HISASHI「ずっと続けていくのがGLAYの使命」 デビュー30周年を経てなお高まるクリエイティブへの探究心
デビュー30周年を迎え、「GLAY EXPO」を掲げた活動を繰り広げているGLAY。約3年ぶりとなるオリジナルアルバム『Back To The Pops』はタイトル通り、“GLAY流ポップミュージック”を体感できる作品となった。
シングル収録曲「海峡の街にて」「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-」、アニメ『グレンダイザーU』(テレビ東京/BSテレ東/AT-Xほか)OPテーマ「会心ノ一撃」などを収めた本作は、ヘヴィロック、シンフォニックメタル、シティポップからフォーキーな楽曲まで幅広い音楽性が反映されている。さらにピエール中野(凛として時雨)、清塚信也、HIDE(GRe4N BOYZ)、小春(チャラン・ポ・ランタン)、山里亮太(南海キャンディーズ)などが参加。刺激的なコラボを繰り返しながらジャンルを超えていく姿勢もまた、GLAYが新鮮さを保ち続けている理由だろう。
リアルサウンドではHISASHI(Gt)にインタビュー。アルバムの全体像、アレンジやレコーディングでのこだわり、さらにポップミュージックの継承やAIとの付き合い方まで幅広いテーマで語ってもらった。(森朋之)
長くバンドを続けたいから“時代”のムーブメントには引っ張られない
ーー3年ぶりのニューアルバム『Back To The Pops』、目いっぱい楽しませてもらいました。このタイトル自体にコンセプトが込められていますが、HISASHIさんはどう捉えていますか?
HISASHI:タイトルのアイデアはいつもTAKURO(Gt)の頭のなかにあるんですが、今のGLAYを象徴するフレーズなのかなと。現時点での集大成という受け止め方をしてますね。
ーーやはりポップであることがGLAYの存在意義であると?
HISASHI:そこはすごくこだわっています。「大衆に受け入れられる」というと簡単すぎますけど、みんなが楽しくなるような空間に直結しているのかなと。僕ら自身もそういう音楽を聴いてきましたからね。
ーーHISASHIさんのエッジーなセンスも、GLAYのポップに寄与してますよね。
HISASHI:いろんなエッセンスを取り入れているんだけど、GLAYという非常に強い存在にスポイルされるというか(笑)。鋭い角度でアプローチしても、そこまで鋭く感じられないところがあるんですよ。自分のギターもそうだし、TERU(Vo)の歌の説得力もそうだと思うんですけど、どんなアプローチでもGLAYらしくなるし、受け止めたくなる力が強いんです。コラボレーションもそう。最初は「これはどうなんだろう?」と思っても、最終的にはGLAYの形になるので。
ーー確かに。では、アルバムの収録曲について聞かせてください。1曲目の「Romance Rose」は80’sテイストを感じさせる楽曲。この曲にはHISASHIさんの志向が強く出てますよね。
HISASHI:そうですね。「Romance Rose」はTAKUROと僕の共通言語みたいな音楽をやりたいというところから始まって。80年代の音楽の楽器の使い方や配置みたいなものにこだわって作っていきました。たとえばRoxy Musicもそうですけど、当時はハイファイな音作りだったんですよ。テクノロジーの進化とともにサウンドが大きく変わったし、当時のギターの音色だったり、“ギターは手を添えるだけ”みたいな感じも好きです。
ーーハードロック的なテクニックではなく、斬新な音色を押し出していましたからね。
HISASHI:しかもいきなりシーケンスで支配されて、クリックを使い始めたりとか。シンセやドラムもそうですよね。日本のバンドで言えば、REBECCAのドラムのゲートリバーブやDX7(シンセサイザー)だったり。そういうサウンドも楽しんでやってますね、僕らは。
ーー「Romance Rose」のドラムはピエール中野さん。これはHISASHIさんのリクエストですか?
HISASHI:はい。中野くんとは何度も一緒にセッションしていて、前衛的なビートだったり、音選びやフレーズもすごく好みで。「Romance Rose」はデモ音源を作っているときから、中野くんっぽいフィルを入れてたんですよ。
ーー「会心ノ一撃」は、作詞作曲をHISASHIさんが担当。アレンジにはYOW-ROWさんが参加しています。
HISASHI:ちょうどツアー中にアニメ『グレンダイザーU』の主題歌の話をいただきました。『グレンダイザー』(1975〜77年に放送されたアニメ『UFOロボ グレンダイザー』)は僕らよりも少し上の世代のアニメですが、偉大なる日本の文化の礎を作った作品に敬意を表して、お受けしようと。その後に発表された制作陣がすごくて「こんな方々とご一緒できるのか」と驚きましたし、楽曲を通して、いい化学反応を作れたんじゃないかなと思っています。OPテーマだったので、冒頭から強い音や強い言葉も意識しました。“頭の2秒が大事”という話もありますからね。
ーー最近のリスナーの傾向も考慮している?
