乃木坂46、乗り越えた“試練”を糧に進む13年目への一歩 全124曲披露した12回目の『バスラ』

乃木坂46、12回目の『バスラ』レポ

 2012年2月22日に1stシングル『ぐるぐるカーテン』をリリースした乃木坂46も、今年の同日にデビュー12周年。昨年の同時期に横浜アリーナで5日間にわたり開催された恒例のバースデーライブ(バスラ)『11th YEAR BIRTHDAY LIVE』では、同公演をもってグループを卒業した1期生・秋元真夏から3期生・梅澤美波へとキャプテンが引き継がれ、グループとして新たな一歩を踏み出した。その後、複数回にわたるアンダーライブ、毎夏の恒例行事である『真夏の全国ツアー』を通じて、グループにとって大きな課題だった世代交代を見事に達成させた……筆者はそう思っている。

 見ようによってはビギナーズラックと受け取ることもできた、新生・乃木坂46にとっての2023年。となると、“二度目の2年目”である2024年こそが真価を問われる1年になるのではないか……その第一歩となる『34thSGアンダーライブ』(1月25〜27日、ぴあアリーナMMで開催)は5期生の中西アルノを座長に、新たな物語を綴っていくひたむきさが好意的に受け入れられたが、今年最初のグループ全体ライブ『12th YEAR BIRTHDAY LIVE』はどうだったのか。意地悪な見方になってしまうが、3月7〜10日にさいたまスーパーアリーナで開催されたこの“バスラ”こそが、グループの未来を占う上で重要になるのではないだろうか。

 バスラというと(イレギュラーな年もあったものの)かつてはそれまでに発表した全楽曲を披露するという、ファンにとっては年に一度の貴重な機会であり、メンバーにとっては困難や労力を伴う期間でもあった。しかし、『8th YEAR BIRTHDAY LIVE』(2020年2月21〜24日、ナゴヤドームで開催)での全200曲披露を最後に、この形は一度終了せざるを得なくなった。それは、同ライブ前後から世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスの影響も大きい。乃木坂46のような大所帯グループが感染対策をとりながら、長期間にわたるリハーサルや、時には1公演3時間を超えるライブを連日行うことが難しくなり、2021年は期別ライブを中心に、2月から5月にかけて分散させて無観客配信で開催。デビュー10周年を迎えた2022年は状況が緩和され始めたこともあり、過去最大規模となる日産スタジアムでの2DAYS公演を有観客にて成功させた。さらに、昨年はいよいよ観客の“声出し”も解禁され、コロナ禍以前に近いレギュレーションでのバスラが実現したが、基本的には3〜5期による期別ライブが中心。グループの歴史を振り返る、以前のような内容とは一線を画するものだった。

 そして2024年、乃木坂46は12回目のバスラで新たな在り方を示す。それは「DAY1:2011-2014」「DAY2:2015-2017」「DAY3:2018-2020」「DAY4:2021-2024」と4つの年代に分け、各年代にリリースされたシングル/アルバムの中から厳選された楽曲を披露するというもので、事前に4日間合計で123曲をパフォーマンスすることがアナウンスされ、時間に換算すると10時間超という挑戦的なものであった。1期生と2期生によるグループ創成期の「DAY1:2011-2014」、3期生が加わり(2016年9月)グループとして上り調子の「DAY2:2015-2017」、大きな夢を達成させつつも主要メンバーの卒業・4期生加入(2018年11月、2020年2月)など変革期を迎える「DAY3:2018-2020」、そしてコロナ禍を乗り越え新たな仲間 5期生(2022年2月加入)とともに新時代を目指す「DAY4:2021-2024」と、それぞれわかりやすい形で区切られており、今やオリジナルメンバーが誰ひとり存在しない「DAY1:2011-2014」がどのような形で表現されるのかなど、開催前から注目が寄せられていた。

