Ken Yokoyamaから届けられた“生きる讃歌” 最高傑作を更新したアルバム『Indian Burn』完成インタビュー

Ken Yokoyamaが届けた生きる讃歌

 2023年、『Better Left Unsaid』『My One Wish』『These Magic Words』といったシングル3作をリリースしたKen Yokoyama。その集大成となる8thフルアルバム『Indian Burn』が、2024年1月31日にリリースされる。これまでのシングル3作についてのインタビューでは、アルバムを見据えたリリースの意図や挑戦について話を聞くことができた。その延長線上にある今回の取材では、“ぞうきん絞り”のように大変だったというアルバム全体の制作について振り返りつつ、各曲が生まれた背景について詳しく話を聞いた。(編集部)

「人を悪い気分にさせる歌は必要はないって、今回に関しては思ってた」

一一8枚目のアルバム、大傑作ができました。

横山健(以下、横山):大傑作かなぁ?

一一と、私は確信してます。

南英紀(以下、南):うん。僕も思いますよ。自分たちで毎回毎回、更新していってる気がしますね。

横山:……や、実は僕も、過去イチかなと。作ってもうずいぶん経つけど、ほんとにいいアルバムになったなと思います。

一一聴き終えた時に「受け取った!」とズッシリくる感じは、2012年の5thアルバム『Best Wishes』に近いなと思いましたね。

横山:へぇー! どこらへんが? って逆にインタビューしたい。

一一まず「とにかくこれを伝えたい、託したい」っていう想いの強さ。あとは偶然できたものではない、意識的に聴かせたかったであろう曲順の流れとか。けっこう通じるものがあります。

横山:あぁ、なるほど。悲壮感って意味では一緒かもね。『Best Wishes』の時は震災があって、それに対して僕たちの気持ちを表したい、ある種の……悲壮感っつうのかなぁ?

一一覚悟、決意とも言えますよね。

横山:うん。で、今回はやっぱ、一曲ずつの話っていうよりも、ひとつの作品にパッケージにしたところ。アルバムの価値も落ち、小さくなっていくロックシーンの中、存在感が薄れゆく自分たちは、しかしこうする、これを作った。そのことがまず表明であって。ある種の悲壮感はあると思う。対象は違うんだけど。

一一気になるものをピックアップしていきます。まずは一曲目の「Parasites」。寄生虫、ですか。

横山:うん。同世代の人たち、次世代の人たち、望もうが望むまいが俺は寄生してキミの思想に入り込んでいってやる、くらいの感じ。しかも寄生されてるほうは自覚症状がないという。これまでいろんな曲で次世代に繋ぐ気持ちを歌ってきたけど、ついに寄生虫となってまで生き残ってやるっていう決意の表れ(笑)。

一一そのイメージは……美しいものなんでしょうか?

横山:や、一般的には気持ち悪いと思うんだけど。みっともなくて。ふふふ。ここまで足掻くか、っていう。

一一あぁ、足掻いてるところも含めて見せたかった。

横山:もちろん。だから当然自虐的ではあるの。でも自分で衒いもなく「Parasites」になるんだって表現できることは、美しいんじゃないかなって俺は思うかな。

南:ここ最近よく出てくる健さんの歌詞、終わりを感じさせる何かがあるじゃないですか。「Let The Beat Carry On」じゃないけど、それがもうちょっと違う形の表現になった歌詞だなと思いましたね。

一一南さんに歌詞を投げる時って、まるごと日本語ですか? それとも「この英単語はぜひ使いたい」みたいに英訳の指定もあるのか。

南:たまにありますよね。「ここはこのワードで」みたいな。

横山:歌いたい単語がある時は注釈をつけるけど。でも基本は全部日本語。

一一訳す時に気をつけていることってあります?

南:歌いやすさは注意してます。「この言葉の次にこの単語が来たら、この速さだと歌えないだろうな」とか。あとは健さんが言おうとしてることを、ただ訳すんじゃなくて、世界観も含めて言葉を選んだりしてますね。

横山:最初の段階で英訳してもらうと「あ、そうじゃなかったんだけどな」っていうものが出てきたりするのね。直してもらうこともあれば、そのまま採用してしまうこともある。「こっちのほうがカッコいいし、響きもいいじゃないか」みたいな。そういったセッションが毎回あるから歌詞のクレジットは共作にしてる。俺発信ではあるけど、絶対南ちゃんの心象風景も入ってくるわけだから。最近はもう、細かい調整も含めると、一番最初に書いたとおりそのままレコーディングに漕ぎ着くことはまずなくて。

南:そうっすね。

一一今回は特にわかりやすい英語が多い。いや、わかりやすい言葉が先なのかもしれない。あんまり深読みもできないですし。

横山:あ、ほんとに?

一一はい。「これはあの人のことかなぁ」なんて思わない。誰かを攻撃する言葉がそもそもないですし。

横山:あぁ。最近ちょっと意識してること。今作に限って、なのかもしれないけど。あんまり悪いことを言わないようにしたのかな。人を悪い気分にさせる歌は必要はないって、今回に関しては思ってた。もちろん何かに歯向かっていく気持ちとか攻撃する姿勢って、パンクロックの“らしい部分”だから、それは当然自分の中にもあるんだけど。でもそれよりは……もっと自分を表現することのほうが大事だった。

横山健
横山健

一一「A Pile Of Shit」は最たる例です。テーマとしては怒りの歌にもできるし、絶望することもできる。でも〈Enjoy enjoy〉って歌うのが今の健さん。

横山:そう、もう言っても変わんないからクソって言うしかない。この社会だとか、今のトレンドだとか、見渡すとクソなものばかりだけど、結局僕たちはそびえ立つクソの山の上で暮らしてるわけで(笑)。それを楽しむしかないな、と。そういう境地でした。

一一重いテーマをなるべく明るく伝えているのも、このアルバムの特徴のひとつだと思います。

横山:あぁ……なるほど。あんまし意識してなかった。

南:でも心配になるというか、大丈夫かなって思うような歌詞がないですよね、確かに。これは個人的な話になっちゃうけど、歌詞訳してても、一緒にバンドやってても安心感がある。たとえば「Show Must Go On」とか、すごく安心できる曲、歌詞を書いてくれたなぁって思うし。

南英紀
南英紀

一一「Show Must Go On」も、重いテーマを明るく歌う曲ですね。

横山:うん……これはツネ(恒岡章)のことを歌った曲。ツネに対してはまだ正直気持ちが割り切れてないところがあって。うーん……やっぱり〈パンクロックをプレイしようぜ〉って言いたいけれども、事実いないわけで。なんかすごく落とし所のない気持ちになっちゃうな。

一一なんでこんなに明るい曲になったんでしょう?

横山:これ、曲ができた時には、もう歌詞の内容は決めてて。たぶん……泣きの曲でツネのことを書くのを避けたんだろうな。ほんとにヘヴィになっちゃうから。俺は、ツネがいなくなっても「Show Must Go On」なわけで、いなくなろうが続けていく。それは彼を引き離していくことになると思うのね。それにはカラッとした温度が逆に必要だった。あと、当然これはKen Yokoyamaの曲なわけで、全編ツネのことを描写してるわけではないから。俺はこのバンドでやっていくよっていう気持ち。それは軽やかに言いたかった。

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