ファントムシータが“アイドルの本質”を証明する――異端の物語の序章、日本武道館で見せた覚悟の意味
今や世界に活躍の場を広げているAdoによるプロデュースのアイドルとして誕生したファントムシータ。オーディションに集まった約4000人のなかから、もな、美雨、凛花、灯翠、百花の5人が選ばれ、6月に1stシングル『おともだち』で鮮烈なデビューを果たす。そして、『Ado JAPAN TOUR 2024「モナ・リザの横顔」』全公演のオープニングアクトを務めたのち、11月1日に1stライブのステージに立ったのだ。
会場は日本武道館。大舞台に立つ姿を見届けようと、ペンライトやグッズを装備したファン――“ハイネ”が集結。とはいえ、その多くがファントムシータのライブを観るのは始めてだったはず。少しの緊張感が漂うなか、運命の1stライブが幕を開けた。
『ザ・ベストテン』や『スター誕生!』を彷彿させる昭和テイストなステージに、ファントムシータを象徴する蛾が舞うダークな映像が流れる。ステンドグラス風の扉から赤と黒のセーラー服の衣装を着た5人が登場。1曲目の「おともだち」から、美しくも恐ろしいレトロホラーが幕を開けた。
髪を振り乱す激しいダンスにラップも盛り込まれた「花喰み」、大正浪漫なムードがドラマチックな「乙女心中」など、作り込まれた楽曲と5人のパフォーマンスでファントムシータの世界に誘われていく。
それぞれ個性的な声質とたしかな歌唱力を持っているとともに、表情から指先まで全身を使って表現する気迫が凄まじい。挑発的に睨みつけたかと思えば、貼り付けたような笑顔になり、次の瞬間目を見開いて威嚇し、流し目で優雅に微笑んでみせる。中盤に披露された新曲「HANAGATAMI」では、クラシックバレエを取り入れた振付けがまるで舞台演劇のよう。密度の濃さと没入感に圧倒された。
しかし、彼女たちは劇団員でもパフォーマーでもない。アイドルなのである。
その証明として、セットリストには多彩なカバー曲が盛り込まれ、名曲を通してさまざまな時代のアイドルにアクセス。1980年代にカルト的な人気を誇った戸川純の「好き好き大好き」や、アニメ『うる星やつら』の主題歌「ラムのラブソング」、小泉今日子の「なんてったってアイドル」、さらには欅坂46の「サイレントマジョリティー」と、その曲目は多岐にわたった。
オリジナルにリスペクトを表しつつ、色褪せない名曲たちをファントムシータ流に表現していることに驚かされた。相性ぴったりの「好き好き大好き」はもちろん、意外に思えるほどのポップな楽曲群では、眩しい笑顔でオーディエンスを魅了する。どれが彼女たちの本当の顔なのかと思うほど、あらゆる楽曲を自身に憑依させ、万華鏡のように表情を変えていくことこそがファントムシータの強みなのだと気づいた。