ファントムシータが“アイドルの本質”を証明する――異端の物語の序章、日本武道館で見せた覚悟の意味

ファントムシータ、衝撃の初ワンマンを観て

 さらに、その真髄を味わったのが、メンバー5人のソロタイムだ。もなが松田聖子の「SWEET MEMORIES」、凛花が中森明菜の「少女A」、百花が椎名林檎の「歌舞伎町の女王」、美雨がsyudouによる初音ミク歌唱のボカロ曲「ジャックポットサッドガール」、灯翠がanoの「ちゅ、多様性。」をカバー。時代を辿るような流れのなかで、一人ひとりの個性が見事に輝いていた。

 全員が難易度の高い楽曲を歌い切ってこなしていたのは大前提として(それも特筆すべきことなのだが)、ラストの微笑みでオーディエンスを虜にしたもな、挑発的な目線でアヴァンギャルドを体現した凛花、スタンドマイクでまっすぐ前を見据えて歌う百花、シャウトを混えて狂気的にすら見えた美雨、「みんなも歌って!」と会場中を巻き込む灯翠――と、見事に5人5様。誰かひとりがセンターなのではなく、全員がセンターなのだという意志が伝わってくる。意表を突くセットリストで5人の秘めた魅力が開花していくにつれ、オーディエンスの熱もどんどん高まり、メンバーへの声援が大きくなっていくのを感じた。

 「キミと××××したいだけ」で本編を締め括ったあと、アンコールではオーディション課題曲でもあった『ONE PIECE FILM RED』劇中歌の「Tot Musica」を披露。炎がゆらめくなか、まさに全身全霊のパフォーマンスを繰り広げ、この日いちばんの大歓声が5人を讃えた。

 終演を前に、涙ぐみながらこの日に懸ける想いを語った5人。パフォーマンスの迫力とは裏腹に、話し出せば等身大なのも魅力のひとつだ。オーディションを受けるまではアイドルを夢見る普通の女の子だった5人が、1stライブで武道館に立つ。そのプレッシャーは計り知れない。

 しかし、もかが「ファントムシータは、アイドルの本質をみなさまに見せていきたいと考えております」と堂々締め括り、「本当に最後の曲です。『ゾクゾク』」とコールすると、再び全員の目の色が変貌。闇深い情念を歌い切り、ステージを完全に去るまで、ファントムシータの美学を貫いた。

 中盤のMCで、「活動するうえで大切にしてる感情――憎しみ、苦しみ、痛みなどは、私たちが最も愛さないといけない存在だと思っています」と語られた。だからこそ、ファンネームである“ハイネ”の由来には、フランス語で“憎しみ”を意味する“haine”も含まれているのだ、と。現代社会で生きる誰しもが抱える負の感情を表現し、“アイドルの本質”を追い求めようとするファントムシータ。2025年、早くも初の海外ツアー『Phantom Siita 1st WORLD TOUR "Moth to a flame"』に挑み、その先にどんな情景を描くのか。異端の道を進む彼女たちから目を離せない。

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