2024.04.18 19:00

梟note、今を生き抜くために歌で届けるストーリー　弱酸性から始まった歌い手活動も振り返る

文・取材＝荻原梓

最後まで救われないストーリーを描いた理由

ーー新曲「私欲」の曲作りはどのように進めましたか？

梟note：まず最初に、自分の中にある醜い部分や残酷な部分を表現したいと思って、曲もちょっとダークな雰囲気にするつもりでした。ただ制作を進めていく中で、梟noteとして醜い部分を表現しただけだとちょっと物足りないなと思い、自分の中には汚らしい部分もあるけど、それでも自分らしく生き抜いていこうという方向性に変えて、少しメロディも明るく、ただ歌詞は現実的なものにしたいなと思って、そういうバランスで作っていきました。

ーー今の時代、自分の綺麗な部分だけ見せたいみたいな風潮も強いですが、醜い部分を描きたいと思ったのはなぜですか？

梟note：綺麗でまとまりのいい表現で収めるのもいいとは思うんですけど、やっぱり何かしら自分の好きなメロディの中にも、それと相反する現実的な要素を入れたいと思っていて。曲を作る時になるべくリアルに描きたいという思いが必ず頭の中にあって、それがそうさせてるんだと思います。歌詞は最初、音に合ったフレーズを当てはめるだけでした。でも歌詞を読んで聴いてくださる人もいるので、そういう人たちにもストーリーを楽しんでもらえる曲にしようと思って、リアルな辛い表現を入れています。

私欲 - Music Video / 梟note

ーーアレンジを担当した吉村隆行さんとはどんな話をしましたか？

梟note：「私欲」は儚くて少し残酷な歌詞なので、綺麗な曲調の中にもどこか不安定な要素を入れたいと思い、吉村さんに不安定な踏切音や不気味な要素をつけ足してほしいとお願いしました。あとはBメロからサビに繋がっていくところは、最初はスパっと切っていたんですが、綺麗に繋げて、その中で少し不気味なものを入れたいなという思いで、サビのドラムの音やリズムをちょっと変えてほしいとお願いしました。楽器の音もなるべく歌にフォーカスしてほしかったので音数を少なくしてもらったりもしています。

ーー歌詞でこだわったポイントを教えてください。

梟note：歌詞はこれまで作ってきた曲と比べても特に残酷な表現が多くて、救いのない状態から始まって、やっぱり最後まで救われないというストーリーにしました。なので、最初が〈アタシまた今日も無様よね〉から始まって、最後が〈普通にはなれない／今を生きよう〉で終わります。この歌詞の暗さにはこだわりました。曲の主人公は自分の将来に希望がない人で、「本当はこういう生活をしたい」という理想はあるけど「私にはその力がない」と諦める。変わろうとしても、それは本当の私じゃないし、私には変わる勇気もない。だから私は普通にはなれない、今を生きようという終わり方をしています。

ーー「愛ばっかり」や「patience」にも共通すると思いますが、梟noteさんの楽曲にはそうした主人公の報われなさや惨めさが印象的です。こうした主人公像を歌う理由はなぜですか？

梟note：どれも僕は体験したことのないオリジナルのストーリーなんですけど、僕は綺麗にハッピーエンドで終わる形があまり好きではなくて。どうしてもリアルな表現を入れたいという気持ちがあります。たとえば、「オボツカナシ」は夜の都会で男性が女性を口説こうとしている歌で、男女の駆け引きを描いているんですが、現実にもありうるシチュエーションを切り取っています。「patience」はDVを受けている主人公の女性が救われない日々を歌にしました。そういう具体的なストーリーを綺麗なメロディに乗せたいというのが自分のこだわりとしてあって、それで主人公像が近くなっているのかなと思います。

オボツカナシ - Music Video / 梟note

patience - Music Video / 梟note

ーーそこには同じような体験をしている人に聴いてほしいという思いがあるんでしょうか？

梟note：それもありますし、聴く人によっていろんな解釈が生まれてくると思うので、梟noteの作るストーリーとして楽しんでもらいたいと思っています。

ーーあくまでフィクションとして。

梟note：そうですね。オリジナル楽曲には自分が想像もしなかった解釈や考察をしてくださる方がいて、そういう人のコメントを見て自分も面白いなと感じています。梟noteの曲は一つのストーリーとして楽しんでほしいですね。

「生きるのが辛い人たちにとって自分の歌が夜明けになれたら」

ーーレコーディング時のエピソードがあれば教えてください。

梟note：「私欲」に限ったことではないんですけど、必ずワンフレーズ歌う時に何を意識するのかをメモしています。たとえば、サビの〈醜い姿でも生き抜くから／何も知らないお前らはそこで良い子にしてろよ〉では、自分の醜い姿を想像しながらそれでも強く生き抜こうという意識で少し力を込めつつ、冷めた感じのフレーズでもあると思うので、そこにどういう表現を持ってくるか、どういう声を乗せていくかを考えました。

ーーこのフレーズは聴いているといきなり命令形がきてギョッとするんですよね。

梟note：驚かせたかったというのはあります（笑）。ここで「今なんて言った？」って聴き直してほしくて。

ーーこの曲ではどんなことを伝えたいですか？

梟note：この歌では〈醜い姿でも生き抜くから〉とか〈アタシの不幸であなたが幸せなら〉といった自己犠牲を歌っています。実は僕もそうで。あまり自分を出さない人間なのでちょっと重なる部分はあるんです。そういう僕みたいに自信のない人でも強く生き抜いている。でも、それでも報われない未来がある。しんどいけどそういうメッセージを込めた曲になっています。

ーー今後どんなアーティストになりたいですか？

梟note：僕は学生の時から音楽に救われてきた身なので、今度は僕がリスナーさんにとって少しでも力になれるような音楽を作っていきたいと思っていますし、もっと自分の音楽ジャンルの幅を広げて、歌の技術も高めていって、たくさんの人に届けていきたいです。そして、いつか自分の力で横浜アリーナに立ちたいですね。

ーー5月5日に開催する1stワンマンライブ『梟note 1st Live – Diluculo』への意気込みをお願いします。

梟note：このライブでは弱酸性と梟note、歌い手としての姿とアーティストとしての姿の両方でライブをするので、昔から知ってくださっている方にも、梟noteになってから知ってくれた方にも、どちらの方にも楽しんでもらえるライブになると思います。なので、僕はこれまでの活動の集大成と言えるくらい最高のパフォーマンスをしたいですね。

ーーライブタイトル『Diluculo』にはどんな思いを込めたんでしょうか？

梟note：ラテン語で「夜明け」という意味の言葉なんですけど、どんなに辛い毎日でも朝になればまた次の一日が始まるように、生きるのが辛いと思う人たちにとって自分の歌が夜明けになれたらという思いでつけました。学生時代に自分が救われた音楽を、今度は僕がたくさんの人に届けたいです。