Official髭男dism、1年半ぶりワンマンでファンの前へ “ヒゲダンのライブ”でしか味わえない興奮

ヒゲダン、1年半ぶりにステージへ

 「生きててよかった!」と叫びを上げる藤原聡(Vo/Pf)の姿に象徴的だったが、もちろんそれ以外にもライブ活動を休止していたと思えないメンバー各々のプレイヤビリティの向上、さらにいえばメンバーが増えたサポート陣が大挙してステージに現れる様子など、あらゆる場面が“Official髭男dismのライブ”でしか味わえない興奮に満ちていた。約1年半ぶりのワンマンライブであり、発声可能なライブとしては約4年ぶりの開催である。しかし、ヒゲダンはただ“還ってきた”わけじゃなかった。藤原の葛藤が結果的にバンドをグッとタフにしたと同時に、同じくタフになったファンがいたのだ。どちらか一方だけでは成り立たない有機的な相互作用である。

Official髭男dismライブ写真(撮影=TAKAHIRO TAKINAMI)
藤原聡

 ニューアルバム『Rejoice』に伴って9月からスタートするアリーナツアーまではどうしても待てなかったと藤原がMCでも話していた通り、体も心もライブに向かっていた、いたたまれない状態から実現したのが今回のイレギュラーなファンクラブ限定ライブ『Official髭男dism one-man live 2024 -UNOFFICIAL-』である。必然的に9月からのアリーナツアーも含め、今後なかなかピックアップできなさそうなレパートリーも盛り込んだ、バンドの帰還を強く待ち望んでいたコアファンに向けたセットリスト。リスナーの人生や生活の場面に溶け込んだ曲、コロナ禍で存分にライブでファンが発散できなかったかもしれない曲が、これほどまでに強く意味を持っていたのかと、再認識なんて言葉をぶっ飛ばす、心が震える場面が連続した。

Official髭男dismライブ写真(撮影=TAKAHIRO TAKINAMI)
小笹大輔

 冒頭、メンバーの登場にライブハウス全体が共振する大歓声の中、楢﨑誠(Ba/Sax)の精度を増したランニングベース、松浦匡希(Dr)のさらに洗練されたジャズドラムが駆動する「ミックスナッツ」の精度の高さに驚く。そして〈仮初めまみれの日常だけど ここに僕が居て あなたが居る〉というオープニング主題歌を務めた『SPY×FAMILY』のテーマが今日ここで久しぶりにバンドとファンが出会う歓喜に跳躍して心が震えた。さらにオリジナルバージョンのジャズアレンジによる「ノーダウト」に繋ぐのもいいアイデアだし、声を出せるファンとそれを受けるステージ上の感動がものすごい熱量で輝いている。「ホワイトノイズ」での小笹大輔(Gt)がレスポールの旨みを抽出したソロも明快な出音。ライブハウス規模で味わうレアさももちろんあるが、ライブ活動休止中に演奏の精度を上げてきたんじゃないかと感銘を受けてしまった。

Official髭男dismライブ写真(撮影=TAKAHIRO TAKINAMI)
楢﨑誠

 「みんなの声、想像の5億倍を超えとる」と驚きを隠せない藤原。バンドに思いが届いていることでさらにフロア全体に喜びが溢れる。続くセクションでは今後のツアーでピックアップされないであろうチョイスが続く。新たに高瀨洸音(Tp)という最年少メンバーを加えたホーン隊のアンサンブルが映える「Choral A」では、終盤に楢﨑もサックスで加わり、優しい色合いの重奏で締めくくる。松浦が作詞・作曲に参加した「フィラメント」の披露、繰り返される日常生活のほんのりビターで、しかも温かい「日常」での小笹の存在感のあるリフ。小笹作詞・作曲のネオソウル調の「Rowan」と、前向きにばかりなっていられない等身大の大人の男性の心情が、近いトーンの曲を続けることで色濃く醸成されていく。そこにインディーズ時代からの人気曲「たかがアイラブユー」が、今のバンドの感性とスキルでグッと洒脱なAORに昇華されたのもなんともいい流れだ。

Official髭男dismライブ写真(撮影=TAKAHIRO TAKINAMI)
松浦匡希

 かと思えば、エンターテインメントの楽しさを前面に押し出すハードなファンクナンバー「FIRE GROUND」で藤原がステージ袖にショルダーキーボードを自分で取りに行く。その様子がなんとも可笑しかったのだが、待望のあの場面を手作りで盛り上げている感じは悪くない。藤原と小笹のソロ対決から、楢﨑、宮田'レフティ'リョウ(Gt/Key)を加えたフロント4人勢揃いの場面はケレン味たっぷりである。自然と笑顔になった後、自分に向き合わざるを得ない「Laughter」がセットされる。〈自分自身に勝利を告げるための歌〉というフレーズがその時々によって刺さる背景は変わっていくものだなと、この曲の大きさを再認識した。それはきっと藤原も同じ心情だったんじゃないだろうか。この日、セットリストに盛り込んでくれたことに感謝したい。

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