「Nintendo Music」で叶うBGMの新しい楽しみ方 『ヨッシーアイランド』『あつ森』の名曲と共に解説

 10月31日に任天堂から突如発表された音楽配信アプリ「Nintendo Music」は、リリースされるやいなやSNSで大反響を起こした。

 それもそのはず、今まで任天堂は自社IPの音楽作品はCDやレコードといったフィジカルでしかリリースしておらず、各種配信サービスでの配信という形を取っていなかった。また、絶版になった作品は再販も行われていなかったため、フィジカル音源のプレミア化が進んでしまったのも事実だ。長らくサブスクでの配信が望まれていたが、今回のリリースによってそれが叶う形となった。

 しかし、なぜ今回独自のプラットフォームを作る必要があったのだろうか? 既存の配信サービスを利用しなかった理由は何なのだろうか?

 その理由は、独自プラットフォームだからこそ実装できた「ながさチェンジ」という機能にある。これによって、楽曲の尺を「15分・30分・60分」まで曲の長さを設定できるのだ。ゲーム音楽はほとんどがBGMであり、ゲーム内ではエンドレスに聴くことができるものの、サントラ音源ではループ再生しようとしても、最初と最後の辻褄が合わず、ヤキモキしながら聴いていたプレイヤーも多かったのではないだろうか。本アプリではそういったストレスを感じることなく、ゆったりと聴き通すことができる。

Nintendo Music 紹介映像

 また、本機能搭載の背景にはいわゆる“作業用BGM”の需要が高まっていることも関係しているだろう。Lo-Fi HIPHOPなどのYouTube配信はコロナ禍以降の学生やリモートワークのお供として機能してきた。「ながさチェンジ」もまた、作業BGMやポモドーロタイマーとしての用途が期待できる。

 さらに、「ネタバレ防止機能」が実装されているのもありがたいポイント。配信されているのがサウンドトラックである都合上、未プレイのものやプレイしている途中の作品があれば、そのBGMもまたネタバレになりかねない。「ボス戦やクリア後の楽曲は聴きたくないし、題名すら知りたくない……」という要望にも対応しているのだ。

 「ながさチェンジ」と「ネタバレ防止機能」は、確かに通常の配信プラットフォームではどうしても対応できないものだ。独自のプラットフォームだからこそ、こういった潜在的な要望をすくい上げることができたと言えるだろう。

 本アプリでは“ゲーム音楽”という特殊な音楽ジャンルの特性を活かし、誰でも好きなスタイルで楽曲を楽しむことができる。本稿では、現在「Nintendo Music」に収録されている作品から3曲をピックアップし、その魅力を、「ゲーマー的視点」と「音楽的視点」の両方から伝えていきたい。

『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』/ヨッシーアイランド「アスレチック」

 『ヨッシーアイランド』は『スーパーマリオ』シリーズのスピンオフ作品。本作のサウンドトラックCDは現在まで簡単に入手することができない状態が続いていたが、今回のリリースによって気軽に聴けるようになった。

 「アスレチック」は文字通りアスレチック系のステージで流れるBGMで、弾むようなシンコペーションが魅力的な1曲。ラグタイムという19世紀末にアメリカで流行したジャンルをベースとしており、小気味よいリズムがヨッシーの忙しないアクションと絶妙にマッチしている。

 ラグタイムは通常ピアノで弾かれるのが主だが、ここでは伴奏はオルガンのような音色で、少し柔らかい印象だ。それに合わせてトランペットとクラリネットが柔らかめのアタックでメロディを演奏しており、忙しないながらも優しさが感じられる音像となっている。その“優しさ”を感じさせる材料には、サンプル音源の存在が重要だ。

 主に80~90年代のゲーム機には、CDのように楽曲をオーディオデータとして収録できる余裕がなかった。そのため、細かい楽器の一音だけをサンプリングし、シーケンスをゲーム内で再生することによって楽曲を再現していたのである。たとえるなら、オルゴールのように楽譜(=シーケンス)と楽器(=音源)がセットになったものと言うと想像しやすいかもしれない。

 サンプルを収録するメモリの容量は限られており、その一音でさえ、ざらついたスカスカな音像になってしまう。しかしそのロービットさが、本作においてはある意味“軽やかさ”として機能しているのだ。

ヨッシー New アイランド 紹介映像

 『ヨッシーアイランド』は絵本のような、イラスト調のビジュアルが魅力的な一作だ。そのグラフィックにおけるユルさと、先述した音像の軽やかさが手を結んでくる。近年の音楽的なトレンドで言えば、やはりLo-Fi HIPHOPがわかりやすい例だろう。ああいったサンプリングにおける“汚し”が、聴者に“手触り”を感じさせる。それと同様に、本作の軽やかなサウンドも、クレヨン画のようなグラフィックとともに、プレイヤーへ温かみのある手触りを与えているのだ。

 他の楽曲も、そういったテクスチャーに注目して聴いてみると、また違った魅力を発見できる。ゲーム自体もNintendo Switch Onlineの特典でプレイすることができるので、ぜひ一度体験してみるのもよいだろう。

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