イコノイジョイは坂道の脅威、YOASOBI『紅白』パフォの重要性……アイドル論客による2023年シーン総括

  アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』。12回目となる2023年度の『アイドル楽曲大賞』メジャーアイドル楽曲部門では、2022年の「キリグニア」に続き、CYNHNが「楽の上塗り」で2年連続の1位を獲得。10位以内に3曲がランクインするグループの勢いを見せつけた。2位にはある種の原点回帰を果たしたukka「コズミック・フロート」、さらに Devil ANTHEM.、私立恵比寿中学、=LOVE、櫻坂46、≠MEといったグループが上位に並ぶ。

 リアルサウンドでは今回も『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会を開き、イベント主宰のピロスエ氏をはじめ、コメンテーター登壇者からはアイドル識者の岡島紳士氏、宗像明将氏、ガリバー氏に参加してもらった。

 なお、今年もランキング10位までのアイドルをメインに扱い、20位以内に同じアイドルが複数ランクインしている場合は、それらの楽曲にも言及している。ラストには11位から20位までの気になる楽曲をピックアップ。後編のインディーズアイドル楽曲部門では、現在躍進を遂げるアイドルグループとそのターゲット層についてもトークが展開していく。(渡辺彰浩)※本取材は2023年1月30日に実施

1位 CYNHN「楽の上塗り」

CYNHN「楽の上塗り」Music Video

5位 CYNHN「ジンテーゼ」

CYNHN(スウィーニー)ジンテーゼ Music Video

9位 CYNHN「リサイズ」

CYNHN(スウィーニー)「リサイズ」Music Video

宗像明将(以下、宗像):「楽の上塗り」は歌い出しを担当している広瀬みのりさんがボーカルの大きな要となっています。MVには、グループ卒業前の百瀬怜さんが映っていて、つまりはCYNHNはメンバーが変わりはするけど、ボーカルのレベルの高さをキープしているところが支持されている理由だと思います。5位の「ジンテーゼ」はオルタナですよね。9位の「リサイズ」はテクノの要素もあるサウンドになっている。サウンドの方向性としてはバラバラで、「楽の上塗り」はジャズの要素がある曲。攻めたサウンドをバラバラにやりながらベスト10に3曲も入ってきている、そういった変化球を歌いこなせる点が支持されているのでしょうね。

ピロスエ:この曲が1位になったのは、歌詞の力もあると思います。分かりやすいのはサビのところで、例えば〈思いやり誰か救い苦しくなり人生〉とあるんです。人生のわびさびを歌っていて、それが本質的なんですよね。フランスのシャンソンには人生を歌い上げる傾向があって、そういった意味ではこの「楽の上塗り」は、日本のアイドル楽曲シーンで生まれたシャンソンの名曲と言っていいと思います。

宗像:CYNHNは日本のエディット・ピアフ。

ピロスエ:まあ、そうとも言えるかな(笑)。改めて、いい歌詞だと思うし、これが1位というのは嬉しい結果ですね。

――5位の「ジンテーゼ」はアカシックの理姫さんが作詞を務めていて、9位の「リサイズ」はシンガーでトラックメイカーの水槽さんが作詞・作曲・編曲を手がけている。さらに、「ジンテーゼ」と「リサイズ」が収録されているEP『アウフヘーベン』を見ると、「サファイア」は18歳のボカロPである威戸れもね。さんが提供しています。

宗像:渡辺翔さんがメインソングライターなのは変わらないんですけど、そういったところで変化をつけてくるのが面白いですよね。昨年に引き続き『アイドル楽曲大賞』の1位にいるグループなので、サウンドに関してもずっと攻めている。メンバー体制が変わっても、姿勢としてそこが変わっていないのが一つの強みですよね。

ピロスエ:CYNHNの1位が決まった後に、運営の方が記念ということで「楽の上塗り」の最新のライブ映像を1曲丸々YouTubeに期間限定ではあるけどアップ(現在は非公開)していて、なかなか粋なことをしてくれるなと思いました。

