ウォルピスカーター、超学生らとの共作で高音ボーカルのさらなる極みへ アルバム『余罪』レビュー

ウォルピスカーターが更新する高音の可能性

 歌い手・ウォルピスカーターが4年ぶりのアルバム『余罪』をリリースした。2012年に動画投稿サイトにて歌い手としての活動をスタートしたウォルピスカーターは、ユニークなスタンスを持ち続けながらキャリアを重ねてきている。それは“高音”にこだわり続けていること。ハイトーンボイスがトレードマークで、“高音出したい系男子”の異名を持つ。歌声の音域は3.5オクターブで、2023年に音楽番組『関ジャム 完全燃SHOW』(現:『EIGHT-JAM』)にてAdoから「歌声がすごい」と紹介をされたことも記憶に新しい。

 一般的に言えば、ボーカリストにとって、ハイトーンで歌うことができるというのは、いわばスキルやスペックのひとつである。言ってしまえば、高い音域の声を出すことができるということが、そのまま歌唱力とイコールで結びつくわけではない。ネットシーンに出自を持つ歌い手のカルチャーはバンドやシンガーソングライターなど他のフィールドに比べて声の個性や魅力に惹かれるリスナー層が比較的多いと言えるが、高音が出せることがそのまま人気につながるわけではない。

ウォルピスカーター「レインコート」MV

 それでもウォルピスカーターはハイトーンをアイデンティティとして打ち出し続けている。“高音のスペシャリスト”であり続けている。その活動は「歌ってみた」動画の投稿や楽曲のリリースにとどまらず、2021年には著書『自分の声をチカラにする』も刊行された。独学で1オクターブ半の音域を広げた経験に基づく、声の仕組みと磨き方を綴ったエッセイ本だ。

ウォルピスカーター「オイルライター」MV

 なので、新作のキーポイントも当然「声」ということになる。アルバムは数々のボカロPや作曲家が書き下ろしたオリジナル新曲を8曲、カバー曲(歌ってみた)を3曲収録した内容。まず興味深いのは本人がセレクトしたJ-POP名曲を含む3曲のカバー曲だ。原曲キーでの歌唱は、それぞれの方向性でハイトーンボイスの表現力を突き詰めたものになっている。

 まずはトーマ「九龍イドラ」のカバー。この曲がアルバム全体でも最高音域となる。トーマは2010年代初頭に活躍したボカロPで、マスロックやポストハードコアを影響源にした複雑で装飾過剰な曲調を得意にした鬼才。この曲の畳み掛けるようなハイトーンのメロディは「ボカロ以降の高音」の象徴だろう。

 そして、まったく違う方向性を見せるのがレベッカ「フレンズ」のカバー。この曲のハイトーンは「中性的な高音」が追求されている。レベッカは紅一点のボーカル NOKKOを擁し80年代のバンドシーンに活躍したロックバンド。印象的なシンセのフレーズなど曲調やアレンジは80’sっぽいレトロ感が漂い、サウンドの時代感という意味ではアルバムの中でひときわ“浮いている”。ウォルピスカーターの歌声にも女性らしさが漂う。

 小野正利の「You're the Only…」のカバーは「迫力の高音」を示すセレクトだ。1992年にドラマ主題歌としてミリオンセラーを記録したこの曲は、駆け上がるメロディと張り上げるようなボーカルを活かしたパワーバラード。もともとハードロックバンドのボーカリストとしてキャリアを始め、現在ではメタルバンドGALNERYUSのボーカリストとしても活動、『HUNTER×HUNTER』など数々のアニメ主題歌もつとめる小野正利は、キャリアを通して力強いハイトーンボイスを打ち出してきた、ウォルピスカーターにとっては先達とも言える存在。リスペクトを示す選曲とも言える。

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