Ken Yokoyama、初のLINE CUBE SHIBUYA公演 4人がモノにしたライブ表現と横山健のアナザーストーリー

Ken Yokoyamaのライブはホールもいい

 今では知っている人のほうが少ないかもしれない。Ken Yokoyama名義のソロ構想を練り始めた時、横山健が手にしていたのはアコースティックギターだった。メンバーの候補も考えず、ひとりギターを爪弾き、ただ湧き上がるメロディを乗せる。2004年、今から約20年前に出た1stアルバム『The Cost Of My Freedom』は、当初やや暗めのアコースティックアルバムになる予定であった。

 やや暗め、というのは、それ以前の歴史が絡んでいるからだ。Hi-STANDARDの活動休止。スタートしてしまえばどう見えるかも想像できるソロ活動。それでもオレは1人で行く。足の竦むような宣言の裏には、「そうしないと止まってしまうから」という枕詞があった。横山にとっては自分のバンド人生が。ファンにとっては続くはずの夢が。そこから全力で継続した20年ぶんのパンクロックを、晴れやかに総括してみせたのが今年5月の日比谷野音公演である。

 椅子のある会場でも充実のライブができると気づいた彼らは、半年後に東名阪のホールツアーを敢行。東京は旧・渋谷公会堂、“渋公”の名前で愛されたLINE CUBE SHIBUYAだ。野音との違いは空がないこと。抜けのいい開放感の代わりに4人の爆音が直に受け取れ、MCや客のガヤまでがダイレクトに交換できる距離がある。そのことは選曲にも反映されたのだろう。同じ20年の総括でありながら、内容は野音のそれとはかなり異なるものになっていた。

 SEもなくふらっと現れ、2ndアルバム収録の「Ten Years From Now」から始まるステージ。モッシュ&ダイブ不可能ゆえ客の反応はやや硬いが、そんなことはすでに見越しているのだろう。憑依芸、と称して「フレディ・マーキュリーだぁ」などと笑わせ(しかも口調はコマさん。誰なんだか全然わからない)、客に何度も〈♪Oh〜〉と唱和させる。ひとまず大声を出すだけで一体感や温度はガラリと変わるもので、2曲目「Walk」になると大団円のようなシンガロングが巻き起こる。それにしても、ここで「Walk」なのか。

 周知のとおりこれはKen Yokoyamaオリジナルではなく、盟友のHUSKING BEEが初期に書いた名曲。まだキャリアも乏しかった彼らのレコーディングに、プロデュースとして関わったのがハイスタ時代の横山健である。お互い解散や休止を経験し、復活もしているのだから、すべては遥か昔の話。ただ、この曲から一気に頭角を現していったハスキンの輝きとか、それを間近で見ていた横山がハスキン解散後に楽曲を引き継いだ気持ちだとか、記憶を辿っていけば時間のぶんだけ思いは濃厚になる。オリジナルがどちらか、もう順番はどちらでもいい。ただ、これが俺たち世代が生きた証。今の「Walk」はそんな曲として響くのだ。

 最新アルバムから数曲、最新シングルの「My One Wish」などを挟んだあと、ゲストシンガーを迎えてのスペシャル曲も最高だった。当然「My One Wish」のカップリング曲に参加していた木村カエラを想像するところだが、カエラは来ない、もっとかわいい人だから、と呼び出されたのは、なんと初代ベーシストのサージ! 彼がハンドマイクで歌うはカバー「Sucky Yacky」である。このサプライズに観客は狂喜乱舞。なにしろ久々のサージ、横にでっかくなりすぎだ。

 現在アメリカで暮らすサージから、ライブの2日前に「日本に行く。シブヤのショウが見たい」と連絡があり、「だったら一緒にやろう」と話は急にまとまったそうだ。本人にそんなつもりはなかっただろうし、現ベースJun Grayの感覚で言えば、前のメンバーを呼んでどうするという話かもしれない。が、それでも会いたければ迷わない。会ってまた一緒に鳴らす。これはバンド名義Ken Yokoyamaのステートメントではなく、横山健の個人キャリアにおける友情の話だ。もちろんメンバーに何の屈託もないことは、Jun Gray、松本“EKKUN”英二、南英紀の笑顔を見れば伝わってくる。サージは今なお抜群の愛されキャラであった。

 本当に久々の「Soul Survivors」や「A Beautiful Song」、さらに前シングルの表題曲「Better Left Unsaid」などが続いた中盤は、ホール会場特有の見せどころ。狭小ライブハウスでは箸休めになりかねないが、じっくり聴くとたまらなく沁みる名曲たち。代表曲を連発した野音の時よりも、これらミドルテンポ楽曲が効果的に響いてきたのは、4人が今また新たなライブ表現をモノにしている証左だろう。曲が終わるたび次々と飛んでくるガヤの中に「ホールもいいねえ!」の一言があったことは、同意を込めて記しておきたい。

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