梟note、今を生き抜くために歌で届けるストーリー 弱酸性から始まった歌い手活動も振り返る
梟note(読み: ふくろうのーと)が新曲「私欲」を4月17日に配信リリースした。
2020年より弱酸性として「歌ってみた」を投稿し、動画の総再生回数は1,500万回越え。そのソウルフルかつ透明感のある唯一無二の歌声は、「歌ってみた」リスナーのみならず、多くのクリエイターからも絶賛されている。昨年はAdoの『全国ツアー2023 「マーズ」』最終公演にサプライズ出演し、その抜群の歌唱力で会場を魅了したことも記憶に新しい。そんな弱酸性が梟noteとしてメジャーデビュー。梟note名義では自身が作詞作曲したオリジナル楽曲を発表していくという。
今回発表された「私欲」は、流麗なストリングスの響きや耳に残るキャッチーなメロディが印象的。一方で歌詞は〈アタシまた今日も無様よね〉といった主人公の惨めさが描かれている。サウンドから受けるポップな印象と、歌詞の仄暗いイメージとの絶妙なギャップが面白い。
この曲で梟noteは、自分の中にある醜い部分や残酷な部分を表現したという。それでもあくまで梟noteの描く一つのストーリーとして楽しんでほしいとも語る。アーティストとして新たな歩みを始めた梟noteに、「私欲」に込めたもの、そして今後の展望について話を聞いた。(荻原梓)
ドラマーから歌い手へ 影響を受けたボーカリストも
ーー梟noteさんは弱酸性として「歌ってみた」を始める以前から、音楽をやっていたんですか?
梟note:約10年間ドラムをやっていました。親がドラムを家に置いてくれてて、それを使ってよく練習していたんです。
ーードラムが家にあるのは珍しいですよね。
梟note:家族がみんな楽器をやっていたこともあり、常に音楽に囲まれて育ってきたんです。
ーー「歌ってみた」の活動を始めるようになったきっかけを教えてください。
梟note:歌はもともと興味があったんですけど、実際に趣味として始めたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年の自粛期間の時です。家で何もすることがなくて、その時に友人から勧められました。それでONE OK ROCKのTakaさんの歌を歌ったり、ボカロ曲もすごく流行っていたので、自分の好きなボカロ曲をカバーして投稿したのがきっかけです。
ーードラマーだったけどある時から歌うことに惹かれていったんですね。
梟note:自分の歌で「人から喜んでもらえるんだ」っていう感触を知った時に面白いなと感じたんです。最初に歌を投稿をしてからその面白さにハマっていきました。
ーー梟noteさんにとって「歌ってみた」の魅力は何ですか?
梟note:一つの作品の中で、自分の切ない思いだったり、曲によっては魅力のある綺麗な声や逆に荒々しい声だったりとか、そういうものを表現できる唯一のステージだと思っています。自分は学生時代からそんなに前に出るようなタイプではなかったんですけど、「ここは可愛く歌ってるな」とか「ここはかっこいいキレのある発声で歌ってるな」と自分の歌声を聴いてくれる誰かに表現を感じてもらって、それがまた自分自身の武器や長所だと感じられるのが魅力的だなと。
ーー影響を受けたアーティストやボーカリストを教えてください。
梟note:やっぱりワンオクのTakaさんには影響を受けました。いろんな音域を巧みに使う技術は自分の土台になっていると思います。あとはメガテラ・ゼロさんもがなり声が特徴的で、自分もああいう発声をやってみたいなとリスペクトしています。
ーーボーカル面で普段心掛けていることやスキル向上のためにしていることはありますか?
梟note:シンプルなんですけど、普段から口を大きく開けて歌ったり、表情を動かして歌うことを意識しています。たとえば、特に高い音を歌う時は口を大きく開けないといけないですが、明るい曲だったら表情もちょっと笑ってみたりして、曲によって表情と口の開け方を意識して歌っています。あとジャンルの幅を広げるという意味でも、いろんな音楽を聴いたり調べたりして、自分の新しい表現方法として取り入れるために吸収しています。
ーー梟noteさんの歌声は優しくて、聴いているとなんとなく心がリラックスできるような魅力がありますよね。
梟note:自分の声はハスキーで、正直あまり厚みのある声ではないと思ってて。自分の歌声に「やさしい声」とか「綺麗な声」と言っていただけるのはすごく嬉しいんですけど、僕の中では「力強い声ですよね」といった意見もいただけるように今後は精進していきたいと思っています。
ーーもっといろんな自分を見せたいという思いが強いんですね。
梟note:はい、そうなんです。
ーーどなたから歌は教わっていたんですか?