HISASHI:いや、普段はそこまで考えてないですね(笑)。いわゆるTikTok文化などもそんなに意識してなくて、イントロが長めだったり、ギターソロもけっこうあるので。曲の尺も昔よりは短くなったけど、それでも他のバンドと比べると長めだと思います。今の状況に抗っているわけではないんだけど、自分たちがやりたいこと、楽しいことをやろうと思ってますね。あと、TikTokは音楽のブームというより、時代のムーブメントじゃないかなと。こっちの足元が固まってないうちにそこに引っ張られると、けっこう危ない気がするんですよ。情報は取り入れるけど、僕らは僕らの存在する位置が決まってるので、そこを大事にしないと。これからも長くバンドを続けたいし、そのときに直面していることに取り組むということですね。
ーー「whodunit-GLAY × JAY (ENHYPEN)-」もアルバムの核になっていると思います。TAKUROさんがあえてラフに作ったデモ音源がHISASHIさんに渡され……というプロセスだったそうですね。
HISASHI:僕らもちょっと意地悪なところがあって(笑)、「(コラボレーションの)相手はどう出るんだろう?」みたいな感じがあったんですよ。確かにJAYはロック的なアプローチの曲を歌っているけど、TERUみたいなボーカリストと対峙したことはなかったでしょうし、「どういうふうに出てくるかな?」と。ある意味“課題曲”みたいな提示をさせてもらったんです。正解とか不正解があるわけではないんですけど、(JAYがボーカルを入れて)戻ってきた音源を聴いて、「すごいな」と思いました。彼の歌を聴いて「だったらこうやろう」という道筋が見えてきたし、「whodunit-GLAY × JAY (ENHYPEN)-」のおかげでアルバムの方向性が決まったところもありますね。「今回のアルバムは、ここからここまでだね」という幅が決まるというか。どう転ぶかわからなかったんだけど、結果的にこのアルバムの道標みたいになったのは、必然だったのかなという気もします。
ーー「whodunit-GLAY × JAY (ENHYPEN)-」は6月に行われた埼玉・ベルーナドーム公演『GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025』でも披露され、JAYさんとの生コラボレーションも実現しました。
HISASHI:ベルーナドームのときは緊張感がありましたね。JAYのパフォーマンスはすごいし、若くて才能があるアーティストを迎え入れて、GLAYが踏ん張れるのか? という感じもあって。そもそもコラボ曲って、十字架を背負ってるような感覚があるんですよ。これまでに氷室京介さん、EXILE、PENTAGONなどとコラボレーションしてきましたけど、相手にステージに立ってもらわないと成立しないので。
“いいものはいい”と胸を張ってやるのが大事
ーー「なんて野蛮にECSTASY」はシンフォニックメタル的なサウンドの楽曲です。
HISASHI:クラシカルなサウンドとハードなバンドサウンドの親和性は高いし、TAKUROは以前からこういう曲をよく書いてたんですよ。世代的にもハードロックやヘヴィメタルを通ってるし、それをポップなものに落とし込んできたというか。「なんて野蛮にECSTASY」はレコーディングの中盤から後半に差し掛かった頃にレコーディングしたんですけど、「もうちょっと狂気が欲しい」と思って。自分の頭のなかで設計したものを組み立てると、どうしても完成形が決まってきてしまう。それを1回ぶっ壊したくて、ピエール中野くん、清塚信也さんに参加していただきました。おふたりをぶつけることで、狂気の部分が垣間見えるような曲になったと思います。
ーーなるほど……清塚さんにも狂気がある?
HISASHI:ありますね(笑)。とても気さくな方ですが、目の奥に狂気を感じるので。ミュージシャンはみんなそうだと思いますよ。チャラン・ポ・ランタンの小春さん(「Back Home With Mrs.Snowman」のアコーディオン/ホーンセクションのアレンジを担当)もそうだし。僕らにはプラスαの何かが必要で、いろいろなミュージシャンの方とコラボレーションすることが次の作品につながることもありますね。
ーーそういうトライを続けることで、音楽性の幅が広がっているのかも。
HISASHI:そうですね。「シェア」みたいなシティポップもあるし、「Beautiful like you」はバラードですけど、X JAPANの影響がもろに出ているし。ツインギターもそうですけど。
ーー影響をダイレクトに反映してもOKだと。
HISASHI:はい。滲み出るものもあるし、直接的に出ているものもあるんですけど、それでいいと思っていますね。ヘヴィメタルもシティポップもマイケル・ジャクソン(※1)もありますけど、“いいものはいい”と胸を張ってやるのが大事なんだなと気づきました。いろいろなミュージシャンとの出会いも大きいですね、やっぱり。プロデューサーの亀田誠治さんからも、楽しんで音楽をやること、「ここまで自由でいいんだ」ということを教えてもらってます。