三浦大知×TOMOKO IDA、攻めの持ち味活かして初共作 「能動」の挑戦的な制作を振り返る

三浦大知×TOMOKO IDA「能動」対談

 来年1月24日にニューアルバム『OVER』をリリースする三浦大知。その作品からのリード曲となる新曲「能動」は、彼の飽くなき挑戦を具現化した驚くほど先鋭的な1曲だ。まず楽曲構成がJ-POPのセオリーから大きく逸脱。短いパートが畳みかけるように進行し、メロディの反復はありつつも、ビートは常に変化し続け、一度たりとも同じ箇所がない超実験的な楽曲になっている。ボーカルはラップ調から鮮やかなハイトーン、さらにラテンテイストを感じさせるフェイクまで、豊かな表現をわずか2分40秒に凝縮。TOMOKO IDAが手掛けたビートは常にアグレッシブでありながら、不穏な雰囲気と派手な祝祭感を両立させ、さらに和のテイストも織り込んだ驚くほどユニークなプロダクションになっている。今回は、そんな異次元レベルの楽曲を作った三浦大知とTOMOKO IDAの対談が実現。かつての飲み友達であり、親しみを込めてファーストネームで呼び合う仲の2人が、どのようにして「能動」を作り上げたのか。楽曲制作の細部までたっぷり明かしてもらった。(猪又孝)

「私のインストをリファレンスに持ってきて、びっくりした」(TOMOKO)

――2人の出会いは、いつ頃ですか?

TOMOKO IDA(以下、TOMOKO):たぶん渋谷WWWじゃない?

三浦大知(以下、三浦):そうだったっけ?

TOMOKO:千晴と大知がツーマンをWWWでやって、そのアフターパーティで会った記憶があるんだけど、あれ、違うかな?(笑)

――大知くんがアルバム『Who’s The Man』を出したのが2009年。TOMOKOさんがアーティストとしてデビューしたのが2010年なので、その頃でしょうか。

TOMOKO:私は2009年にニューヨークから帰ってきたから、その後なのは間違いないです。

三浦:当時、クラブとかイベントとかで、よく顔を合わせてたんですよ。

TOMOKO:飲みの場で会ってることが多かったから、どこが最初なのかわからない(笑)。

三浦:だからよく覚えてないですね。俺が人生で一番飲んでたとき。酒に飲まれていたときだから(笑)。

――「能動」はニューアルバム『OVER』のリードシングルですが、どんな考えから制作が始まったんでしょうか?

三浦:まずはアルバムのテーマとして“OVER”というキーワードがあって。三浦大知をより広げていくために今までご一緒したことのないプロデューサーの方たちと楽曲を作るとか、いろんなところと自分を“OVER”していく感じで、ものづくりをしたいなと考えていたんです。

――その中のプロデューサーの1人としてTOMOKOさんを指名したと。

三浦:そうです。というか、そのアイデアを考えていた時点でTOMOKOとは一緒にやりたいと思ってました。

三浦大知

――オファーを受けてビートはゼロから作ったんですか? 

TOMOKO:そうです。最初はオンラインで打ち合わせして、「バッキバキのください」って言われて(笑)。 

三浦:とりあえず遊んでほしいですって。

TOMOKO:「なにこれ? ヘンテコ」みたいな。普通はヴァースがあってフックがあってみたいな決まりがあるけど、そういうものじゃなくていいと言われたんです。本当にびっくりする感じ、聴いたことがない感じが欲しいと言われて。

三浦:もともとTOMOKOが作ったEP(『8OYA』)を好きでよく聴いていたんですよ。

TOMOKO:それを聞いてオタクだなぁと思った(笑)。

三浦:三浦大知というプラットフォームで、いろんな人に三浦大知で遊んでもらうことができたらいいなと思ってたんです。そうすると、作家の方々の作家性や音像がメインになっていって、その世界観に三浦大知が存在しているということになる。

――たとえばNao'ymtとの「球体」とか。

三浦:そう。そういう作家性が全面に出てるものが好きなので、TOMOKOにお願いしたときも「TOMOKO IDA名義の楽曲を作る感じでやりたい」と伝えたんです。

TOMOKO:リファレンスとして、私のインストを持ってくるアーティストはいないから、びっくりして。とはいえ、作りながら「これでいいのかな?」って。やっぱりちょっと歌を聴かせた方がいいかなとか、ここはもうちょっと商業的な感じがいいかなとか考えて、最初はいわゆるプリフックと呼ばれるパートを作って「歌感」を出したものを渡したんです。

三浦:そこが結構歌だったんだよね。

TOMOKO:そしたら「もっとヘンテコでいい。もっとTOMOKO IDAに寄せた感じでいい」って言われたから、そのパートもカットして作っていきました。

TOMOKO IDA

――「能動」は複雑かつ挑戦的な構成の楽曲になっています。いわゆるAメロ、Bメロみたいに区分していくと、何メロか数えられないほどになってる。

三浦:同じところに戻ってこないですからね。メロディは繰り返したとしても、トラックはずっと変化し続けてるから。

TOMOKO:ダンストラックというか、インストに近い感覚で作っていいと言われたんです。私は他の仕事でインストを作ることが多くて、全部のパートが違う構成、コピペがない感じで作ることが多いから、その感覚でビートを作ったんです。だからAもBもCもわからない(笑)。レコーディングのときも「どこからやる?」っていうのがわからなくてね。

三浦:そう。「えーっと、あそこのあの歌詞の……」みたいな(笑)。

――〈その時まで/生き抜くだけ〉から始まるパートはメロディがはっきりしていてキャッチーですが、そこがフックと捉えていいんですか?

TOMOKO:私の中では違います(笑)。私としては2つめの〈動け 動け ただ能動〉のところがフック。

三浦:俺もそこです。俺の中では〈自由自在に唯一無二〉から〈思考も心も/全てを使え〉までが一括り。ここがBメロというか、サビに向かっていくためのパート。そのあとの〈動け 動け ただ能動〉から〈Step into another dimension〉までがサビ。

――ということは、サビ始まりの歌なのか。

TOMOKO:そういうことなんです。

三浦:〈動け 動け ただ能動〉の部分は、メロディアスではないけど、曲のメインパートっていう。

――途中にダンスブレイクが2つ入っていますが、そのアイデアはどちちから?

TOMOKO:最初のミーティングのときに大知から「踊るだけの部分はほしい」という言葉が出たから、そこは私が最初から作らせてもらいました。

――終盤のアカペラでフェイクする部分は?

TOMOKO:そのアイデアは大知です。

三浦:あそこでブレイクして、変なフレーズが入ってきたらどうかなって(笑)。曲作りの終盤にそれを思いついて、TOMOKOに提案したんです。

TOMOKO:あのブレイクの“間”がハッとさせるよね。

三浦:曲の最後の最後に遊びの部分があるといいなと思ったんですよ。

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