梟note:歌は教わっていなかったんですけど、音楽は両親によく聴かせてもらっていました。両親はDREAMS COME TRUEさんがすごく好きなので、車の中でよく歌ってたりしたんですよ。それで自然と聴きながら育ったので、いつの間にか自分も歌が好きになっていました。
梟noteという名前に込められた想い
ーー最近は歌い手さんのテクニックもどんどんレベルが上がっていますが、近年の歌い手を取り巻く状況の変化について、何か感じていることがあれば教えてください。
梟note:自分の話になってしまいますが、最近YouTubeやニコニコ動画で歌ってみたを投稿した際に書かれたコメントを見ると、歌の技術的な部分に対してお褒めの言葉をいただくことが多くて。コメントを読んで「自分ってこういう技術を持ってたんだ」って気づかされる瞬間があったりしますし、周りの歌い手さんたちの技術が上がるにつれて、リスナーさんの見る部分/聴く部分もレベルが上がってきていると感じています。
たとえば、僕はよく歌ってみたでコーラスを入れるんですけど、ワンフレーズの中に本来は入ってないフェイクとか喉を揺らした表現を入れると、「ここにこういうフェイクを持ってくるのはすごくブルージーだ」ってコメントがきたり、本来は入ってないコーラスを薄く入れているのにもしっかり反応してくださったりして、すごくちゃんと聴いてくれてるんだなと思ったりします。そういうことがあると、次はもっといろんなことに挑戦してみようと思いますね。
ーー自分の成長をリスナーと一緒に楽しんでる側面もあるんでしょうか。
梟note:そうですね。それもありますし、それこそ自分が表現したものに興味を持って技術的な部分を知ろうとしてくれたり、深いコメントをくれたりするので、自分ももっとレベルアップして、いろんなジャンルの曲に触れていきたいです。自分が普段歌わない楽曲などにも挑戦して、いろんな魅力に気づいてもらえるようになっていきたいと思います。
ーー梟noteさんと言えば、弱酸性として昨年Adoさんと横浜アリーナで共演しましたよね。あの時が初舞台だったそうですが、緊張はしましたか?
梟note:すごく緊張しました(笑)。
ーーでもそんな印象は受けなかったです。むしろ堂々とした雰囲気を感じました。Adoさんとはどんなやり取りをしたんですか?
梟note:練習の時からとても気にかけてくださって。椅子に座っての表現が多かったんですが、動き方や表現の仕方についてのアドバイスをしてくれたりしました。
ーー梟noteさんにとってAdoさんはどんな存在ですか?
梟note:僕にとってAdoさんは大きな存在です。僕がこの活動を始めた頃、一番勢いのある人は誰かと言えばAdoさんでしたし、こんなにも楽曲ごとの表現の幅が広い人が存在しているのかととても影響を受けた人です。今は同じ事務所で先輩として活動しているのを見ていて、僕もAdoさんくらい大きな存在になりたいなと感じています。
ーーあの日はどんな経験になりましたか?
梟note:同じステージに立って、Adoさんの圧倒的なパフォーマンスを前にして今まで積み上げてきている経験値の違いなどいろいろ感じるものはあったんですが、いつか梟noteとして、自分の力であの舞台に立ちたいという強い決意を抱いた体験でもありました。
ーーなるほど、自分自身のモチベーションを高めてくれたステージでもあったわけですね。そもそもなんですが、「弱酸性」と「梟note」はどのような違いがあるんですか?
梟note:弱酸性は歌い手として始めた名前なので、歌い手としての活動は弱酸性。梟noteは自分のオリジナル曲を発表するアーティストとして活動していくためのものです。
ーーもともと作詞作曲をしたいという思いはあったんですか?
梟note:もともとは誰かの歌を自分も歌いたいっていう気持ちでカバー曲をたくさん出していたので、作詞作曲する気はなかったんです。ただ、ある日TikTokを見ていたらオリジナル楽曲を上げている方がいて、「もしかしたら自分にもできるんじゃないか」と思ったんです。それでまずサビのメロディだけ考えて作って、それに合うAメロとBメロを作って、ワンコーラス作ってみようとなったのが作詞作曲を始めたきっかけです。最初のオリジナル曲は弱酸性名義でリリースした「Temptation」という曲です。自分が作った歌にちゃんとアレンジもついて、今世の中に出てるのが嬉しいですし、ありがたいと感じています。
ーーちなみに梟noteという名前にはどんな意味があるんでしょうか?
梟note:学生時代に部活とかで肉体的にも精神的にもしんどい日々が続いていたんですが、その中で唯一リラックスできるタイミングが夜でした。深夜に好きな音楽を聴いたり、好きなことをする時間が本当に自分にとって救われる瞬間だったんです。そういう夜というものの象徴として「梟」という存在を選び、今後自分の書いた音楽で世の中の人たちを少しでも明るくできたらと思って「人生を綴る」という意味で「note」という言葉をつけました。