THA BLUE HERB 結成25年を経た“双方向”のコミュニーケーション ILL-BOSSTINOが語る、現状を見据えたライブ観
お客と一緒に歳を取っていきたい
ーー25周年ツアーが昨秋に行なわれ、その半年後にBOSSさんのソロ2ndアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP II』がリリースされます。『YOU MAKE US FEEL WE ARE REAL』と同時リリースされる『続・ラッパーの一分』は5月のアルバムリリースライブの模様を収録したものです。今回、収録されているのは東京公演(恵比寿LIQUIDROOM)の映像ですが、大阪公演は悪天候での開催だったようですね。
ILL-BOSSTINO:そうそう。大雨ですごかったとき。東京もすげぇ良かったんだけど、大阪も本当に……川が氾濫しそうになって電車も止まったのに、土砂降りの中みんな歩いて会場に来て、そこでみんなでかましたからスゲェ楽しかった。本当、繰り返しになるけど、お客の熱心さを感じると改めて自分の音楽を信じさせられる。東京公演はこのアルバムツアーとしては最初の公演だったから、5人のゲストとの演奏も初めてで、そこのフレッシュさは残ってるって感じだよ。東京公演は一発勝負。普段だったら映像に絶対出さないような日なんだけど、そのフレッシュさとぎこちなさも含めて今回は見せてもいいかな、って。
ーーでも、リスナー側からの意地悪な見方になってしまいますけど、アーティストが垣間見せる綻びのようなものにグッとくることもあるじゃないですか。『続・ラッパーの一分』の映像にはそういった魅力もあります。
ILL-BOSSTINO:そうだね。そういうところはいろいろなところで出てるよね。やっぱり俺とDYEだけがステージに立って全部俺たちのコントロール下にあるライブと、あれだけの個性が5人も入れ代わり立ち代わり入ってきて、ゲストたちと俺のせめぎ合いみたいなのもあって、観ててスゲェ楽しいよね。でも、やっぱそこで“俺”が出てるとも思う。5人それぞれ、俺の接し方は違うんだけど、ライブに来てくれて一緒に演ってくれたことに対する感謝の気持ちを俺がちゃんと出せてて、素のままの俺だったな、って観てたら感じる。まったく作ってないというか。
ーーMC中で「誰も携帯撮ってねぇ。映像撮ってねぇ」と話していたのも印象的で。今やライブ中に観客が携帯をかざして映像を撮っているのが当たり前になりすぎて、逆にその行動がマナーになってしまってるかのように思えてしまうぐらい日常的な光景になっている中で、あの観客の光景が逆に新鮮で。TBHのライブにおいてはこれまでもそういう光景だったと思いますが。
ILL-BOSSTINO:決して「撮るな」っていう感覚ではないんだけどね。俺もライブ観ててすげぇ楽しい気持ちになったときに自分の手元に映像として残しておきたい感覚はあるから、それはすごく理解できる。でも、今みたいにずっとみんなで携帯を掲げてる状態っていうのは、俺にとってはやってられない。そういうのが俺は嫌なタイプで、俺が高いパフォーマンスを維持するためにお客にも後で見る映像じゃなくてこの瞬間に対してマジになってもらうことを求めてる、ということがお客にはいつの間にかちゃんと伝わってる。だから、MCでも言ってるようにプロの映像(スタッフ)を入れて、そこにまたお金は発生しちゃうけど、良いもの(映像)としてお客に戻したいというのもあったよね。ーー『IN THE NAME OF HIPHOP II』に客演した全ラッパーが参加した豪華なライブですが、その中でBOSSさんはZORNを「現役チャンピオン」と紹介していましたね。
ILL-BOSSTINO:そうだね。それは、俺も彼のさいたまスーパーアリーナのワンマンを観てたから。TBHって他のラッパーとは全然関係なく自分たちだけ、みたいな感じで出てきたグループだけど、自分たちより若い世代でもすごいヤツはすごいってやっぱり言いたいし、そういう感じでちゃんと紹介したかった。ZORNを現役チャンピオンと認めたとしても俺自身を卑下することにはならないっていう、自分なりに持っているものがあるし、いろんな誇りがそこには含まれてる。そういう感じで5人と相対して彼らをお客さんに紹介することが、今回やりたかったことだね。
ーーゲストの存在も見応えのあるシーンが多い映像作品ですが、その中でもやはり、アルバムがリリースされた際に大きな話題となったMummy-D(RHYMESTER)との初ステージは大きなハイライトですね。
