リアルサウンド連載「From Editors」第44回:キース・ヘリングがアートを介して向き合ってきたこと

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

キース・ヘリングの生涯にふれる

 先日、森アーツセンターギャラリーで開催されている『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』に行ってきました。国内には中村キース・へリング美術館がありますが、巡回展としては23年ぶりとのこと。キース・ヘリングといえば、アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアなどと共に80年代のニューヨークで活躍し、ストリートからアートを広めてきた一人。彼のイラストは日本でも人気が高く、これまでさまざまなグッズや広告などに起用されてきました。名前を聞けば特徴的なモチーフの数々を思い浮かべることができる人は少なくないはずです。

 私も存在やイラストについては認識していたものの、どんな人物なのかを知る機会は意外となかったことに気づきました。31年の人生の中で、芸術家として活動していたのは10年ほど。「サブウェイ・ドローイング」と呼ばれる地下鉄の駅構内で発表したチョークの絵から始まり、ゲイカルチャーとの接点やクラブシーンとのつながり、世界平和を願い社会へメッセージを発信し続けた歩みなど、鑑賞者に解釈が委ねられているような抽象度の高い作品の一つひとつには、その時代を生きたヘリングの意思が込められています。

キース・ヘリング展

 線のみで描かれた四つん這いの人を象ったモチーフ「ラディアント・ベイビー」に代表されるシンプルな作風が、記号論研究のもとに生まれた独自の「象形文字」のようなものであること。手にとりやすい価格帯で商品を販売する「ポップショップ」という取り組みを通して、進んでアートを誰もが楽しむことのできる身近なものにしてきたこと。自らも合併症で命を落とすまでの間、エイズ撲滅活動などの社会貢献に務めたこと。今回の展示の中には「無知は恐怖 沈黙は死」と題された作品もありましたが、アートを介して伝えること・知ることと向き合ってきたのが、キース・ヘリングの生涯だったのかもしれません。

キース・ヘリング展

 今回の展覧会では、ヘリングが愛した音楽に関するエリアも。中盤、ヘリングも常連だったという伝説のクラブ「パラダイス・ガラージ」でプレイされたDJラリー・レヴァンのライブ音源が流れるなか、作品を楽しむことができます。撮影不可エリアでは、ヘリングの日本での活動についての特集が組まれ、代々木公園で日本の若者たちとストリートカルチャーを楽しむヘリングの姿を映像で観ることもできます。

キース・ヘリング展

 ポップとは何か、アートは何かを考えるうえでのヒントに出会えたような空間でした。

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