 3期生にとっては『5th YEAR BIRTHDAY LIVE』(2017年2月20〜22日)以来、4〜5期生にとっては初めて立つさいたまスーパーアリーナのステージ。デビュー曲「ぐるぐるカーテン」からスタートし、初期を代表する5thシングル曲「君の名は希望」で終えた「DAY1:2011-2014」は、オリジナルメンバーがひとりもいないからこそ自由度の高い編成で、グループの基盤を作った名曲たちへのリスペクトを込めつつ現在の3〜5期生らしさを散りばめて展開されていく。個人的に印象的だったのは、選抜メンバーやアンダーメンバーという括りをあまり感じさせず、現メンバーが一丸となって乃木坂46を表現していく姿勢。これは昨夏の『真夏の全国ツアー2023』と同様だが、あのときは少なからず3〜5期生が関わる楽曲が中心で、今回とは状況が少々異なる。原曲には誰も参加していなかったからこそ、乃木坂46の歴史、そして先輩が残した楽曲を未来へとつないでいくと考えれば、古くからのファンの前で披露するにはプレッシャーもあっただろう。しかし、乃木坂46のファンだった彼女たちだからこそ表現できるものも間違いなく存在する。

 初日公演で、梅澤は「守り続けることって、時にはすごく難しくて。でも、そんなプレッシャーを跳ね除けて、ここで頑張っているみんながすごくカッコいいし、そんな子たちを見ていると一緒に頑張れるし、熱量を注いだぶんだけ感情豊かにしてくれる場所」と語り、卒業を控えた山下美月も初期楽曲披露に対し「リスペクトと感謝の気持ちと、皆さんに希望を」とコメントを寄せている。この気持ちさえ途切れなければ、先輩たちが築き上げてきたグループの基盤が崩れることはないはずだ。

 11thシングル「命は美しい」から始まり、初ドキュメンタリー映画のタイトルにも用いられた「悲しみの忘れ方」で幕を下ろした「DAY2:2015-2017」は、グループが大きな目標として掲げてきた『NHK紅白歌合戦』出場や東京ドームでの単独ライブを実現させた時期の楽曲を中心。この中にはグループとして初のミリオンヒットとなり、『第59回日本レコード大賞』で大賞を受賞した17thシングル「インフルエンサー」や、卒業ソングとして人気の高い16thシングル「サヨナラの意味」、ライブで大きな一体感を作る15thシングル「裸足でSummer」など、まだまだ1〜2期生のイメージが強いキラーチューンが並ぶ。と同時に、「三番目の風」(17thシングル収録)で本格的デビューを果たし、続く18thシングル「逃げ水」では初めて選抜メンバー入りするなど、三期生も存在感を増していくタイミングでもある。「DAY2:2015-2017」ではグループがアイドルとして頂点を極めようとする歴史を、あの頃“外側”から見ていた多くのメンバーたちが歴代の名曲たちを通して追体験していく。その中には、『5th YEAR BIRTHDAY LIVE』で3期生が披露した「ハルジオンが咲く頃」を、7年前を再現するような形で見せたあとに「三番目の風」で逞しく成長した姿を提示しつつ、2017年7月の『真夏の全国ツアー2017』明治神宮野球場公演での一場面を現編成でなぞるような「設定温度」と、ドラマチックな演出も多数用意された。

 さらに、本編ラストに披露した「いつかできるから今日できる」は2017年11月の初東京ドーム公演『真夏の全国ツアー2017 FINAL! IN TOKYO DOME』でも本編ラストにパフォーマンスされており、今回の楽曲披露前には久保史緒里が「デビューから数えて5年と8カ月をかけて叶えた夢。当時、私たち3期生はその歴史の1年分しか知らなくて、『ここに立っていいのかな?』と思ったことをすごく覚えています。その当時の先輩たちの表情が今もずっと忘れられなくて、うれしさはもちろん、これまでの葛藤だったり、歩んできたいろんな道のりをすごく感じました。それを見て、私たちもこれから先輩方がたどってきた道のりを、ともに歩んでいくんだなって覚悟が生まれた瞬間でもありました」と当時を回想する場面もあった。と同時に、彼女は「私は最近、ただひとつの目標に向かって歩むのではなくて、夢を途切らせず、夢が叶ったらまた次の夢と、みんなで一歩ずつ進んでいくことが乃木坂46の強みなのかなと強く思います」とも語っており、初心を振り返りつつも常に前を向くその姿勢を強くにじませる。先輩たちが残した“乃木坂46イズム”は確実に継承されている、そう実感できた瞬間でもあった。

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