ILL-BOSSTINO:そうだね。
ーーライブの後日、DさんはBOSSさんが「もうちょっとで泣きそうだった」と語っていたようです(笑)。
ILL-BOSSTINO:いやいや(笑)。俺もそう言われたから映像チェックしてるときにどのシーンか探したんだけど(笑)。だから、俺自身はそういう感じはなかったんだけど。
ーーでも、Dさんが登場して曲を演る前の時点でBOSSさんがかなり感慨深そうにしていた様子は映像に収められていると思います。単純に、嬉しそうだな、と。
ILL-BOSSTINO:だね。あの夜はD君に限らず、ゲスト5人とのステージはどれも俺にとっては大きなヤマだった。超楽しんでて超リラックスしてるんだけど、その時間を良いものにすることに対するプレッシャーがすごくあって、ゲストとの時間が終わってみたら歌詞が飛んじゃったりとかが時々起きて「俺もまだまだだなぁ」って。そういうのも含めてレアな映像だと思いながら観てたね。
ーーMummy-Dが最後に登場したゲストでしたけど、そこ以降のBOSSさんは何かが弾けた感じというか、良い意味でタガが外れた剥き出しのパフォーマンスだと思いました。BOSSさんの中でもその変化はライブ時に感じましたか?
ILL-BOSSTINO:感じたね。いろんな感情が湧き上がってきてたし、足元がおぼつかないというか、1MC+1DJで最初から最後まで自分と会場をコントロールするということからは、タガが外れた表現になったと思う。やっぱり共演相手の影響ってあるんだな、って。25周年ツアーだったらステージにいるのは俺とDYEだけだから、ずっと張り詰めて完璧にライブができたけど、全然自分と違う価値観や感情がそこに現れると自分の中でもいろんな感情が出てくる。そういうのを再確認したよね。
ーーここまでキャリアを重ねてきて、このタイミングでそういうことを感じ取れたというのは、ライブ後半のMCで「ここ、天下分け目だったぜ」とまで言い切った理由のひとつかもしれないですね。
ILL-BOSSTINO:俺的にはデカいライブだったと思う。この経験がどういう感じで俺の中に影響として表われていくかはこれから先のキャリアで分かっていくと思うんだけど、あれだけの個性をステージに混ぜ込んで自分のショーをやって、それによって自分の素の部分やたどたどしさが現れたというのも含め、やっといてよかったな、と。
ーー今回の映像2作品を観て、TBHが長年人気を保ち続けられてきた理由の一端を垣間見ることができた気がします。BOSSさんはライブを通して、観客がBOSSさんと共に人生を歩んできているという感覚を共有させることができているんだな、と。ファンがアーティストの成長やキャリアの積み重ねに対して一方的に感慨を得るだけではなく、その感覚が双方向なものだということをリスナーも感じられるというか。
ILL-BOSSTINO:そうだね。双方向、そうなれたと思う。俺も自分を隠さなくなったし。自分がどんどん大きくなって会場のキャパが広がっていく姿を見せるというのとはちょっと違う。お客それぞれともっと長いスパンでツルんできたし、ツルんでいきたいと思ってる。ある夜ライブをやって終わり、っていうんじゃなくて「生きてる間」っていうぐらいのスパン。25年を超えていよいよその領域に入ってくるから、「お前がくたばるまで行くぜ」みたいな感覚は大いにあるよね。「お客と一緒に歳を取っていきたい」って言うと簡単なんだけど、もう実際そうなんだ。
■リリース情報
『YOU MAKE US FEEL WE ARE REAL』
発売日:2023年10月18日(水)
価格:¥4,500(税込)
https://tbhr.lnk.to/youmakeusfeelwearereal
『続・ラッパーの一分』
発売日:2023年10月18日(水)
価格:¥4,500(税込)
https://tbhr.lnk.to/zokurappernoichibun
■ライブ情報
『YEAR END TOUR 2023』
12月20日(水) 名古屋 HUCK FINN
12月22日(金) 京都 CLUB METRO
12月24日(日) 大阪 Yogibo META VALLEY
12月26日(火) 札幌 KLUB COUNTER ACTION
12月29日(金) 東京 LIQUIDROOM
THA BLUE HERB RECORDINGS
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