TOOBOE、1stアルバム『Stupid dog』は名刺代わりに “自分は愚かだ”と思うリスナーに届けたいこと

TOOBOE、1stアルバムは名刺代わりに

 ボカロPのjohnによるソロプロジェクト・TOOBOEがメジャー1stアルバム『Stupid dog』をリリースした。

 今作は、擬態するメタが制作したMVも話題になったデビューシングル曲「心臓」を始め、テレビアニメ『チェンソーマン』の第4話エンディングテーマ「錠剤」、テレビドラマ『往生際の意味を知れ!』の主題歌「往生際の意味を知れ!」、お笑いコンビ・マヂカルラブリーの野田クリスタルがMVに出演し話題となった「チリソース」など、デビュー以降リリースした楽曲に新曲6曲を加えた計17曲が収録。完全生産限定盤はオリジナルキャラクターの“ANGRY DOG”のぬいぐるみや、アルバムのために描き下ろされた「ヴィランノート2」を封入し、音楽だけでなくアート面の才能も発揮しているTOOBOEらしいパッケージとなっている。また楽曲には『チェンソーマン』でマキマ役を担当した声優の楠木ともりや、友人でもあるクリエイター・煮ル果実が参加。TOOBOEプロジェクトの広がりを感じさせるものにもなっている。

 多岐にわたる活動で人気を博す現在のTOOBOEに、ようやく完成した“名刺”だというこのアルバムに込めた思いを聞いた。(荻原梓)

「心臓」MVのヒットは「バズって一発屋になるのが怖かった」

TOOBOE 撮り下ろし写真

ーーワンマンツアーやイベント出演、レギュラーラジオの開始など、昨年は充実していたと思いますが、振り返るとどんな年でしたか?

TOOBOE:ネットで活動してるとお客さんの顔が見えないんですけど、ボカロPのjohn名義の時代から描いてきたキャラクターをフィーチャーしたコラボカフェを開催したことで、自分の作品が人に愛されているのが実体化した初めての年だったなって思います。

ーー見える形で実感できたと。

TOOBOE:そうですね。コラボカフェって僕自身はいなくて、楽曲のMVに登場したキャラクターだけがいるんです。その子たちに会いに来てくれるってシンプルにすごいことだなって。自分が作ったコンテンツの力が思ったよりちゃんと育っていたのが実感できた年でした。

ーーそうしたアート面も愛されているのはTOOBOEさんならではですよね。

TOOBOE:自分は半分絵描きのようなものなので(笑)。去年は音楽はもちろん、絵の方も大きかったですね。

ーーずばり2023年を一文字で表すと?

TOOBOE:“悪”じゃないですか。

ーー悪!

TOOBOE:僕が作ってきた悪役のキャラクターのjohnヴィランズ/johnヴィランガールズが愛された年だったので。(パーソナリティを務める)ラジオも『TOOBOEのわるあがき』というタイトルですし、総じて“悪”ですね。

ーーアルバムを完成できたということについてはいかがですか?

TOOBOE:僕は今まで、ボカロ時代も物としてアルバムを出したことがなくて、ずっと配信だけでした。そういう中でイベントなどに出るにあたって「僕はこういうことをやってます」っていう一番新しい名刺がEP『錠剤』だったんです。でも、それ以降もいい曲を出してきたつもりなので、今回のアルバムを作ったことで、やっと名刺として配れるものができたかなって思います。

ーー完全生産限定盤はぬいぐるみが付属したTOOBOEさんらしいデザインですよね。

TOOBOE:箱のデザインはアメリカのおもちゃ屋に並んでるようなガレージ感をイメージしました。ぬいぐるみの他にも、僕が描いたキャラクターの設定資料「ヴィランノート2」と、ライブ映像と座談会の映像を収録したBlu-rayを入れています。今の時代ってサブスク全盛期なので、CDはめっちゃ豪華かめっちゃシンプルかの両極端なものしか欲しくならないと思うんです。それならいっそめちゃくちゃ豪華にしようと思って。CDが入っていると知らずに買ってもらいたいくらい自信作です。

ーー今回のアルバムはメジャーデビューからの集大成といった意味もあるかと思います。TOOBOEさんと言えばデビュー曲「心臓」のMVがいきなり話題になりました。あの頃はどんなことを考えていたんですか?

心臓 / TOOBOE

TOOBOE:今思うと怖かったですね。

ーー怖かった?

TOOBOE:個人的にはバズって一発屋になるのが怖かったんです。ゆっくり行きたいっていうのはずっと周りにも言っていたことなので、思ってたよりも跳ねちゃって「怖いな」って思ってました。結論から言うと、いい感じにおさまってくれたんですけどね(笑)。

ーー「錠剤」が『チェンソーマン』の第4話エンディングテーマに起用されたのも大きかったですよね。

錠剤 / TOOBOE

TOOBOE:ありがたいのは、実現するかは別として、新しいアニメが発表されるたびに「このアニメの主題歌はTOOBOEさんにやってほしい」と言ってもらえるようになったことです。それって『チェンソーマン』をやる前には絶対になかったことで。そういう声をいただくと、「この人は原作のあるものにちゃんと真摯に作れる人だ」っていうのが伝わったと思えて嬉しいです。

ーーやはり反響は大きかったですか?

