ぷにぷに電機、“SFオタク”思考が音楽制作に与える影響 『11人いる!』『銀河英雄伝説』……ルーツ作品も語る

ぷにぷに電機、SF思考と音楽制作

“クリエイティビティをつぶさない”がプロデューサーの仕事

ぷにぷに電機

ーーちなみに「The Veils」の説明には、「ミステリアスな三つ子のサイキッカーの喪失と再生を描いた楽曲」と書いてありますが、それでわかるものなんですか?

ぷにぷに電機:そうですよね(笑)。ただ、「The Veils」という曲のアレンジを依頼するにあたっては、生成AIで作ったキャラクターの画像とかもシェアして。この曲の主人公は三つ子のサイキッカーなんですけど、彼らはまだ年端もいかない少年少女で、今回のEPの中ではいちばん歳が若いという設定になっていて。というか、いっぱいSF作品を読んでいると、こういう感じの三つ子の天才サイキッカーというのはわりと定番の存在なんです。さらに裏設定で、彼らは遺伝子操作で生まれたスーパーキッズだったりするんですけど、そうなったら絶対3人のうち2人は死ぬじゃん……みたいな……この感じ、わかりますか?

ーーええと、なんとなく(笑)。

ぷにぷに電機:(笑)。この子たちはなんて可哀想なんだろう……みたいな話をTaishiくんにはして……Taishiくんは「ええ、そうなの?」って、すごく心を痛めていました(笑)。

ーーそれで、こういうしっとりした雰囲気のアレンジになったと。

ぷにぷに電機:そうなんです。遺伝子操作で生まれた子が自分のきょうだいの死とかを経験したときに、自分が所属している組織だったり社会に対して疑問を持ち始めるんですが、それを乗り越えて自分の力を正しい方向に使っていこうとする話なんですよね。話っていうか、曲なんですけど(笑)。

ーー(笑)。いずれにせよ、そういうことを考えながら、ぷに電さんは歌っているわけですね。

ぷにぷに電機:そうです(笑)。私はいろんな声で歌うということを大事にしていて。ともすれば、どの声で歌えばいいんだっけ、って迷子になっちゃうこともあるんですけど、今回は事前にキャラクターをしっかり定めたので、こういうキャラクターだからこういう歌い方でいこう、みたいなことはすごくスムーズに決めることができました。それは今までの制作にはあまりなかったことだったので、すごく良かったです(笑)。

ぷにぷに電機

ーーその世界観によって、歌い方が決まるみたいな?

ぷにぷに電機:世界観というかキャラクターですよね。そう、今回のEPは「宇宙戦争末期を舞台にした架空のSFゲーム」という設定ではあるんですけど、その「キャラクターソング集」という立て付けなんです。“キャラクターソング”ってコンテンツの中でも特殊な位置付けというか、基本的にはゲームの中では流れないじゃないですか。だから、今回の『超重力幻想』はゲームのサウンドトラックではなくて、それがあった上で、その作品の外部に存在するキャラクターソング集という立て付けになっているんですよね。

ーーなかなか複雑ですね(笑)。ちなみに、この『超重力幻想』というタイトルには、どんなニュアンスが込められているのでしょう?

ぷにぷに電機:私、カッコ良すぎる名前ってちょっと苦手なんですよね。“ぷにぷに電機”という名前もそうなんですけど、あんまりカッコいい名前だとちょっと恥ずかしいみたいなところがあって、だったらちょっと面白いほうがいいというか。今回のタイトルは全部漢字にしようと思って、まあ宇宙ものなので重力を超えたものということで「超重力」にして、「幻想」というのは字面どおりではあるんですけどフィクションという意味も込めました。そう、CDの帯の文章をスタッフと一緒に考えているときに、「超重力シリーズ」というのを思いついて(笑)。

ーーあ、これ、シリーズだったんですね?

