジャズを極めたいみたいなことではなくて、今の私ができる表現をやるしかないなと。いずれにしても“女優の高岡早紀”がやっていることには変わりがないんですよね。昔は人に決められるのが嫌で、「女優と呼ばれるようになりたい」と思って歌手活動を休止したんですけど。

——そうだったんですね。

高岡:はい。今は女優の高岡早紀が浸透していると思うし、そこで1本筋を通すことができたからこそ、「自分の表現で、できることをやります」と言えるようになったんだと思います。

山下洋輔との交流のきっかけや共作経緯

——音楽活動再開のきっかけは、高岡さんが主演した映画『モンスター』のエンディングテーマ「君待てども 〜I'm waiting for you〜」を歌ったことでした。幼少の頃から交流があった山下洋輔さんがピアノを演奏していますが、このデュエットが実現したのはどうしてだったんですか?

高岡:私が歌手デビューしたときから、「僕のピアノで歌ってほしいな」と言ってくださっていたんですが、私としては「そんな、とんでもないです」と思うことが続いていて。けど11年前、映画のエンディング曲を歌ってほしいというお話があったときに、ふと「(山下)洋輔さんにお願いするのがいいんじゃないかな」と思い浮かんだんです。洋輔さんが「ぜひ」と快くお引き受けくださったので実現したことですし、洋輔さんと父の関係も含めて、運命に導かれるというか、なるべくしてなったのかなって(高岡の父親・高岡寛治は横浜のジャズライブスポット「エアジン」を創設。山下洋輔とも交流があった)。

——山下さんの演奏も子どもの頃から聴いていたんですか?

高岡:はい。洋輔さんの息子さんとウチの兄妹と4人で、ライブのポスターになったこともあるんですよ(笑)。

高岡早紀/君待てども ~I'm waiting for you~ (Short Ver.) <映画『モンスター』エンディング曲>

——そうなんですね! 「君待てども」で歌手活動を再開した後は、2作のアルバム(『SINGS -Bedtime Stories-』/2014年、『SINGS -Daydream Bossa-』/2017年)を発表。定期的にライブを行い、フェスやイベントに出演するなど、充実した活動を続けてきました。

高岡:「君待てども」をレコーディングしてから、「せっかくだからライブもやればいいんじゃない?」という話になり、その流れでここまで来たということですね。ずっと続けようと決めていたわけではないんですが、「やれるんだったら、やればいいよね」というか。私も周りの人も、ファンの人たちもそうですけど、「歌はやめたほうがいいよ」と言う人がいたら、やってなかったと思うんですよ(笑)。誰もそんなことは言わなかったので、淡々とやってます。

——ジャズ、ボサノバ、ラヴァーズ・ロックなど、作品を重ねるごとに音楽的な幅も広がってきました。これは高岡さんの意向なんですか?

高岡:基本的にはプロデューサー(DJ 246)ですね。10代の頃からの親友なんですが、彼女のほうから「次はこういう曲はどう?」と提案してくれて。私自身は音楽に詳しいわけではないし、周りにプロフェッショナルがいるんだから、アドバイスをもらったほうがいいと思うんですよ。私には「こういう曲が歌いたい」とか「歌いたくない」というのは特にないんです。10代でデビューした頃からそうなんですけど、それは私が決めることではないというか。当時はアイドル的なことをやっていたし、どういう曲を歌うかは周りのみなさんが決めていたんです。私は「それをどう表現するか?」ということだけを考えて。女優の仕事もそうですよね。私がどういう役をやりたいかということよりも、「オファーされたものをどう演じるか?」を考える職業なので。もちろん「それは嫌です」と断ってもいいんだけど、基本的には、与えられたもののなかでどう表現するかということなのかなと。

——俳優が音楽活動を行う場合、「音楽では自分の素を出す」というスタイルもあるし、自分で作詞などを手がけて、そこで思いの丈を表現する場合もありますが、高岡さんはそうではない?

高岡:そうですね。今もそうですけど、まずストーリーがあって、そのなかに出てくる少女や女性を歌うことが多かったので。作詞に関して言えば、1曲だけやったことがあるんですよ(「I see your face」)。それも洋輔さんとご一緒した曲なんですが、「曲を作っていただけませんか?」とお願いしたら、「早紀ちゃんが歌詞を書くんだったらいいよ」って。しかも「先に歌詞を書いて」と言われたので、これは書くしかないなと。最初は何を書いたらいいのか全然わからなかったんですけど、「娘をテーマにしてみたら?」と言われて、「あ、そうだね」って書き始めたら、30分くらいでできました(笑)。娘の曲なので、自分の思いの丈というわけではないですね。私はもともと、自分の感情を人に共有したいという気持ちがあまりないんですよ。自分の思いは自分だけが持っていればいいというタイプなので。

——それが音楽活動にも出ている?

高岡:はい。10代の頃はあまりしゃべりたくなくて、取材のときも「はい」と「いいえ」くらいしか言えなかったんです。取材に来てくれた皆さんには申し訳なかったと思いますけど、自分の思いを話すことができなくて。今はもう大人なので、取材でもしゃべりますけどね(笑)。

——ありがとうございます(笑)。自分自身の感情を歌に投影するのではなくて、物語に登場する人を演じるように歌うスタイルは、まさに本作のタイトルの“Sings Cinematic”ですね。

高岡:このタイトルもレーベルのスタッフとプロデューサーが案を出してくれて決めたんですが、私としてもすごくしっくり来ています。「私の気持ちをわかってほしい」とか「恋してるときの切なさ、わかるでしょ」ということではなく、映画やドラマを観るように楽しんでもらえたらなと。私はその世界のなかで生きている人を歌っているので、聴いてくれる人それぞれが、その人なりに共有してもらえたら嬉しいです。

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