イコノイジョイは坂道の脅威、YOASOBI『紅白』パフォの重要性……アイドル論客による2023年シーン総括

坂道シリーズにとって最大の脅威はイコノイジョイ

3位 Devil ANTHEM.「ar」

Devil ANTHEM./「ar」MV

ピロスエ:年明けだっけ。今年12月に活動休止をする発表をしたのが。

岡島:急でしたよね。

宗像:「ar」に関しては脳内麻薬を出すことに特化した、人の頭をおかしくさせるっていうと語弊があるな……トランスさせることに特化した曲の究極形ですね。メジャーに行ってもそれをやり続けてるっていう。ダンスフロアにベクトルを志向するのは日本のアイドルのケースとしては珍しいですよね。 そういうDevil ANTHEM.の強みがメジャーでも出たのがこの曲かなと思いますね。

ピロスエ:Devil ANTHEM.は、2020年の『アイドル楽曲大賞』の時にイベントの登壇者レコメンドで「UP」を挙げたことがあるんです。CGで作られたメンバーが走り回るMVで、まるで不気味の谷の上を反復横跳びしているかのような仕上がりが面白かった。その曲がラップ曲だったので、クラブミュージックがメインのグループなのかなと思っていたんですけど、メジャーデビュー曲で今回3位にランクインしてきて。聴いてみたらロック寄りの曲調だったから、こういう路線も行けるんだなと思いました。

岡島:Devil ANTHEM.は2014年から活動しているんですよね。今年結成10周年で、活動歴も長い。2020年ぐらいから徐々にワンマンの規模も大きくなってきている印象です。

ガリバー:デビアンは初期の頃から精力的にライブ活動を行ってきて、支持も固く、その中でコアなファンを着実に育ててきたライブシーンに特化したグループで、メジャーデビューしたこと自体が意外というのは誰しもが思っているはずです。『TOKYO IDOL FESTIVAL 2023』(以下、『TIF』)とも大々的にメインステージでコラボを展開していて、マス向けのプロモーションも、足腰がしっかり鍛えられているからこそうまく、より多くの人に届いたんだろうなと思います。

岡島:2017年の『アイドル楽曲大賞』の僕のレコメンドで竹越くるみ from Devil ANTHEM.の「Actually」を紹介したことがありました。竹越さんは“ダブステップアイドル”を標榜して活動していたりするので、Devil ANTHEM.は元々楽曲大賞的に親和性が高いアイドルとも言えます。

4位 私立恵比寿中学「kyo-do?」

【MV】私立恵比寿中学「kyo-do?」

6位 私立恵比寿中学「Summer Glitter」

私立恵比寿中学「Summer Glitter」【Lyric Video】

16位 私立恵比寿中学「ボイジャー」

【MV】私立恵比寿中学「ボイジャー」

ピロスエ:4位の「kyo-do?」はリリースされた段階で、今年の『アイドル楽曲大賞』の1位だろうというような予想をしていた人は少なくないと思います。それは作詞作曲がヤマモトショウさんで、しかもそれを歌うのが『アイドル楽曲大賞』常連のエビ中という、いかにも『アイドル楽曲大賞』に投票する人が好きそうな座組みなんですよね(笑)。実際に曲もよかったですし、僕もこれが1位になるかもなと思っていたのですが、4位は意外でしたね。

宗像:「kyo-do?」は、“ヤマモトショウフリーソウル”な1曲であると。去年、エビ中にインタビューした時に、安本彩花さんが「最初に聴いて、『大人がTikTokでバズらせたいんだな』と思いました」と言っていて、そういった要素も入れ込みながら、ソウルフルなサウンドにもなっているので、4位にくるのも納得です(※1)。結局我々が、fishbowlやFRUITS ZIPPER、そしてエビ中で見ているのはフィロソフィーのダンスのパラレルワールドであると。ヤマモトショウさんがもしもフィロソフィーのダンスに曲を書き続けていたら、こういったソウルフルな曲をやっていたかもしれない、みたいなことをどうしても私は思っちゃいますね。

ガリバー:6位の「Summer Glitter」は、あまり坂道以外の楽曲に普段触れない坂道オタクの中でも聴かれていた印象ですね。つまりは界隈の外にも届いていた。K-POPの文脈、サウンドをどう組み取るかというのは不可避な流れで。エビ中がすごいのはヤマモトショウさんを起用して、TikTokとソウルの要素を掛け合わせた曲をやりつつ、K-POP路線を意識した曲もちゃんと作れている幅の広さですよね。だから、「kyo-do?」は日本のドメスティックなアイドルファンが好きな感じだとすると、「Summer Glitter」はその外の界隈に向けて作った曲が届いたんだと思いますね。