ガリバー:ファンの参加型イベントとはいえ、『アイドル楽曲大賞』の結果を受けてライブ映像が特別公開になったのは、CYNHNのリアクションとしては珍しいと感じました。僕はどちらかというとCYNHNの運営は不器用というか、いい意味でプロモーション下手な印象があって。アッパーな楽曲で若年層ファンの動員とエネルギーをガッと取りに行くのに走りがちな傾向がある中で、これだけ楽曲メインで、ボーカル力をちゃんと補強した上でのグループの舵取りって難しいはずなんですよ。例えばグループ名にしても、決してキャッチーではないじゃないですか。

ピロスエ:CYNHN(スウィーニー)とは、普通は読めないよね。

ガリバー:実直にやってきたことが、結果的に東京のオタクに広く支持されて、長年の積み上げでしか得られない、今回の票数とポイントになった。つまり、意識的にこういった企画に参加してくれている方々の着実な支持は、ライブの実動員数とは直接的に比例しない例でもあるというか。

岡島紳士(以下、岡島):CYNHNは2017年から活動してるんですよね。

ピロスエ:6年やってるってことだよね。

岡島:こういった活動を続けられるのは母体となる事務所がしっかりしているからですよね。コンセプチュアルかつサウンドプロデュースに芯の通ったアイドルは以前からいますが、ほとんどが長く続けていくことができない。いっときはできたとしても、継続には資本力が必要。資本力のあるディアステージだったからこそ、続けられたコンセプトだとは思います。

宗像:2023年11月の横浜1000 CLUBでのワンマンライブは、キャパ1000人の会場が見事に埋まっていたんですよ。動員力はまだまだ伸びると思います。

2位 ukka「コズミック・フロート」

ukka「コズミック・フロート」Music Video

ガリバー:桜エビ~ず時代を彷彿とさせるような楽曲の路線に、揺り戻しの意識を感じます。2022年はメンバーが減ったグループの現状から這い上がっていくような、新しいukkaを表現した楽曲がメジャーデビューという節目もあって象徴として掲げられた様に思います。でも「コズミック・フロート」はそういった話ではなく、新メンバーの加入も相まって積極的な攻めに転じた、シンプルにアガって楽しい楽曲。そういった意味では、昨年のワンクッションがあってからの2023年の楽曲というのは桜エビ~ず時代を知ってる人からしてみると、ようやくまた帰ってきたなという印象があるのではないでしょうか。やっぱりukkaが元気でいてくれるのは嬉しいなっていうのが感じられる楽曲としての評価と結果ですかね。MVはイラストによるリリックビデオのような構成で、ライブパフォーマンスとは別に分けられたという印象です。

ピロスエ:リリックビデオは、日本ではボカロ文脈をきっかけにして広く浸透していった映像手法で、顔出ししないボカロ楽曲がそうなるのは必然性があったけど、アイドルがリリックビデオをやる必要性があるのか、という話にもなるよね。単に流行りに乗ったみたいに見えなくもない。やっぱりファンが見たいのは実際にアイドルが踊っている姿なはずだから。でも、1、2曲だったら全体におけるいい変化球みたいな感じにもなるのかもね。

岡島:リリックビデオに関しては、実写で作るより制作費が安価で済みやすいということがメリットとして大きいと思います。実写、フルロケなどでちゃんとクリエイターを起用した制作だと、最低でも数十万以上は普通に掛かりますから。アイドルに限らずインディーズのシーンでは広く使われていますね。とはいえひとくちにリリックビデオと言ってもクオリティはピンキリで、「コズミック・フロート」に関しては3Dモデリングなども取り入れられていて、ある程度お金がかかっているとは思います。理由はひとつではないと思いますが、これまで実写で作ってきたことを踏まえ、ukkaらしさを維持しつつも別のアプローチをしたくなったのかもしれません。リリックビデオには他にも「メンバーの稼働をおさえられる」といったメリットもありますね。

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