遊遊、自分の感情を表現する歌の存在 まふまふから受けた影響、音楽活動のルーツを探る
2007年生まれ。現在16歳のシンガー 遊遊の2ndシングル曲「ハザードシンボル」はTVアニメ『怪異と乙女と神隠し』(TOKYO MXほか)のオープニング主題歌だ。作詞・作曲・編曲を手掛けたのは遊遊がリスペクトする、まふまふ。エレクトリックなシンセサウンドとバンドアンサンブルが混じり合い、ダークなテンションを無尽蔵に高めていく「ハザードシンボル」。小説家志望の書店員・緒川菫子を中心に、様々な事件が巻き起こるミステリーチックなアニメのストーリーとまふまふの世界観が融合したスリリングな楽曲に対し、遊遊の歌は怪異なムードを宿しながら、悲しみや悟り、君を求める切実さといった繊細で多面的な表情を宿し、全く引けを取らない。14歳の時にアーティスト発掘オーディション『犬コン2022!』NExT ARTIST部門でグランプリを受賞したことがきっかけでメジャーデビュー。謎のベールに包まれた遊遊にインタビューした。(小松香里)
「ハザードシンボル」楽曲提供者・まふまふへの想い
――2ndシングルの表題曲「ハザードシンボル」の作詞・作曲・編曲をまふまふさんが手がけることになったのはどんな経緯があったんでしょう?
遊遊:アニメ『怪異と乙女と神隠し』のオープニング主題歌になることが決まった後にディレクターと相談して、「こういうアニメの主題歌だったらまふまふさんに曲を書いてもらうのがいいんじゃないか」っていう話になってオファーをしたら快諾していただけたんです。
――遊遊さんにとって、まふまふさんはどんな存在でしたか?
遊遊:中学2年生の時にまふまふさんの存在を通じて、“歌い手”っていう方たちがいることを知りました。まふまふさんが作られる曲も、まふまふさんの歌も尊敬しています。まふまふさんをはじめ、歌い手の方たちの歌は、それまで聴いたことないほどに心の核心を突いてくる印象があって。まふまふさんの「それを愛と呼ぶだけ」っていうピアノのバラードが特に好きですね。キーがすごく高い曲ですが、まふまふさんの感情表現の素晴らしさを感じます。たまに1人でカラオケで歌ってます。まふまふさんの東京ドームのライブ(『ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2022@東京ドーム~』)にも行きました。音楽活動を始めるにあたって、「曲を書いてもらいたい人はいますか?」って聞かれた時にもまふまふさんの名前を挙げさせていただきました。だからこんなにすぐ叶ってびっくりしましたね。(楽曲提供が)決まったと聞いてから2日ぐらいは信じられなくて、3日目ぐらいからちょっと受け入れられた感じでした。「頑張って歌おう!」って。
――そこから曲が完成するまではどんな流れだったんでしょう?
遊遊:まずデモを2曲ぐらい作っていただいて、アニメのスタッフの方々とみんなでどっちの曲がいいかを決めて、フル尺を作ってもらいました。
――まふまふさんとお会いする機会はあったんですか?
遊遊:レコーディングの時にお会いしました。もう想像していた通りのまふまふさんでした。すごく優しい方で。緊張して何を話したかほぼ覚えてないんですが、曲の話をしたと思います。私の歌声をめっちゃ褒めてくれたのが嬉しかったですね。
――曲を聴いた時はどんなことを感じましたか?
遊遊:サビで急に音程が上がるところとか、テンポの速さとか難しい譜割にすごく“まふまふみ”を感じました。あと、この曲が『怪異と乙女と神隠し』のオープニングで流れたらすごくかっこいいだろうなって思いました。歌詞もアニメの世界観にすごく合ってるし、歌詞の最後ではっきりと感情が描かれるところが特に好きです。歌うのが本当に難しい曲なので、とりあえず頑張ろうって思って、フル尺が届いてからレコーディングまで1週間くらい聴きまくって曲を体に馴染ませて、レコーディング前日に初めて歌いました。
アニメ『怪異と乙女と神隠し』の主人公と自分の気持ちを重ね合わせた歌
――アニメ『怪異と乙女と神隠し』にはどんな印象がありましたか?
遊遊:キャラクターの一人ひとりが超魅力的だと思いました。セリフ、口調、体のパーツ、全部に対してすごいこだわりが感じられて「好き!」っていう気持ちになりました。VTuberが登場したり、内容が今風なところも好きです。怪異と和が融合しているのもめちゃくちゃかっこいい。
――「ハザードシンボル」にはアニメの世界観を踏襲した繊細な暗さや悲しみ、君への思い、悟りといったさまざまな感情が宿っていると感じましたが、それについてどう思いますか?
