ヒプノシスマイク『.MAD TRIGGER CREW』に刻まれた3人の信念と絆 浅沼晋太郎&駒田航&神尾晋一郎 ロングインタビュー

駒田航(入間 銃兎 役)ソロインタビュー

ーーまずは『10th LIVE』の感想からお聞かせください。

駒田航(以下、駒田):『10th LIVE』で印象に残っているのは、やっぱり「ジンギ(Pay Respect)」ですね。過去最速のラップパートがあって、練習に練習を重ねたおかげで2日間とも無事言い切れました。ライブ中、いつもはみなさん手を挙げてノッてくれるんですけど、この曲が始まった瞬間、まわりのお客さんが手を組んで祈ってくれていて(笑)。その部分を歌い切った時にワーッて歓声が上がったのが、イヤモニ越しにも響いてきて感動しました。スタッフさん含めて「あんな湧き方は初めて見ました!」って。まさにリリックを叩き込むという快感があったし、その達成感も相まって『10th LIVE』は最高に楽しかったです。

ーー銃兎の楽曲は、そもそも高速ラップが多いですよね。

駒田:できると思って託されているのはすごく嬉しいんですが、毎回新しいことに挑戦するという意味では、緊張感はずっとありますね。銃兎たちもストーリーが進むなかで強敵と戦っていくじゃないですか。彼らはラップを武器として戦っているわけだから、演じる側のラップそのものも強くなっていないといけない。1年目に歌っていた楽曲を7年が経った今歌うとするならば、同じクオリティであるのは当然で、それ以上に味や色が出ていないといけない。そこが、このコンテンツの試される部分なんですよね。難しい曲をこなすだけではなく、ちゃんと自分の強みを活かし銃兎らしさをしっかりと乗せて、「さっきのヴァース最高だったな」とみんなの記憶に残るように……そう思って臨んでいます。

ーーお客さんの耳も育っていきますし。

駒田:そうなんです! 『ヒプノシスマイク』を追っていると、おのずとHIPHOPの知識が広がっていくと思うので(笑)。

ーー最初は「声優さんがラップするなんてすごい!」みたいなムードでしたが……。

駒田:もはや懐かしいですよね、その空気が(笑)。

ーー(笑)。あと、天谷奴 零役・黒田崇矢さんとのデュエット曲「白と黒」でのセリフの演出は、駒田さん自ら発案されたそうですね。

駒田:はい。この曲の面白さをもっとわかりやすく伝えたいと思ったんですよね。ミュージカルっぽさもあるし、長い間奏でこのふたりが無言で過ごすことはないだろうなと考えてシナリオを書きました。黒田さんにも直接セリフの掛け合いをお願いして。ダンサーさんも協力してくれたので、全員で思いっきりステージを楽しめてよかったです。黒田さんと僕はほとんど身長が同じだから、目線も一緒で、黒田さんの持つ圧を全身でぴったり喰らいましたね(笑)。セリフを考える時も、黒田さんが演じる天谷奴 零ならこう言うに違いないというセリフを詰め込み、そのほとんどがチェックをパスしたので、最高でした。

ーーディビジョン別CD 7カ月連続リリースの第2弾として『.MAD TRIGGER CREW』も完成しました。「Awake」のレコーディングはいかがでしたか。

駒田:めちゃめちゃ難しかったですよ! 今までも早口のラップはやってきましたけど、「Awake」はいちばん時間をかけて仕上げましたね。いつもはヴァースに時間を割くんですけど、今回はフックが非常に難しくて。リズム感と、短いフレーズのどこに銃兎を滲ませればいいのかは、なかなか答えが出ませんでした。また、「ジンギ(Pay Respect)」の時は自分のヴァースの部分だけ思いっきり肺を膨らませて頑張ればよかったけど、この曲は最初から最後まで速いから、本当に息継ぎできないんです(笑)。さらに、KVGGLVさんの仮歌のリズムとズレてしまうとラップの大事な要素が欠けてしまうから、しっかりハメていかないといけないんですけど、なかなかドンピシャにハメるのが難しくて。何回も練習しました。でも、合致すると本当に気持ちいいラップなんですよ。

ヒプノシスマイク 入間 銃兎「Awake」Trailer

ーーKVGGLVさんの仮歌はどんな雰囲気だったんですか?

駒田:ちょっと気だるげなムードで、速いなかにも緩急が巧みに織り交ぜられていて、すごくかっこよかったんですよね。そこに銃兎っぽい張り感をどうやって入れていくかを考えました。張り続けると違うどころか台無しにしてしまう、どこで張ってどこで抜くのかが重要だなと思って。それぞれの韻がもたらすリズム感があるから、その塩梅を細かく細かく丁寧に追求しました。KVGGLVさんは、速さの種類をいっぱい使い分けていらっしゃるんですよね。脱帽です。

超高速ラップの「Awake」は「過去の背景を背負っているから、言葉が強い」

ーーリリックに関してはいかがですか?