TOOBOE:大きかったですね。でも、世間的には「『チェンソーマン』の人」になってると思うので、2024年の目標はアニメを飛び越えて売れることですね。タイアップ先を飛び越えて、ちゃんと曲が評価されるように、というのが目標です。

TOOBOE 撮り下ろし写真

ーーさて、そうした期間を経てリリースする1stアルバム『Stupid dog』ですが、直訳すると“愚かな犬”という意味になるこのタイトルに込めた思いを教えてください。

TOOBOE:今回の収録曲は作風がはちゃめちゃにばらばらだったので、これを1枚のアルバムにまとめるとなったときに“ばかばかしい”みたいなキーワードが思い浮かんだんです。ストーリーもない、コンセプトもない、このバラエティ感を考えると「ばかばかしい曲がいっぱい入ってます。そういう曲をやっている人間です、私は」みたいな。それと僕はjohnとして活動してた頃からずっと犬のアイコンなんですよ。TOOBOEのプロジェクトを始めたときも“負け犬の遠吠え”から引用して、ルーザー感を出していたので。

ーーTOOBOEさんがそこまで犬に惹かれる理由は何でしょうか?

TOOBOE:犬にとっての世界には、飼い主しかいないんです。そこに惹かれるんですよ。最近ちょうど似たようなモチーフの『スラムドッグス』という映画を観たんですけど、主人公の犬の飼い主がめちゃくちゃクズな人間で、でもその人しか知らないからその人にしか愛されるしかない。アルバム制作より後にたまたま観たんですけど、言語化するとしたら近いかなと思ってます。そういう世界観が全曲を通して多かったんです。

ーー犬はダメな飼い主でも従うしかない。

TOOBOE:そうです。『往生際の意味を知れ!』も主人公の市松(海路)くんがまったくいい人とは思えない(日下部)日和という人に振り回される。それはその人しかいないからで。『チェンソーマン』のデンジくんもマキマさんしかいないから支配されるしかない。頭の中でおかしいと思ってるけど、信じるしかないよねっていう。自分の好きな言葉が“渇愛”なんですけど、そうやって「愛されたい」と渇望してるのが犬という生き物だと思っていますね。

ーー“渇愛”という概念に惹かれるのは、TOOBOEさんの生い立ちが関係してますか?

TOOBOE:うーん、そこはそこまででもないですね。単に好きな作品に多いんです。『チェンソーマン』然り、普段読んでいる他の漫画然り、余裕がなくて「愛されたい」と思っている瞬間が一番人間が人間らしくある瞬間なんじゃないかなと思います。

ーー1曲目「廻する毒素」はこれぞTOOBOE作品といった歌詞とサウンドですが、タイトルが気になりました。体に回っていく毒という意味だと思いますが、それこそ「錠剤」も体内に注入するものですし、「ミラクルジュース」や「チリソース」など、TOOBOE作品には体内に取り込むものへの不信感を常に感じます。

TOOBOE:感情とか概念とかを食すっていう考え方が好きで。感情って咀嚼するイメージがあって、逆に吐き出せば吐き出すほど体が軽くなるものだから、栄養だったり毒だったりと一緒で、食事と似てるなと思ってるんです。音楽も摂取するものなので、僕の曲は毒みたいに聴いた後に体に回っていくようなイメージで作ってます。

ーーなるほど。

TOOBOE:スガ シカオさんのフェチズムが好きなんですけど、スガさんも人体を概念として捉えて何かを食すような描写をするんです。たとえば「Call My Name」という曲では、恋人とキスしたらその人の口から内臓まで繋がっていることを想像して気持ち悪くなったっていう歌詞があるんですけど、そういうことを言えるのがすげえなって(笑)。結局、人体って上辺は綺麗でも中身はグロさがある。世の中、綺麗なことだけじゃないよっていう、そんな歌詞が好きで。人間もまったく菌の入ってない人は、僕自身あまり友達にはしたくないですね。

ーーちょっと毒を持ってる人のほうが。

TOOBOE:それぐらいのほうが、僕は楽しいんじゃないかなって思いますね。

ーーそういう意味でも〈赫くも蒼くもない私の感情〉という歌詞は象徴的なフレーズですよね。

TOOBOE:グレーであることやグラデーションが生き物の良さだと思うんです。今の世の中って絶対にいい人か悪い人かでしか判断しない。だから僕はSNSを辞めたいんですけど、グレーな部分をよしとしないとやっていけないよってずっと思っていて、真ん中を受け入れようぜっていうメンタルがあります。

ーー楠木ともりさんをゲストに迎えた「紛い者」も印象的でした。楠木さんがボーカルで参加した経緯を教えてください。

TOOBOE:楠木さんのラジオに呼んでもらって、そこで「曲を作ってください」っていうやりとりがあったんです。その後に彼女のアルバムに「青天の霹靂」を提供したんですけど、その時にもう少し楠木さんの声を生かせればよかったなっていう反省点があったんです。

ーーそれを生かそうと。

TOOBOE:楠木さんってかっこいいソリッドな声も出せるし、可愛いのもできるし、ウィスパーで息が多い声もすごくいい。僕が書いた曲はソリッドなものでしたけど、他の方がアルバムに提供した曲には「こういう声も出せるんだ」ってその引き出しの多さに驚いたものもあって。さすが声優さんで、その調節が器用ですよね。僕の中での第一印象は『チェンソーマン』のマキマ役でしたけど、もっといろんな魅力を引き出したいと思って作りました。

ーー歌詞はどんなことを表現しましたか?

TOOBOE:楠木さんは若くして大成しているので、急に成功しちゃうとそのスピードに追いつくのが大変ですよねって話をしたんですど、僕も楠木さんほどまでではなくとも「錠剤」でいきなり知名度が上がって、そこに対する自分のスキルはぶっちゃけ追いついていない。「紛い者」を書いたのは、それに追いつくために一生懸命やっていた時期だったので、その必死な思いを楽曲として表現するときに、楠木さんが一緒に歌ってくれたらもっと説得力が出るんじゃないかなと思ったんです。急な世間の評価に必死に頑張って食らいついていこうっていう歌詞を、一緒に歌って世に出せたら面白そうだなと思って書きました。

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