リアルサウンド連載「From Editors」第42回:『イヴ・サンローラン展』の図録がやってきた!

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

『イヴ・サンローラン展』の図録が手元に来た!

 そろそろアートっぽい話もこの連載に必要かな……と思い、国立新美術館で開催されていた『イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル』に先月行ってきました。日本ではイヴ・サンローランの没後初となる回顧展。会期最終盤で行ったこともありかなり混み混みだったのですが、とてもいい展示会でした。

 『イヴ・サンローラン展』に限らず、「展覧会に行く→図録を買う→家でニヤニヤしながら眺める」までがトータルでの楽しさ(個人差あり)ですが、私が行った日には図録は完売。で、先日オンラインで頼んだものが手元に届いたのでした。

『イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル』図録

 それがこちら。黒布張りで、紙のいい匂いがする、とても高級感溢れる(実際に安くはない)図録。自分の図録コレクションのなかでも、かなりテンションの上がる装丁です。

 幼い頃から絵が好きだったといい、絵本の挿絵などもかつて手掛けていたサンローラン。『おてんばルル』(原題『La vilaine Lulu』)という、20歳の頃、まだ「クリスチャン・ディオール」のアシスタントだった彼が作った絵本があるのですが、そのスケッチももちろん展示されていて、サンローランにとって唯一の絵本であるこの作品の原画もしっかり図録に収録。黒鉛筆と赤鉛筆の2色のみでなぜあんなにキュートに、ちょっといじらしい、天使か悪魔かわからない、究極にかわいい女の子が描けてしまうのか……。

 さらに遡って16歳の頃に描いた「スージーと他2人の名前のないペーパードールのためのワードローブ」というタイトルで展示されていた紙のクチュールメゾンなんかは、もう最高。他にもコレクションボードもしっかり収められていて、2Bの鉛筆で描かれたサンローランのイラストと文字も見ることができます。

 サンローランといえば、やはりピーコート、トレンチコート、サファリジャケットといった、女性のファッションに男性服の要素を取り入れた真のユニセックススタイル。特にピーコートやジャンプスーツは、女性ならではの曲線やスタイルがいちばん映えるように作られていて、サンローランの視点はすごいなあと、あらためて思いました。

 個人的に好きなスタイリングは、1979年AW オートクチュールコレクションのベルベッド地のギタードレスと1988年SS オートクチュールコレクションのジョルジュ・ブラックへのオマージュとして組まれたイヴニング・アンサンブルのふたつ。ギタードレスは黒のベルベット生地に背中にレースが当てられたロングドレスなのですが、とても上品でおしゃれ。「ああいうドレスが似合う女性になれるようになろう」「体たらくな生活は送らないように気をつけよう」と、展示会で実物を目にして強く思えました。


 そして、ジョルジュ・ブラックへのオマージュが上のスタイリング(オマージュデザインのコーナーのみ撮影OK)。画家のジョルジュ・ブラックはサンローランに影響を与えたアーティストのひとりで、かつてのコレクションには“オマージュ”そのものをテーマにしたものも。サンローランのデザインにはたびたび鳥が登場する(特にアクセサリーには鳥モチーフが当時多かった)のですが、このピンクのポンチョ(のようなもの)にバイカラーの寒色のドレス(のようなもの)を持ってくるという、かわいいの最上級が詰め込まれたスタイリング! めちゃくちゃ着たい。

 サンローランは、旅が苦手だったといいます。アフリカ、ロシア、スペイン、モロッコ、中国、そして日本など、さまざまな国の伝統やスタイルをモチーフにした服も、そのほとんどが写真集やガイドブックといった画集からだったそう。もし今サンローランが生きていたとして、そうしたらネットやInstagramからアイデアを拾っていたのかしら? とも考えてしまいますが、それでもきっとサンローランらしさというものは机上の想像/幻想からはじまっていたのだなあと、なんとなく思ったりしたのでした。

 あと余談。個人的には鹿と並んだ初来日時のサンローランの写真がとても好きなのですが(※1)、やはり1969年にジャンルー・シーフが撮影したポートレートがいちばんかっこいいなあと、ページに大きくプリントされた写真を見て思いました。

 図録はまだ買えるようなので、まだの方はぜひ! 洋服好きな人にとって、お部屋にこの本がひとつあるだけで毎日がちょっと嬉しくなるような、そんな図録でした。

※1:https://ysl2023.jp/gallery

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