Ken Yokoyamaが次世代に残す言葉 来たるアルバムに向けたシングルリリースを総括

Ken Yokoyama、シングルリリースを総括

 レーベル直販/受注生産で販売された『Better Left Unsaid』からスタートした、Ken Yokoyamaの新たなアルバムに向けたシングルリリース。その最終章となる第三弾作『These Magic Words』が、11月29日にリリースされる。11月9日に行われたLINE CUBE SHIBUYA公演でいち早く披露された表題曲「These Magic Words」には、〈"Oh yeah, it’s alright
It’s gonna be OK"〉という、シンプルだが彼らが今一番伝えたいことが歌詞に乗せられている。パーソナルな思いも込められた今作、そしてリリースの合間に行われている各ライブで感じたことなど、横山健とJun Grayに聞いた。(編集部)

人として生きる上で一番大切なことを書きたかった

一一前回の「My One Wish」インタビュー、かなり反響があったようです。あんな暗い内容でどうしよう、とも思っていたんですけど(笑)。

横山健(以下、横山):ふふふ。もしかしたら世の中は暗さを求めてんのかも……いや違う、暗さじゃなくて、ちゃんと口にしづらいことをするっていうのが求められてるのかもしれないですね。

一一ただ、あのボヤキみたいな発言の数々も、今となればあえてだったのかなと思ったりします。前回「生まれ変わったら」と歌っていたのに対し、今回は「生きてるうちにこれを残す!」という力強さがあって。気持ちよく最終章に繋がった印象です。

横山:あぁ。でも特に繋げようと思ったわけじゃなくて。シングル3曲のリード曲を使ってこういうストーリーを描きたい、っていうのは意図してなかった。ただ今回はアルバムからの先行シングル。そのニュアンスがすごく強い。前回からの流れっていうよりは、アルバム中の一番強い曲、自分たちから見て一番らしい曲が「These Magic Words」っていう感じですね。

一一うん、いい曲ですね、これは。

Jun Gray(以下、Jun):前回のインタビューで「My One Wish」を褒めてもらったじゃないですか。ウチら的には「いやいや、まだ名曲待ってんだけど!」みたいな(笑)。健も最初に「新曲できた」って持ってきた時点で、なんかこう、自信作だよ、ぐらいの感じではありましたね。

一一間違いなく次の代表曲のひとつになると思います。これは何か特別な背景があって生まれた曲ですか?

横山:や、曲自体はいつもの流れで、特に狙いもなくできた。けど、これはすごくいいメロディだし、すごくいいコード使いだし、テーマもそれなりのものを当てたいと思って歌詞を書いたかな。

一一曲に引っ張られて生まれた歌詞でもある。

横山:まさに。一番強い言葉じゃないけど、人として生きる上で一番大切だよなっていうことを書きたかった。次世代の人たちに残す言葉。一番人間らしい、人間のいい部分、あったかい部分をちゃんと伝えてあげたかった。

一一それはもう、パンクスとしての生き方、みたいな話ではなく。

横山:そうです。

一一言葉を伝える相手のイメージも明確にありました?

横山:うん。まずは自分の子ども。もうすぐ3歳になるんだけど。だからこれ、実は親として育児から得た歌でもあって。一番身近な社会である親が、何も知らないまっさらな子どもに教えてあげたいこと。本能で伝えるべきことって、やっぱり「パパとママがいるから大丈夫だよ」ってことだと思うんですよ。厳しい場面でこういうことを思い出して、乗り切れる子になってくれたらいいなぁと思うし。自分の子どもに限らず、世の中の人みんながそう思えたら強くいられるよねって。そういうテーマを書いたつもりです。

横山健
横山健

一一Junさんはこの歌詞からどんな印象を受けました?

Jun:そうですね、さっき言ったようにパンクスどうのこうのは関係なくて。子どもに対して俺もよくそういうこと言いますけど、人間、基本「大丈夫、なんとかなるよ」って思ってないと。自分も50過ぎまで生きてきて、まぁいろいろあったんですけど……。

横山:50過ぎっていうか、もう60前ね?