宗像:「Summer Glitter」は、ボサノバっぽいリズム、そしてサウダージな感じが出ていて素晴らしい曲だなと思います。

7位 =LOVE「この空がトリガー」

=LOVE(イコールラブ)/ 13th Single『この空がトリガー』【MV full】

ガリバー:齊藤なぎささんが卒業した後の1発目のシングルで、グループの顔である彼女が抜けてしまうのはグループにとって一大事だったわけですよ。その後に「この空がトリガー」で佐々木舞香さんがセンターに立った。イコラブは、≠ME、≒JOYとの姉妹3グループの中ではウェットな大人路線の楽曲も増えてきていた一方で、「この空がトリガー」は久々に昔のイコラブっぽいとも言える王道青春ソング。やっぱりこういうのが聴きたいというファンの期待に応えたのと同時に、新体制への不安を払拭できたところが大きかったと思いますね。

――「この空がトリガー」は新体制として初の全国ツアー『Today is your Trigger』を回った時のシングル曲で、その日本武道館公演が後にライブフィルムとして映画化もされています。メンバーにとっても、ファンにとっても、このシングルは大切な位置付けにあって、さいたまスーパーアリーナでの6周年コンサートでも本編終盤に歌唱していますし、大晦日に出場した『第7回 ももいろ歌合戦 2023→2024』でも披露されたのは「この空がトリガー」でした。2023年のイコラブを代表する曲だと思います。

8位 櫻坂46「Start over!」

櫻坂46『Start over!』

ガリバー:『アイドル楽曲大賞』のランキングに入ってくる坂道グループの楽曲は、そのファンの母数は関係なく、どちらかというとそのファン以外の人に届いた楽曲というのは今までの傾向からも言えることです。「Start over!」はMVを見ればより分かるんですけど、欅坂46時代の流れを踏襲した、少しダークな雰囲気もありつつ、櫻坂46がグループとして持っているポジティブなパワーがある。それらを踏まえて、欅坂46の「黒い羊」や櫻坂46の「桜月」を作曲したナスカさんが作っているわけです。藤吉夏鈴さんが初めてシングル表題のセンターを務めた楽曲で、櫻坂46としてのグループの動きが全て結実した1曲でもある。その流れの良さが坂道のファン以外にも届いたというのが大きかったと思います。

宗像:ジャズ歌謡を堂々とやるというところを含めて、非常に腹をくくった、新しい櫻坂46を見せることに成功した一曲だと思いますね。

ガリバー:坂道グループを2023年で括るなら、圧倒的に櫻坂46がいい年だった。この順位としての評価を見ると、グループの勢いを抜きにしては語れないところがあるので、欅坂46の終わりと櫻坂46の始まりを見ている身としては感慨深い年でした。

10位 ≠ME「天使は何処へ」

≠ME(ノットイコールミー)/ 6th Single『天使は何処へ』【MV full】

ガリバー:『TIF2023』のHOT STAGEを観ているだけでも、イコノイジョイの3グループのステージングは圧倒的に力強くて、説得力があるんですよね。ライブパフォーマンスにおいて観客をねじ伏せる力と品は凄まじく、率直に言って坂道シリーズにとって最大の脅威になるのは、公式ライバルでもK-POP勢でもなく、イコノイジョイなのではないかとさえ思える危機感を感じました。ノイミーはすっかり中堅のお姉さんになって、カッコいいパフォーマンスが様になっていますよね。

――「天使は何処へ」の特徴は、メンバーが1カ月猛特訓したという、ノイミー史上最高難度と言われるダンスですね。

ガリバー:どうしても指原莉乃プロデュースというイメージが先行していて、ダンスがすごいグループだというのはまだあまり知られていないですよね。

――ノイミーが横浜DeNAベイスターズのイベントのスペシャルゲストとして、横浜スタジアムでライブをしたことがあって、言ってみればアウェイの場で1曲目に披露したのがこの「天使は何処へ」でした。同曲センターを務める冨田菜々風さんにインタビューをした際に、そこで観客の人が足を止めてくれた実感があったと話していて。そういった初見の人を惹きつける力が「天使は何処へ」にはあって、『ももいろ歌合戦』でもパフォーマンスしていたのはこの曲ですし、2023年を代表するグループの楽曲であり、新たなノイミーを見せられたのが「天使は何処へ」だったと思います。

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