駒田:ラップ自体はいわゆるストロングスタイルではないですが、過去の背景を背負っているから、言葉が強いんですよ。前回のソロ曲「Uncrushable」からの流れに負けない強さと、その次に進んだ雰囲気を感じました。以前は「○○だ!」と言い切ったり、「絶対に許さない」という強い信念が込められていたところも、今回は問いかけのようになっている部分も多いんです。ドラマトラックとリンクするんですけど、自分の道を歩み続けた結果、一概に力だけでは解決できないことを悟ったり、ある種の無念や葛藤もあったのかな。だから、さっき言ったように声を張るばかりでは伝わらない。民衆たちをひとり、ふたりと巻き込んでいって、最終的にはみんなが銃兎の想いに共鳴している絵面を思い描いて臨みました。今までは悪い奴一人ひとりに対して机をバンバン叩いてきたとすると、今回は拡声器を持って「聞いてくれ!」という言葉から始まる演説のようなイメージですね。「俺ひとりだけじゃ無理だから、おまえたちの力を貸してくれ」という気持ちもあるのかな? 同時に、「おまえたちが困った時は安心しろ」「俺がいる」という強さも感じます。

ーーメッセージの向いてる方向が広がっているんですね。自分に言い聞かせている部分もあるようにも感じました。

駒田:そうですね。「Awake」というニュアンスが自身に向かってるものなのか、これを聞かせたうえで相手を目覚めさせるのか……どちらにせよここでもう一段階ギアを上げるんだなという感覚になりました。失速するのではなくて、大きくしっかり踏み込んで、次にものすごい勢いで走り出す前触れとして捉えています。そういうのが似合いそうなディビジョンですし。


ーードラマトラックでは、MAD TRIGGER CREWの3人はそれぞれ岐路に立って選択を迫られていきますよね。

駒田:はい。銃兎も騙されたり裏切られたり、ひとつの挫折を味わって。今まで信じていたものが折れる感覚を経験して、だからこそ、変わらずずっと絆を繋いできた3人がいるという安心感や背中を預けている空気が伝わってきました。これまでは、自分たちが強いから間違ったものを潰して正していけばゴールにたどり着くと思っていたけれど、やっぱり闇は深いなという。ドラマトラックの最後に、力のあり方について左馬刻が触れるところがあるんですけど、グッときましたね。

ーー3人の関係性も少し変化したような気がします。

駒田:最初は利害の一致で戦ってきたし、ある意味ビジネスライクなところもあったと思うんですよ。そこからお互いの人となりを知りつつ進んできた結果、それぞれ挫折を経験して、もう一度3人でMAD TRIGGER CREWの力を試す時がきた――みたいな。ちょっと泥くさくていいですよね。楽曲にもそれぞれの信念の内容が乗っている。左馬刻は「Backbone」で、理鶯は「NO WAR」で、銃兎は「Awake」。なかなか秀逸なタイトルだと思います。

ーー「Backbone」と「NO WAR」を聴いた印象はいかがでしたか。

駒田:理鶯の「NO WAR」がメロディアスなサウンドだったのは意外でしたね。あの低音だからこそイメージが固まりそうなところ、固定観念を覆しにくるスタイルがいいなと思います。左馬刻の「Backbone」も、珍しく真っ先にドスを効かせた感じじゃないんですよね。いつも必ず脅し文句があったり、圧が強いのに、今回は結構ローで攻めていて、オシャレだと思いました。だんだんクレッシェンドがかかっていく感じが気持ちいいですね。強さや恐さの表現はヨコハマはまだまだ持ってるぞという空気がたまりません。

ーー3人バラバラな個性がより際立っていますよね。「Awake」は、あらためて言葉数が全然違うので。

駒田:(笑)。速く発音した時に言葉が潰れないところを特性として、みなさんにも捉えていただいているということだと思うので。ありがたく挑戦していきたいです。ただ、ライブではどうなるんだろうなあ(笑)。

ーーたしかに(笑)。さらにスキルアップしていきたいという気持ちはありますか。

駒田:もちろんありますね。歌を歌っていて“言いにくい”と感じたことはないんですけど、やっぱりラップは速度も含めて言いづらいものがまだ全然あると感じさせられるので。自分のなかで難しさを感じられるものがあるのはありがたいことだなと思います。アクセントの位置や加速/減速、いろいろな要素で全然聴こえ方や伝わり方が変わってくるという部分でも、試せる余地はたくさんあって。個人的にはラップに対しての意欲はまったく衰えませんね。聴くのも楽しいんですよ。「なんでこれが言えるの?」とか「どうやってるの?」とか、秘密に迫りたくなってくる(笑)。

ーーでは、これからもガンガン難易度の高い曲を期待しております。

駒田:頑張ります(笑)。今のところは物語におおよそ付随している曲が多いですけど、MAD TRIGGER CREWの3人をいちラッパーとして考えた曲も面白いんじゃないかなと思っていて。時勢でもいいし、コンセプトを持った曲でもいいですが、「こういう楽曲をこのキャラクターに歌ってみてほしい」みたいな発想のラップがあってもいいと思うんですよ。たとえば銃兎だったら、薬物撲滅という大義とはまた少し違うところでのラップにも挑戦してみたらどうなる? とかを考えるだけでもアイデアが溢れてきます。「白と黒」も楽しかったので、いろいろなテイストの曲があったら絶対楽しいと思います。

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