Official髭男dism、新曲「SOULSOUP」も5分超え 長尺を聴かせる楽曲構成の妙
昨今のヒット曲には短いものが多い、というのは統計的なデータを持ち出さなくとも、多くのリスナーが体感しているのではないだろうか。2023年のヒット曲にはAdo「唱」、Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」、キタニタツヤ「青のすみか」など3分前後の楽曲も珍しくない。しかしそんな中、そうした風潮を意に介していないかのように、Official髭男dism(以下、ヒゲダン)の楽曲には長尺のものが多い。ヒゲダンが「Pretender」(5分26秒)や「宿命」(4分40秒)など決して短くない尺の楽曲をヒットさせている要因には、楽曲ごとの世界観に合わせたヒゲダン流の工夫があったように思える。新曲「SOULSOUP」と併せて、彼らの楽曲の構成の妙を見ていきたい。
楽曲の世界観に合わせた多彩な曲構成
まずは言わずと知れた代表曲「Pretender」について。32秒もある長尺のイントロからだんだんと盛り上げていきサビで爆発するという、J-POPのバラードとしては王道の曲構成だ。こうしたある程度の尺を使った「溜め」でしか表現できないエモーションの発露は珍しくはないが、秀逸な旋律と藤原聡(Vo/Key)の高い歌唱力によって安っぽいものになることはない。90年代から綿々と続くJ-POPの王道的な楽曲を令和の時代にヒットさせたことは、ヒゲダンというバンドの持つポテンシャルの高さを証明している。
アニメ『東京リベンジャーズ』聖夜決戦編および天竺編のオープニング主題歌に起用された「ホワイトノイズ」は曲尺自体は4分15秒と長くはないが、近年の楽曲には珍しい構成が光る。この楽曲は通常のサビ(〈瓦礫の下に埋もれた〉)と大サビ(〈ヒーローぶって笑っていた〉)の二種類のサビがある。通常のサビの段階で聴き手に十分な満足感を与えつつも、2分24秒からの大サビで藤原の代名詞と言える透明感のあるハイトーンボイスを炸裂させるという二段構えのドラマティックな構成の名曲だ。
また、シングルとしてリリースされたフル尺の「ホワイトノイズ」と、『東京リベンジャーズ』OPバージョンを比較してみるのも面白い。後者では1分30秒に収めなければならない都合上、曲構成が縮められており、サビの部分がBメロに聴こえる展開となっている。これはこれで悪くはないのだが、フル尺バージョンと比較すると大サビの爆発力に物足りなさを感じる。二つのバージョンを聴き比べることで、本来の楽曲の魅力、ひいてはヒゲダンが備えた構成力の巧みさが浮かび上がってくるように思える。なお、小笹大輔(Gt)はこの楽曲に関してFall Out Boyの「The Take Over, The Breaks Over」と同様の曲構成だと明かしている(※1)。
『news zero』(日本テレビ系)の2023年テーマソング「日常」は、5分53秒というJ-POPのシングル曲としては異例の長さだ。労働者達の日々の暮らしのやりきれなさをテーマにしたAOR的なこの楽曲は、藤原の抑え気味な歌唱と淡々と刻まれるビートがとても印象的。そして、それらが6分近い長さの中で表現されることで、どことなく堂々巡りしているような感触と、聴き手に寄り添い続ける優しい質感が滲み出ている。こうした楽曲は曲の長さそのものが、その世界観を伝える大きな構成要素になっているように思える。起伏に富んだドラマティックな展開でなくとも、長尺で聴かせる力があることを証明した秀逸な楽曲だ。