安田レイ、『劇場版 きみセカ』挿入歌「Ray of Light」は新たな代表曲へ 歌詞で描いた変化を明かす

安田レイ、『劇場版 きみセカ』挿入歌を語る

  安田レイが、TVドラマ版の挿入歌「Not the End」に続き、新曲「Ray of Light」で『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』の挿入歌を担当する。映画は1月26日より公開中で、作品の盛り上がりとともに楽曲も着実に広まっている。

 2月7日には、新曲「Ray of Light」を含む同名EPをリリース。同楽曲や、EP収録曲で中国のアニメ『烈火澆愁(れっかぎょうしゅう)』の日本語吹替版エンディングテーマ「声のカケラ」の制作秘話、久々の海外でのステージから受けた刺激などをじっくりと聞いた。(編集部)

「Ray of Light」では成長した響の姿を歌えたら

安田レイ

ーーまずは、昨年12月に『SACRA MUSIC FES. 2023 IN HONG KONG』に出演、香港でステージに立ちました。2016年の台湾以来の海外でのライブでしたが、いかがでしたか?

安田レイ(以下、安田):香港にいる間、ずっと興奮状態でしたね。やはりお客さんの反応が全く違って。日本でも地域によって反応が違うのが、いつもライブをしていておもしろいなと思うところですが、香港は想像の遥か上でした。

ーー昨年、同じソニー・ミュージック内ですがSACRA MUSICにレーベル移籍されて、さらに活躍の場が広がりそうですね。

安田:最初は、大きな変化をあまり感じなかったのですが、『SACRA MUSIC FES. 2023 IN HONG KONG』に参加して実感が湧いてきました。私はいまだに人見知りで、最初どうしようと思ってましたけど、レーベルメイトのみんなと香港に行ったら一瞬で不安などは吹き飛びましたね。

ーー人見知りなのは昔から変わらないと言われますが、昨年12月24日にはクリスマスプレゼントという形で、山下達郎さんの「クリスマス・イブ」のカバー動画を公開されていました。以前の安田さんなら臆してしまって、この曲は歌わなかったのではと思いました。

安田:今、カバー動画のシリーズ『through my VOICE』をやっています。私はクリスマスがすごく好きなので、何を歌おうかといろいろ考えていて「クリスマス・イブ」は広い世代の方が知っている曲なので、歌ってみたいなと思いました。

ーー昨年7月に実施した10周年記念ライブのMCでもお話しされていましたが、歌うことに余裕が生まれて、これまでより楽しめるようになったのかなと感じました。

安田:確かに余裕ができたかも。“超余裕”なわけではなくて、これまでよりは、ですけどね(笑)。デビューしたての頃と比べると、ライブへの向き合い方が変わってきたかなと思います。以前は何をどれだけやっても不安、不安って感じでしたが、「これだけやれば大丈夫」と思えるものを自分で整えられるようになってきました。

安田レイ

ーーなるほど。それではレーベル移籍第1弾となるEP『Ray of Light』の話に移ります。タイトル曲は、『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』の挿入歌ですね。同作TVドラマ版の挿入歌「Not the End」がヒット、多くの新たなファンも増えたわけで、その続きと言える曲の依頼を受けた際はかなり盛り上がったのではないですか。

安田レイ「Ray of Light」Music Video(『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』挿入歌)

安田:嬉しさしかなかったですね。私自身ずっとこの作品を見ているんです。いちファンとしてメインキャラクターのふたり、来美(中条あやみ)と響(竹内涼真)を見守っていますし、周りの『きみセカ』ファンと話し合う時間もすごく楽しい。いろいろと考えさせられる作品なんですね。私だったら、ここまで頑張れるかなとか。今回の劇場版でファイナルですけど、終わってほしくない(笑)。ただ、とても好きな作品のファイナルでまた声をかけてくださって、「監督、ありがとうございます!」という思いです。

ーー「Not the End」の時は、どのように歌詞を書かれたんですか。

安田レイ 『Not the End』Music Video (日本テレビ×Hulu共同製作ドラマ「君と世界が終わる日に」挿入歌)

安田:まだ映像は何も出来上がっていない時だったので、台本を読んだり、作品についての資料を見て書きました。ただ普段はドラマの台本を読む機会がないので、すごく難しい作業でした。ノート1冊全部を言葉で埋めるくらい書き直しましたね。

ーーでは今回、「Ray of Light」は、映像などを見て書くことができたのでしょうか?

安田:今回は、これまでの映像もありますし、映画本編の映像も出来上がっていたんです。それを見て歌詞を書くことができたので、「Not the End」とは逆に情報がありすぎて、どうやって1曲にまとめればいいんだろうというところで悩みました。ただ「Not the End」も「Ray of Light」も歌詞を書く前に、監督と話し合う時間をいただけて。楽曲の方向性だったりとか、誰目線で歌うのがいいのかとか、少しでも作品に寄り添うには、皆さんの、特に監督の意見を聞くのが一番なので、その時間をいただけたのはすごく嬉しかったです。

ーー「Not the End」と「Ray of Light」、歌詞で特に違う点、また変わらない点を教えてください。

安田:一番違うのは、「Not the End」は、主役である響や登場人物たちに恐怖心だとか不安な部分が多くある中での楽曲で。ゴーレムが現れて、どうやって生きていけばいいんだろうと、揺れ動く弱い気持ちも表していました。そういうところが、この作品はコロナ禍とすごくリンクしているように感じるんですけど、響は、最初はどういうものかわからなかったゴーレムと、どう共存していけばいいのかを理解してきた。そうしてたくましくなった響が「Ray of Light」の中には存在しています。自分よりも大切な存在をどう守っていくのかというのが、「Ray of Light」の大きなテーマになっています。だからこの新曲では成長した響の姿を歌えたらいいなと思いました。