Jun:そう(笑)。それぐらい長く生きて、何度も心が折れるようなこともあったけど「でもなんとかなんじゃねぇかな」と思ってここまで生きて来て。ましてや今、ガザの悲惨なニュースをネットで見ますし。あそこまで悲惨なことは自分に降りかかってないけども、でもああいう人たちだって生きてるし、これからも生きてくんだったら、今はどん底でしょうけど「なんとかなるんだ」って思わないとダメなんじゃないかなって気がする。人間、基本的にそう思っておかないと。だから、この歌詞を健が持ってきた時は「いいこと言ってんじゃん! 俺が常に思ってるようなことよ、これは」って感じだった。

Jun Gray
Jun Gray

一一〈alright〉とか〈OK〉みたいな言葉って、健さんが過去そこまで使ってきたものではないと思うんです。

横山:そう、無責任すぎるからね、そこだけ取ると。ただ、それでいいと思ったのかな。今言ってくれたように「健さんがそこまで使ってきた言葉じゃない、なんで今そういうこと言うんだろう?」ってみんな考えてくれれば嬉しい。あとは、その後の2行が実は自分にとっては重要で。〈オレがお前に教えられること/でもオレがお前から教わったことでもあるんだ〉っていう。言葉って跳ね返ってくるじゃないですか。言うことによって自分も教わるし、こうやって書くことによって今まで漠然と思ってたことが言語化できた。大切な行為だなって思いましたね。

一一はい。続く「Bitter Truth」、久しぶりのゴリゴリなツービートです。

横山:これはね、エピソードがあって。夢で見たの、その曲を。

一一夢? 「Yesterday」みたいな?

横山:え、「Yesterday」ってそうなんだっけ?

一一らしいですよ。

横山:へぇ。じゃあ俺ももう、いよいよポール・マッカートニーだ(笑)。でもほんと、自分が演奏してるんじゃないけど、誰かがそうやって演奏してるところを夢で見て。サビのメロディも、あと♪ダッ、ダダッ、ダッ、っていうキメもしっかりあって。面白いから曲にしてみようと思ったら、できちゃった。

一一これも若い人たち、特に息子さんたちに残す言葉のようで、ニュアンスはかなり違いますね。

横山:うん、こっちはこれから世の中に出ていく世代の人たちに向けて語ってるイメージかな。昭和の頑固親父的な。頑固親父的な……というか、俺が昭和の頑固親父そのものなんで(笑)。こっちのほうが普通に生活してる中で素で思ってることに近いのかな。

一一〈正義が勝つとは限らない〉とか〈戦いに破れたお前〉とか、傷つくことが前提の歌詞ですけど、これは健さん自身の経験でもあります?

横山:うん。自分の経験。今でも絶賛経験してることでもあるし。そもそも正義というもの、自分が「こういうものでしょ」って思うことって、世の中で全然通用しないことが多くて。18、19歳とか、大学卒業した22、23歳だったら、それを目の当たりにすること、きっと多いと思う。50を過ぎた僕でも未だにそう思うし。それまで学校とか家庭とか、守られたところにしかいなかった人が、まず社会の洗礼を受けることになるわけで。

Jun:うん、学校で教わる正しい答えって一個だったりするじゃないですか。ほんとは正解なんて十個も百個もあるのに。だから、そういう面でも失敗することはたくさんあって。

横山:特に今、不寛容な時代でしょう? 誰もが最大公約数で生きようとしていて。もっといろんな人格とかパーソナリティがあるのに、世の中に出していいのはほんの僅かだったりして。すごく息苦しいなと思うんだけど、でも君らはそういうところに出ていくんだよって、しっかり伝えてあげたかった。

一一そして3曲目の「Sorry Darling」、こちらはスウィートなロックンロールです。

横山:そう、僕らが挑戦したことのないような曲調で。けっこう苦労したな。

Jun:最初に健から聴かせてもらった時はフォークっぽいというか、コードストロークも含めてアコギのイメージだったから。「どうなってくのかな、これ、難しいな」と思いましたね。実際これ、完成するまでにすごく時間かかってるんですよ。この3曲の中で一番時間かかってる。

