mekakushe、満員の観客に届けた次なるステージの始まり 初のバンドセットワンマン公演
ハジけるような音色とmekakushe史上最速なのでは? と思わせるBPMの新曲「片想いマグネット 」を聴いた時、新しい扉を開けたんだと思った。言うなれば次なるステージへの始まり、そんな予感がこの曲には漂っていたのである。なんてことを思っていたら、アンコールに応えたmekakusheからはメジャーデビューの報告があり、未来に向かってぐんぐん進んでいく彼女の内心が、歌や演奏に乗り移っていたんじゃないかと思って腑に落ちた。
サポートメンバーはハヤシコウスケ(Gt)、Yuichiro Takahashi(Gt)、サカモトノボル(Ba)、小山田和正(Dr)、そして亜万菜(Synth)。ライブタイトルは“Hug Light”。mekakusheにとって初のバンドセットでのワンマンライブであり、インディーズ時代に培った音楽を一挙に解放するような一夜である。
ソールドアウトして迎えた表参道WALL&WALLには、開演前から観客がびっしりと詰めかけた。本人は言うに及ばず、ファンにとっても待望のライブだろう。20時を過ぎた辺りにSEが止まり、一瞬の静寂と暗転、mekakusheと5人のサポートメンバーがステージに現れる。1曲目は「あかい」だった。丁寧に歌を届けようという気持ちが先行したのか、始まりこそ発声にか細さを感じたが、3曲目の「わたし、フィクション」を過ぎた辺りからどんどん曲に引き込まれていく。
前半のハイライトは「ばらの花」だろうか。原曲よりもずっと躍動感があり、このメンバーで演奏することで、mekakusheの声にも生まれ直したような新鮮さがあったように思う。手短な挨拶と「ちょっと泣いちゃうよ」という言葉を呟いてから、「恋する女の子」へ。それから「夜のドライブ」に繋ぎ、「サイダー」、「heavenly」(共に2019年リリースの『heavenly』より)を途中に挟みつつ、「液化」、「片想いマグネット」といった『あこがれ』(2023年1月リリース)以降の新曲をまとめて披露。ギアが上がっていくのはここからだ。
夢だったという手拍子を、観客と練習してから歌った「夜のドライブ」は、今後もライブの定番曲になるのかもしれない。すこぶる快調だったのは「液化」である。星と星が衝突し合いスパークするようなギターと、ダイナミックなボトム、そして煌めくシンセと透き通るような声が交差するこの曲は、是非ともまたこのメンバーで聴いてみたいと思わせる1曲だ。それからリリース直前に初披露された「片想いマグネット」である。カラフルな演奏と跳ね回るリズム、グルーヴィなアンサンブルはやはり新境地である(音源にはサックスやトロンボーンまでフィーチャー)。mekakusheがここ数年取り組んできた「ヒット曲の研究」と、いくつもの楽曲提供で培われた作曲スキルが実を結んだ1曲と言えるのではないだろうか。
それにしてもなんという歌声だろう。ふわふわと漂うような浮遊感と、冷気に溶けていくような透明感があり、そうかと思えば寂しさを含んだような感情的な声に変わっていく。でも、妙な親しみやすさがあって、気づけば心の深いところに染み込んでくるのである。歌の中でよく「神様」や「世界」、「水中」や「宇宙」が出てくるのも、この声に霊妙なニュアンスを与えている要因かもしれない。曲を聴いているとうっかり自分も無重力になってしまうような、そんな感覚を覚えるのだ。
インディロックへの憧憬を具象化したアルバム、『あこがれ』の1曲目を飾る曲だけあって、やはり「きみのようになれるかな」はバンドアンサンブルがよく似合う。中盤から入ってくる軽やかなテンポのドラムは小気味よく、柔らかい風を感じるようなメロディも心地いい。ライブを通して鍵盤とドラムは楽曲の骨子を形づくり、2本のギターとベースは歌詞の奥にある感情を浮かび上がらせるようにmekakusheの歌に寄り添う。演奏が進むにつれて6人の集中力が上がっていくように感じたのは、きっと私だけではないだろう。
そこから繋いだ「スイミー」の響きは格別で、水中に潜っていくようなSEが流れ始めると、次第に幻想的な音色のギターが漂い始め、シンセの音が重なることで空間を包んでいく。中空を見つめて歌うmekakusheの声はほとんど祈りのようで、最後はそんな彼女の声さえ6人の演奏の中に飲み込まれて消えていく。楽曲の情景がストレートに伝わる、素晴らしい演奏だったと思う。
ここで束の間の小休止である。MCではこの日のために頼んだはずのパーカーが、発注ミスで大量のトレーナーになっていたという失敗談が語られるが、グッズの手配もすべて自身で行ってきた彼女ならではエピソードだろう。「このライブはハンドメイドなものにしたかった」という言葉からも、mekakusheのライブに対する矜持が透けて見えたような気がした。それから「屋上にて」と「ボーイ・フッド」を演奏してライブの本編は終了。この日ギターで参加していたハヤシコウスケと共に作った「あかい」で始まり、同じく「ボーイ・フッド」で閉める構成も粋だったと思う。何より、後者のような開けたメロディのポップソングは、これからも彼女のディスコグラフィにおいて重要な曲になるのではないだろうか。