遊遊:わかります。歌詞にいろいろな感情が込められている中で、歌うにあたってこの主人公がどういうバイブスでいるかっていうことをすごく考えました。歌う時の自分の心の持ちようがこの主人公と合わさっていればハマると思ったので、そこを意識しました。
――まふまふさんから具体的な歌唱のアドバイスはありましたか?
遊遊:レコーディングの途中でアニメと絡めた曲の一部分の解説はしてくれたんですが、アドバイスみたいなものはほぼなかったんですよね。最初の歌のテイクをすごく褒めてくれました。Dメロの〈ボクも誰だかわからないまま〉っていう歌詞のところは、その後もう1回フィルターがかかって同じ歌詞がくるんですが、「2回目はセリフみたいに歌ってみない?」って言われました。物語に化野蓮っていう少年が出てくるんですが、化野蓮が妹に対して抱いている感情を想像してこのフレーズを歌ってほしいって。結局その歌唱アプローチは採用されなかったんですが、すごく勉強になりましたし、曲を作ってくれた人からのアドバイスは発想が面白いなって思いました。
――1BやDメロの吐息まじりの歌唱が特に印象深かったのですが、このアプローチは自分で考えたものだったんでしょうか?
遊遊:そうですね。歌詞の世界観を意識して臨むと、歌う一瞬前の息を吸う時に、なんとなくこうした方がいいんじゃないかってことがわかるんですよね。物語の主人公の(緒川)菫子さんは15歳の時に文芸クラブで書いた小説で新人賞を取ったんですが、大人になって思うように小説を書けなくなってしまって。そのエピソードは作品の肝だなと思ったので、今の菫子さんの感情をうまく出せるよう意識して歌いました。今の菫子さんはどんな顔をしてるんだろうって想像したり。
――アニメの主題歌だったからそういう歌唱のアプローチをしたのか、いつもそうやって向き合っているのか、どちらでしょう?
遊遊:いつもとあまり変わらないですが、まふまふさんがどういう気持ちで曲を作ったかを考えることが重要だと思いました。それでまふまふさんが昔作った曲について解説されている動画を観たりして。「ハザードシンボル」の歌詞からも実際のまふまふさんからも優しさが感じられたので、優しい人が言っているように意識したところもありました。
――自分が普段から持っている感情と重ね合わせるのか、アニメだったり別のところから持っていくのか、どういう感じだったのでしょう?
遊遊:自分の中の感情とうまく解釈を合わせる感じです。例えば、悲しいっていう感情があったら、自分の中にある悲しさとうまく重ね合わせられれば歌いやすいです。歌を始めてから、そういうことをしないと歌えない部分が出てくることがあったので、そうするようになりました。
――歌えない部分というのは、気持ちが込められないという感じでしょうか?
遊遊:そうですね。たまにあるんですよ。ただ一言がうまく歌えない時が。だから、すべてのフレーズに対して自分の中にある感情を重ね合わせながら向き合っています。そうすると共感しながら歌えますね。
カップリング「Emerald」は優しさを追求した一曲
――カップリングの「Emerald」は水槽さんが手掛けていますが、この曲にはどのように向き合いましたか?
遊遊:水槽さんと事前にZoomで打合せをして、自分のプライベートや曲のイメージをお話しした上で「薄い黄色の幸せなラブソングを作ってほしいです」とお願いしました。空に浮かんでる真っ白い部屋に1人でいて、そこでこの曲を歌っているっていうイメージがありました。どういう状況かは曲を聴いてくれた人が自由に想像してもらって、感情だけを描く抽象な歌詞がいいなって。Zoomの打合せをやる前に、「優しい人っていっぱいいるな」って思ったんですよね。自分も優しくなりたいと思いました。それでどんどん優しさって何だろう? と考えていって。その感覚を曲に反映したいなと思ったんです。優しさが描かれてるんだけど、相手からの見返りは歌詞には直接的には描かれていないイメージがあって……ということも水槽さんにお話ししました。
――薄い黄色っていうのはどこから出てきたんでしょう?
遊遊:水槽さんが「(曲のイメージは)何色ですか?」って聞いてくれたので「薄い黄色です」って答えました。パッと浮かんだんですよね。そしたら、曲を聴かせていただいた時にイメージ通りでびっくりしました。あと、〈今だけは〉という歌詞が入っていたりして、ただの幸せなラブソングじゃないなって思いました。そういう風に日常的に曲のテーマを考えてるところはありますね。その答えが出た時に「曲を作ろう」って思う。誰かに会って何か思いついた後、家に帰って作ったり。
――そういう作業はいつ頃から始めたんですか?
遊遊:ギターが弾けるようになって、中3の夏に受けた『犬コン2022!』のオーディションの時ぐらいからですね。