ぷにぷに電機:というか、「あ、シリーズなんだ?」って、自分たちで言いながらウケるみたいな(笑)。何かそういうおふさげじゃないですけど、架空のものを実際にあるかのように作り込むみたいなのが楽しいんです。あと、このジャケットのデザインを、imagejackの團夢見さんにお願いしたんですけど、團さんはいろんなマンガとかの装丁をされているデザイナーさんで、いつか絶対に頼みたいと思っていた方なんですよね。だから、團さんのデザインでこのタイトルが入ると、すごいカッコいいんじゃないかって想像しながら、タイトルを決めたところもありました。

ーージャケットと言えば、このイラストを描いているのは……。

ぷにぷに電機:上田暁さんっていうガンプラとかのパッケージとかを描かれている、私が大尊敬しているイラストレーターさんなんですけど、上田さんは私の活動初期から応援してくださっている方なんです。配信はされてないんですけど、私が初めて作ったCDのジャケットも実は上田さんにイラストを描いていただいたんですよね。で、今回の作品は、原点回帰もテーマのひとつだったので、だったらぜひ上田さんにもう一度描いてもらおうと思ってお願いしました。

ーーぷに電さんは、割と毎回、こういった形でいろいろなクリエイターを巻き込みながら作品を作っていますが、いつもこんなふうに、密接なコミュニケーションを取りながらやっているのですか?

ぷにぷに電機:そうですね。私はレファレンスっていうのがあんまり好きじゃないんです。「こういうふうに作ってください」って現物を持っていくのは、クリエイターとして意味がないと思っていて。だから、イラストをお願いするときも、「こういうイラストを描いてください」って参考になるような絵を見せるのではなく、なるべく言語で伝えることを意識しているんです。それで自分のイメージと違ったものが上がってきてもそれでいいというか、むしろ自分の思い通りにならないほうがいいと思っています。クリエイターはひとりひとり違う個性を持っていて、それを出し合うべきだと思っているので、なるべく彼/彼女たちのクリエイティビティをつぶさないようにオーダーをするっていうのは、いつもめちゃくちゃ気を付けていますね。

ーー音楽を音楽で説明するのではなく、絵を絵で説明するのでもなく……。

ぷにぷに電機:そうです。なるべく言語化して、自分の思ったものと違うものが上がってきても、それを受け入れる準備ができているというか。もちろん、どの曲も“ぷにぷに電機”という名義で出すからには、自分に責任があります。それがプロデューサーである私の役割だと思っているんですけど、そこで先ほどの“クリエイティビティをつぶさない”っていうのが、プロデューサーのいちばんの仕事だなって思っていて。そこはいつも気を付けるようにしています。

ーーちなみに、そういった“プロデューサー目線”は、シンガーとしての自分にも向けられるんですか?

ぷにぷに電機:うーん、それがですね……困ったことに、プロデューサーのぷに電さんとシンガーのぷに電さんは、あんまり仲が良くなくて。

ーーそうなんですか?

ぷにぷに電機:レコーディングのときに「何これ? 全然歌えないんだけど?」みたいな感じでキレたりとか、自分で書いた歌詞なのに「全然共感できない。どうやって歌ったらいいかわからない」って言ったり、乖離している部分があって。だから、レコーディングはいつも苦しいです(笑)。というか、それって頭と身体の話なんですけど、歌詞や曲を作るための思考や想像力って身体よりも自由じゃないですか。だけど、歌っていうのは「喉」という自分の身体に関わることで、限りなく有機的であり、限りなく物質的なものなので、その限界の中で歌うしかないんですよね。だから、それをどういうふうに自分で納得するかっていうプロセスなんです。そこでなかなか決着がつかないときは、プロデューサーのぷに電さんとシンガーのぷに電さんで大ゲンカになるという(笑)。

ーー(笑)。

ぷにぷに電機:最終的にはちゃんと融合するんですけど、大変なときはやっぱり大変ですね。ただ、それはある意味、自分自身がコラボレーションの相手でもあるということなんです。さっき言ったように、何もかもが自分の思い通りになってしまってはつまらない。だから、それをどう捉えるかっていう話であって。たとえば、思っていた音と違う音しか自分は出せないってなったとき、その現象をどう捉えるか、どう納得するか、それをやるのがレコーディングなんです、私の場合は。

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