一一難しくても、完成させたい曲でしたか。

Jun:一回引っ込めてるよね。アレンジが難しくて引っ込めたけど、でもやっぱもっかいやってみよう、って。

横山:うん。やっぱ完成させたい曲ではあったかな。なぜならこれ、メロディは絶対いいと思ったの。これにもエピソードがあって。まだ子どもが生まれて一年も経ってない時に、クルマの中で泣き始めちゃって。ウチの奥さんがあやすのに、このAメロを口ずさんでたの。

一一へぇー。

横山:「今の何?」って聞いたら「いや、適当に歌っただけ」って。でも俺クルマ停めて「もっかい歌ってみて?」って言って。要するに耳にすごく残ったの。その通りには使わなかったし、コードをつけていくと当然音階は変わっていくんだけど、でも耳についたんだから間違いないという思いがあって。

一一面白いですね、今回のシングル。夢も奥さんも出てくる。

横山:そうなの。そう考えると今回、図らずしも子どもとの関わりの中で出てくる曲が集まったのかな。あと、話は逸れちゃうんだけど、こうやって奥さんのことを話に出すと「健は家族愛を売りにしてる」って言われるのね。売りになんかしちゃいねぇよ、って書いといて。

一一わかりました(笑)。

横山:これ最近ライブでも言ってることで。長男が生まれた時にできた「Father’s Arms」を、今のホールツアーで弾き語りでやってて。なんで今やろうと思ったのかって、たぶん「These Magic Words」とか「Bitter Truth」とか、子どもに向けた意識が今すごく強くなってるのかな。その延長で「Father’s Arms」。俺は離婚してしまったけれど、長男次男の父親であることはまったく変わってなくて、愛情もまったく変わってない。こういうこと言うとシングルマザーの方とか怒ったりするかもしれないけど。でも、そこで擦り寄って最大公約数の表現をする必要はないんじゃないかと。「家族のこと売りにしてる」って言われても「お前の言う“売り”とは違うよ」っていっつも思ってる。もちろん俺は今までに取り返しのつかないバカなこともしてきたし、それを背負って生きていくけど、でも、売りにしてどうこうって言われる筋合いはないよ、と。まぁ俺が誰かの気持ちを裏切ったのであれば、申し訳なかったねっていうしかないんだけど……そう、そんなことを最近ステージでも語りかけちゃってます。

Jun:俺はヒヤヒヤしながら聞いてます(笑)。

横山:いや俺がバカなんだ、っていうのは重々承知のうえでね。

一一でも、そこで口を噤んだままになる、もしくは批判を避けて無難なことしか歌わなくなる横山健は、私は見たくないです。

横山:うん。

一一子どもに対する歌も、正直すぎるくらい変わっていきますよね。「Father’s Arms」の頃って、はっきり言うとメロメロになってる自分をまったく隠していなかった。今はもう少し厳しい視点が入ってきます。

Jun:そうだよね。でも小さい子どもに対して思う気持ちと、今まさに社会に出ようとする年齢になってきた子どもに対する気持ちって、違うからね。

横山:確かに。あとはやっぱり初めての経験と、2回目以降の違いじゃないのかな。僕は3人の男の子の父親で、今は長男が18歳になって、一番下が2歳で。歳の開きもあるから、そのぶん経験とか思うことも広がったのかもしれない。

一一経験を重ねた結果、最終的に〈Oh Yeah, It’s alright〉っていう言葉が出てくるのは、自分でも意外なことでしょうか。

横山:あぁ、すごく意外。まさか自分がそんな、一聴した限り無責任とも取れるような言葉を歌詞にするとは思わなかった。けど、すごく大事なことだなぁと今は思ってる。今の世の中、あとは54になった自分にとって、その姿勢ってすごく大事だなと思ったのかな。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる