『WIND BREAKER』EDテーマは個性を認める歌 Young Kee、音楽が自身の存在理由になるまで
シンガーソングライター Young Keeの新曲「無敵」が4月クールTVアニメ『WIND BREAKER』(MBS・TBS系)のエンディングテーマに決まった。
洋楽ポップスからヒップホップ、J-POPまで、様々な音楽から影響を受けたYoung Kee。幼少期にはクリスティーナ・アギレラなどのポップスターに魅了され、高校時代は軽音楽部でバンドを結成。2021年からソロ活動を開始すると、あらゆる境界を飛び越えたその唯一無二の音楽性で徐々に注目を集めてきた。
「無敵」は、Young Keeが実際に原作の人気漫画『WIND BREAKER』を読んで主人公の桜遥に抱いたシンパシーを落とし込んだという。疾走感のあるバンドサウンドの中にも人間の繊細な心情が描かれたこの曲。この楽曲を作り上げたことで、Young Kee自身も「自分でも気づいてなかった自分の強さに気づけた」という。自分自身をアウトサイダーだとも話すYoung Keeに、これまでの人生についてや、『WIND BREAKER』の魅力、そして楽曲に込めた思いを語ってもらった。(荻原梓)
海外のポップスターから米津玄師『YANKEE』まで、音楽の原点
ーーYoung Keeさんの音楽との出会いを教えてください。
Young Kee:最初に音楽とか、人に見せるショーやパフォーマンスというものに出会ったのが、小学校3年生で映画『バーレスク』のDVDを母と一緒に観た時のことでした。アメリカで成功したいという夢を抱いて歌手を目指している女性のサクセスストーリーなんですけど、その主人公役をクリスティーナ・アギレラが演じてて、劇中でもアギレラが実際にパフォーマンスをする作品です。
ーーそれを観て感動したことが原体験になっていると。
Young Kee:そうですね。その作品を観た時に音楽やダンスから感じる喜びを知って、自分の中で音楽というものにハマっていくきっかけになります。アギレラのことを好きになってからは、ブリトニー・スピアーズだったりマイリー・サイラスのような、その時代時代に活躍していた歌姫をどんどん好きになりました。
ーーいわゆるディーバと言われるようなポップスターたちですね。
Young Kee:そういうアメリカのポップシンガーの音楽は、自分の生きている日常からは見られないものを見せてくれます。ゴージャスな世界観で、日常から離れさせてくれるような規模感だから、インスピレーションも受けたし憧れていました。当時の自分はなんでもできるみたいに勘違いする中二病みたいな時期で、「自分は海外のポップスターに絶対なれる」って何の根拠もないのに信じてましたね。英語もちょっとしかできないのに(笑)。そうした出会いもあって、中学3年生くらいまでは洋楽ポップスやビルボードのランキングに入るような、メジャーな音楽に傾倒していたんです。
ーーYoung Keeさんは今では音楽だけでなく様々なカルチャーが好きなんですよね。音楽からどのように興味が広がっていったんですか?
Young Kee:僕は大体、好きで聴いていたアーティストが身につけてる衣装のブランドや、ライブ演出に関わっている人だったり、その人たちに関連したものに魅力を感じることが多いんです。それにもともと音楽とファッションは関係性がすごく近いですし、服も音楽もアートも繋がってるなって思うので、そういう流れでカルチャー全体が好きになっていった感じですね。
ーー好奇心は旺盛なタイプですか?
Young Kee:どうだろう。好きな分野に関しては興味があるんですけど、興味ないものにはまったくなんですよ。たとえば一つの曲を好きになったら、僕はめちゃくちゃリピートするほうで、同じ曲を100回くらい聴いちゃう。同じアーティストの曲もメジャー時代からインディーズ時代まで全部聴きたくなる。僕はその人から滲み出ているバイブスみたいなものに共鳴して好きになるから、どちらかと言うとそのアーティストごとに好きになることが多くて、いろんなものを手広くというよりは、一つを掘り下げてとことんのめり込むタイプです。なので、今はいろんなカルチャーが好きではあるんですけど、それはこれまで生きてきた蓄積ですね。
ーー日本の音楽を好きになったのはいつ頃ですか?
Young Kee:兄が漫画だったり、流行ってるJ-POPをキャッチする能力が高い人で。その兄に「これめっちゃいいから聴きな」って言われて、米津玄師さんの『YANKEE』というアルバムを貸してもらったことがあったんです。中3くらいまで海外の音楽しか聴いてこなかったんですけど、兄に「洋楽もいいけど日本の音楽もカッコいいよ」って言われたので聴いてみたら、日本語ならではの郷愁を感じるし、日本人だから言葉の意味もスッと入ってくる。そこから歌詞というものに対する見方も変わったし、歌詞が自分の中で重要なものになりました。
ーーそれで日本の音楽のよさに気づいたんですね。
Young Kee:日本人にしかわからない感覚だったり、ちょっと湿っぽい懐かしさを感じるようなメロディや、歌謡曲要素のある米津さんのサウンドに感銘を受けたんです。それで日本のアーティストの音楽も聴いていこうと思って、椎名林檎さんや東京事変、女王蜂だったりが今の自分のルーツになってます。その出会いが高校生になる前で、それがきっかけで高校では軽音楽部に入って、バンドを組みました。
「音楽は大袈裟でもなんでもなく、生きる上で絶対に必要なもの」
ーー高校時代のバンドではどんな音楽を?
Young Kee:どちらかと言うと、フラストレーションをライブで爆発させるみたいなバンドでした。後々は成長して変わっていったんですけど、最初の1年はただただ楽器に負けないように叫ぶみたいな感じでしたね。
ーーそのバンドは高校卒業後も続けたんですか?
Young Kee:いえ、僕以外のバンドメンバーはみんな進学して、僕一人だけで音楽をやっていく道に進みました。進学校だったので、「大学なんて行く意味なくない?」と思ってたのは僕くらいでした。
ーー周りはみんな真面目だったんですね。
Young Kee:その高校を選んだのは校則が緩かったからなんです。その高校は髪色もファッションもピアスも、自己表現はなんでも自由。その代わりしっかり規律を守った学生生活をする。まあ僕は全然できてなかったんですけどね(笑)。もともと中学の時に校則に縛られてた感覚がものすごくあって、とにかく「自由になりたい。学ランを脱ぎたい」と思ってました。だから高校受験でちょっと頑張って勉強して、その高校に決めたんです。
ーー高校生になって一気に自分を解放したと。
Young Kee:当時の自分の服装なんて着物の羽織りとか着てたし、「本当にそんな格好で街歩くの?」って言われるくらいの格好をしてたと思います。自由な校風の学校の中でもかなり浮いてました。
ーー2021年にはソロでシンガーソングライターとして活動開始しますよね。名前のYoung Keeにはどんな意味があるんですか?
Young Kee:「ヤンキーです」って言うと「全然ヤンキーじゃなくない?」みたいな感じで、全然強そうじゃないし弱そうだからそれも面白いなと思ったのもあるし、海外のラッパーも大好きでよく聴くんですけど、ラッパーって名前の頭によく「Young」をつけるので、ちょっとラッパーっぽい雰囲気も出したいなって思ったんです。でも一番大きいのは、米津玄師さんのアルバム『YANKEE』が日本の音楽に出会ったきっかけだったので、それに影響されてます。
ーー名前に自分のJ-POPルーツみたいなものを冠してるのは面白いですね。
Young Kee:そもそも『YANKEE』っていうアルバムの名前のつけ方が超かっこいい。ジャケットも米津さんが描いた絵なんですけど、バイクみたいな感じでかっこいいし、アルバムに『YANKEE』ってローマ字でつけるのは斬新だなと思ってます。あと、国籍をわからないようにしたいとも思ってたんです。あらゆる部分でボーダーレスでありたい。ひと目だけでジャッジされたくないから、全部わかるようにしたら面白くないなと思ってます。
ーーたしかに正体不明な、どこか謎めいた存在感がありますよね。
Young Kee:ありがとうございます。
ーー少し抽象的な質問になってしまいますが、Young Keeさんにとって音楽はどんな存在ですか?
Young Kee:僕にとって音楽は、大袈裟でもなんでもなく、生きる上で絶対に必要なもの。もっと大袈裟に言うと、人生そのものかもしれなくて。それは自分が制作する視点だけじゃなくて、学生時代に自分は音楽に助けられたし、救われたし、自分が普段見てない景色を見せてくれた。だから音楽という概念自体に感謝してるし愛してる。絵とか服も好きだけど、一番好きなのは音楽。本当は作るより聴くほうが好きなんですよ。それくらい本当にポップミュージックが好きで、自分のやりきれない感情を包み込んでくれるような音楽が世の中にはたくさんあって、それに助けられてきました。本当にないと生きていけないくらい四六時中、音楽を聴いてます。酸素的な存在ですね。