ーー「Ray of Light」の歌詞で特に注目してほしい点はどこですか。

安田:私が日々生きていて、すごく思うことを歌詞にしたんですけど、〈全ての事に 意味があるなら この景色は 何を意味する〉というフレーズですね。響にとっては、ゴーレムが現れて日常を奪っていくこと、娘のミライに会えないことに、一体何の意味があるんだ、という。でもよく、「物事には全て意味がある」と言いますよね。私も生きていて、「これには何の意味があるのだろう?」と思うことがたくさんあるし、みんな一度は考えたことがあることかな、共感してもらえるかなと思って、今回歌詞に入れました。

ーー「Ray of Light=レイ・オブ・ライト」とタイトルに自身の名前を入れたところにも、僕はこの曲にかける安田さんの思いを感じました。意識的ですよね。

安田:はい、このタイトルはずっと温めていました。「一筋の光」というこの言葉の意味と、作品のストーリーが完璧にクロスして、これしかない! と。諦めない気持ちというのが、この作品の中ではとても大事に描かれていて、本当に絶望の中にいるんですけど、どこかで光が差すことを信じている。「光」というニュアンスが、曲中に入っていたらすごく作品の世界とリンクすると思い、このタイトルにしました。

ーー曲のプロデュースは「Not the End」に続いてagehaspringsです。バラードとダンサブルなビートが1曲の中で合わさったような構成で、安田さんのトレードマーク的な歌唱が1曲の中で両方聴けて、すごく上手いつくりだなと思いました。

安田:映画館で大きな音で流れるわけですけど、「Not the End」のアンサーソングではありながら、強さの中にある優しい部分も表現したいと考えて、良いバランスを探りながらみんなでつくっていきました。

ーー「Ray of Light」は安田さんの新たな代表曲になりそうですね。

安田:「Not the End」の時もそのような反応をいただけたので、あの曲をさらに超えていきたいですね。たくさんの人に聴いてもらいたいです。

安田レイ

ーーEPの2曲目「声のカケラ」は、中国のアニメ『烈火澆愁(れっかぎょうしゅう)』の日本語吹替版エンディングテーマです。こちらの歌詞はどのように書かれたのでしょう?

安田:すでに中国では放送されているので、日本語の字幕がついたものを観させていただいて、歌詞を書きました。戦いのシーンがかっこよく描かれているので、最初は「戦い」をテーマに書こうかなと思いました。けれど、登場人物たちが過去に、もしかしたらどこかで繋がっていたのではという描写があって、それで過去や記憶をテーマにしたいと思い直したんです。記憶って曖昧なものですよね。私はマネージャーさんを困らせるほど、物忘れが激しいんですけど(笑)。そういう曖昧なものである記憶に助けられる瞬間もあるなと思っていて。何かに悩んでいるときに、ふと、何年も前に友達や学校の先生が言ってくれたひと言がぱっと頭に浮かんで、「なんで私こんなに悩んでいたんだろう」と思えるような、優しい気持ちになれる瞬間があるんです。この曲を聴いて、忘れていた素敵な記憶が蘇って、ほっとできる時間をみんなにつくってもらえたらいいなという思いがあります。

ーー〈迷う日も笑う日も一つ一つ重なり 季節を越えて行く〉という歌詞が、このアニメのストーリーを表していると思うのですが、安田さんそのもののようにも思えます。

安田:そうですね。過去に人からもらってきたいろいろな言葉で、私は自分の人生を選択してきたと思っていて。振り回されたこともあったけど、その言葉を受けて、私は自分の道を選んできたから。全てに感謝しなくちゃいけないなって。

ーー自分の経験や気持ちを、さらに素直に歌詞に表せられるようになったのではないですか?

安田:前回はどうやって書いたんだろう? と、歌詞を書くたび、毎回ゼロに戻ってしまうのはどうにかしたいんですけど(笑)。何となく自分なりの歌詞の書き方ができてきたかなとは思います。以前は曲の冒頭から、「さてさて何を書こう」といった感じで始めていたんですけど、今はもうとにかく、頭の中にあるものを1回全部吐き出そうと、まずは紙に書いて。その後で、少しずつ膨らませていくという進め方が自分には合っていることに気づきました。

ーー「Ray of Light」も「声のカケラ」も、かっこいい歌詞を書こうとは思わなくなったようにも感じました。ご自身の言葉で、包み隠さずに書かれているなと。

安田:確かに、それがこの10年で一番変わった部分かもしれないですね。以前はできないことがあまりにも多すぎるから、実際より大きく見せようと無意識にしていたと思うんです。でも今は10年間、安田レイとして活動してきて、それを続けるのは違うな、もっと素直にファンの皆さんと向き合いたいなと思うようになって。それで歌詞も、変わってきましたね。

ーー特にこのアニメは幅広い年代の方が観ると思いますが、それもあってか言葉一つひとつの発音がはっきりしていて、特に歌詞が聴き取りやすいように歌っているとも感じました。

安田:自分の以前の曲を聴いていて気になるのは発音のことなんです。アップテンポな曲は勢いで聴かせられるところがありますけど、バラードはやはり言葉一つひとつの輪郭がはっきり見えるというか。もちろん丁寧に歌った方が歌詞や思いが届くと思うので、常に意識していることではあるんですけど。特に今回のバラードは優しいテーマで、押しつけがましくない、柔らかいけれどしっかりと輪郭のある言葉を歌うというのが、難しくて、そこは意識しながら歌えました。

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