THA BLUE HERBが残す“2020”の記録と音楽ーーILL-BOSSTINOに聞く、今の思いとライブや日常の変化

THA BLUE HERBが残す“2020”の記録と音楽

 THA BLUE HERBがニューアルバム『2020』を7月2日にリリースする。

 2019年夏に発表されたCD2枚組のフルアルバム『THA BLUE HERB』から1年ぶりとなる『2020』には、「IF」、「STRONGER THAN PRIDE」、「PRISONER」、「2020」、「バラッドを俺等に」の5曲を収録。タイトル通り世界中がコロナ禍に見舞われた2020年を記録的に描いた表題曲や、ライブ後の情景や各地の街での出会いと別れを描いた「バラッドを俺等に」など、今の時代を切り取ったリアルタイムのドキュメントのような内容になっている。

 日常が大きく変わってしまった2020年。彼らは何を思い、何を綴ったのか。ILL-BOSSTINOに話を聞いた。(柴那典)

「2020」は「淡々と記録として書いていこうという気持ちが強かった」

――まず、このタイミングで言わなければいけないことを作品として残そうと考えたのはいつ頃のことでしたか?

ILL-BOSSTINO(以下、BOSS):今年の夏ぐらいに作品を1枚出そうかなというのは去年から頭にあったんですけど、コロナウイルスのことや『2020』というタイトルも含めて、今回の作品の方向性が定まったのは3月ぐらいですね。ライブが全部なくなってから曲を作り出したのですが、3、4、5月に起こったことが自分にたくさんのインスピレーションを与えたので、そこから作品の骨子が固まっていった感じです。

――昨年から毎週末ずっとTHA BLUE HERBは全国各地のベニューでライブをしていましたよね。実際にはいつ頃まで続いていたんでしょうか。

BOSS:2月末までです。2月29日に下北沢SHELTERでGEZAN、3月1日にenvyとAge Factoryとのライブが予定されてたんですけど、それが中止になって、その後のライブは全部なくなりました。

――2月頃、新型コロナウイルスの感染が最初にニュースになったあたりの段階では状況をどんなふうに見ていましたか?

BOSS:まだその時点では、正直それほど危機感は感じていなかったですね。そのうち収まるだろうくらいにしか最初は思っていなかったですね。ウイルスは目に見えないし、コロナに感染した人も周りにはいないから、結局のところ自分の目で見て感じた脅威というよりも、ニュースやSNSで知った脅威でしかなかった。でも、下北沢SHELTERのライブの中止を決めたあたりから、報道も本格的に僕らを自粛に向けて促す意味合いのものが増えていった。そこからは今日に至るまでずっと続いている流れの通りですね。

――今回の感染拡大による経済的な影響を最初に受けた業界の一つがライブエンターテインメント業界でしたよね。かつ、これはどんなアーティストもそうですが、ステージに立つ人間というのは当事者のど真ん中である。

BOSS:そうですね。

――その中でもTHA BLUE HERBは全国の小さなクラブやライブハウスと直接つながっている存在だと思うんです。BOSSさんから見て、3月からいろんなクラブやライブハウスがクラウドファンディングや投げ銭などの生き残り策を講じている状況はどう見ていましたか?

BOSS:ポジティブに捉えていました。やっぱり、これをどう乗り切るか、みんなで知恵を出し合っているわけだから。俺らも力になりたいと思ったし。でも、本当に厳しくなってくるのはこれからなんじゃないかと思っています。俺らも今年の秋から来年の3、4月くらいまでスケジュールはびっちり入っているんだけど、それも本当に予定通り出来るかどうかわからないわけで、半年、1年先にいよいよ持ちこたえられなくなるところが出てきてもおかしくない。そういう危惧はしています。クラウドファンディングでお金を集めるというのも、それ自体継続するのは難しいだろうし。本当に苦しくなるのはこれからなんだろうなと考えてしまいます。

――THA BLUE HERB自身もスケジュールがキャンセルになってしまったわけですが、そこはすぐに意識を切り替えましたか。

BOSS:そうですね。たまたま僕らは、ライブがダメなら同じくらい曲作りに打ち込もうと切り替えが出来たので、そこに精力を注ぐことができた。立ち止まっている時間はないなと思ったので、すぐに制作に没頭できました。

――作品を作るにあたって、まずどういうものを作ろうと考えましたか?

BOSS:収録した5曲のトピックは全部違うし、曲ごとにテンションは全然違うんだけれど、「2020」という今の時勢を歌ったものに関して言えば、淡々と記録として書いていこうという気持ちが強かったですね。起きたことに対して結論を出せる時期でもないし、非日常な現実が一つ一つリアルタイムで進んでいたので。ただそれを記録するように書いていこうと思ったんです

――「2020」はこの5曲の中で最初に出来上がった楽曲ですか。

BOSS:「2020」は最後ですね。いろんなことが日々変わっていくので、リアルタイムで世の中に起きていることと、自分が書く歌詞にズレをあまり作りたくなかった。リリックも何回も書き直して、一番最後に録りました。

――この曲には「今起こっていることを後から振り返る」という視点も含まれていると思います。

BOSS:そうですね。“2020”という西暦をわざわざタイトルに入れているのもそうだし、その視点は入っていると思います。今年はたとえば2011年の3月11日のように、後々振り返ったときにいろんな意味で忘れられない年になると思っているので、時間が経っても2020年を振り返る時のサウンドトラックとして残しておきたいという気持ちも強かったです。

――2020年が世界史的な時代の転換点のようなポイントに立っているという意識、そこで考えていたことや見ていたものを後から振り返るために残しておこうという考えはありましたか?


BOSS:みんなもそうだと思うけど、自分もそういう意識は強いですね。それに、今どきCDだけでわざわざリリースしてるアーティストなんてそんなにいないし、時代遅れなタイプだという自覚はしているんだけど、一つ形のあるものとして作品を残したかったというのが大きいですね。それこそ今はSNS上やYouTubeだったり、配信で作品を出している人たちが多いし、俺もそういう人たちの作品を観たり聴いたりして、いろんなインスピレーションは受けているんだけど、自分の作品はタイムラインに乗って流れてしまうものにしたくはなかったんですよね。

――今回の作品には「2020」以外にもそれぞれに主題があると思うのですが、まず1曲目の「IF」に関してはどうでしょうか。「もしも」という言葉をタイトルにしたのは?


BOSS:これは前から書いていたリリックなんですが、基本的には相変わらず、「もしも」に懸けて音楽をやっているというテンションで書きました。結果的に今の世の中がこういう状況になって、閉塞感に閉じ込められがちだけど、そういうものを全部打破するという姿勢の曲を作りたかった。どんな逆境にいるときも俺はいまだに「もしも」を信じているし、もっとよくなるということに希望を持っているので、そういう意味を込めて1曲目に入れました。

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