THA BLUE HERBとは異なる、tha BOSSにとってのHIPHOPーー自らの人生とリンクした音楽を作り続けること

tha BOSSにとってのHIPHOP

 ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)のソロプロジェクト、tha BOSSが、4月12日にニューアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP II』をリリースした。今作は、初のソロアルバムとなった前作より約7年半ぶりの作品となる。今回のインタビューの中で「キャリア26年の中でも常に変化を繰り返してるし、基本的には昔の自分を超えていく、常にアップデートして自分のフレッシュさを保っていく、そのテーマをずっと追ってるから」と語っているtha BOSS。自らの人生、関係性の中から生まれ、更新され続けるtha BOSSのHIPHOPについてじっくりと聞いた。(編集部)

ずっと今の自分を表し続けてる

一一ここ数年はずっと制作が続いています。コロナ禍でのミニアルバム『2020』、dj hondaとのジョイントアルバム、YOU THE ROCK★のプロデュースなどがあって。

BOSS:そうですね。僕のキャリア中盤の、この、いきなりエンジンかかった絶好調ぶりっていう。

一一もう筆が止まらない感じで、2枚目のソロも作ってしまえ、と?

BOSS:うん。O.N.Oと2枚組(5thアルバム『THA BLUE HERB』)を作り終わって、現時点でのTHA BLUE HERBは極めたから、また他のプロデューサーともやりたいなと思って。それはコロナ禍の前からあったアイデア。コロナ前からリリックを書き始めてはいたし、実際に録っていた曲もあって。でもコロナ禍になって、O.N.Oと「世の中ちょっとヤバいことになってきたから、今しか作れない曲を作ろう」っていうことで『2020』を作ることになって。その間ソロは中断して、時間がある時に少しずつ進めてたのかな。その後にYOU(YOU THE ROCK★)ちゃんのアルバムのプロデュース、dj hondaさんとのアルバム制作もあって。そんなこんなでずっと、3年くらいかけて作ってました。

一一3年前に描いたイメージと、できたものに違いはあります?

BOSS:ないね。やりたい人と楽しむっていうだけ。

一一ソロはまずビートメイカーを選ぶのが先ですか? それともリリックを書き上げて、どんな音が合うのか考えていくのか。

BOSS:誰にお願いするかが先。その間もずっとリリックは書いてるけど。ただ、みんな腕利きだから、すぐに10とか50とか、それくらいの数のビートを送ってくれる。別に「この人とはこういう感じの曲」ってイメージを決めることもなく、ただやりたい人に「ビートください」って言って送ってもらって、その中から選んで、僕の書いてるリリックと合体させる。それをずっと続けてた感じだね。

一一「ビートください」以外、曲調に関するリクエストは……。

BOSS:最初の段階では無いね。O.N.Oには言うんだけど。今回はわりと、そこでのマジックもほしかったし。

一一ゲストのラッパーはどのように選びました?

BOSS:基本的に友人。ヒップホップの名のもとに出会えた友人。ビートメイカーの中には、たとえばTOSHIKI HAYASHI(%C)くんみたいに「初めまして。札幌THA BLUE HERB、BOSSと申します」から始めた人もいたけど。でもラッパーに関しては「いつかやろうぜ」ってこの数年話してた人たちばっかり。だから必然かな。

一一たとえば、海外のアーティストという案は出なかったですか。

BOSS:ないね。基本的に友達同士の遊び、そこがとても大きいから。ビジネス目当てで誰かっていうの、まったく皆無だし。友人関係が先にないと成立しない感じかな、僕の場合は。特にラッパー同士なんて。うん……海外ってまったく考えなかったね。

一一近年だと、韓国のビートメイカーと共作、さらにタイ人のラッパーを迎えて、みたいな多国籍コラボも多くて。流行りと言えば流行りです。

BOSS:そうなんだ? 全然知らない。日本語圏以外に向けてって感じは今は考えてないね。コラボも含めて、今から英語勉強して英語圏でラップできるようになれば、もっと広い世界の人に知ってもらうことができるなって……考えないこともないけど。ただ、自分の日本語で極めたこのラップや詩作のスキル、今から別の言語で同じレベルまで持っていけるかって考えたら、不可能に近い。そう考えたら、日本語にこだわって日本人に向けてやっていく。まだ俺のことを知らない人もいっぱいいるからね。

一一わかりました。もうひとつ、女性ラッパーを入れるという案は?

BOSS:さっき話した通り、ラッパーで、友人で、今曲を作ろうと思う人はいなかったね。

一一はい。今のふたつの質問って、インターネット時代のビートメイク論、あとはジェンダーバランス論なんです。近年は議題に上がりがちなトピックというか。

BOSS:うん。考えたことなかった。全然。

一一だから、BOSSは時代の流れと関係ないところで、自分のことを掘り下げているんだと改めて思います。逆に言えば“WHO I AM”だけでよくここまで続けられるなぁ、と。

BOSS:俺自身、51年の人生の中でも、キャリア26年の中でも常に変化を繰り返してるし、基本的には昔の自分を超えていく、常にアップデートして自分のフレッシュさを保っていく、そのテーマをずっと追ってるから。そこでは原点回帰する瞬間もあるけど、でもずっと今の自分っていうものを表し続けてるね。確かに。

一一ソロでは特に、北海道でどのように自分のポジションを確立していったのか、振り返る歌が多いです。

BOSS:そこがTHA BLUE HERBとはちょっと違う世界。もっとパーソナルというか。やっぱりTHA BLUE HERBは“We”って感じがあるから。

一一いちラッパーとしてこの世界に飛び込んだTHA BLUE HERB以前のBOSSは、かなりコンプレックスが強かったようですね。

BOSS:ラッパーなんてみんなそうだと思うよ。みんなコンプレックスの塊。劣等感の塊。ラッパーってそういう人間がなる職業って感じがする。みんな強気な感じで出てくるのは、ほとんどが虚勢を張って、自分の劣等感を乗り越えようとしてるから。俺もそうだったし。

一一劣等感なしにボースティングはできない?

BOSS:だと思う。ずっと渇いてる人、飢えてる人、自分の劣等感を払拭したくて頑張ってる奴じゃないと共感は得られないと思うね。そんな人しか聴かないし、HIPHOPは。

一一でも、そうなると、成功すること自体がセルアウトになっていく。危うい立脚点でもありますね。

BOSS:そうだね。でも、みんな上手くやってるなと思うよ。けっこうアメリカのHIPHOPは金持ちになるとか有名になるのを目指しやすくて、そうなるとジュエリーつけたり高級車乗ったりしがち。日本にもそういう人はいるし、その人達を悪く言うつもりはないけど、そうじゃない人もいっぱいいる。俺みたいにわりと普通に生活してて、別に宝石とか高級車に興味がなくて、それでも続ける理由を探していける。純粋にいい音楽を作り続けたいとか、ライブをずっと更新し続けたいとか、そういうこだわりだけでずっとやっていける。もちろん、アメリカでもそうやってる人達もいっぱいいるだろうけど。

一一それって国民性の違いですか?

BOSS:それもあるかもしれないけど、たぶんエンターテインメントの規模が違うんだと思う。売れてる額も違うしね。俺ら、あれほどは金が回ってなくて、だからある意味壊れない状況をキープできてるのかな? 俺だって何十億とか持っちゃったとして、次のアルバムも頑張ろうって気持ちになるのかを問われたら自分でもわかんない。でも俺は自分にとって無理のない場所、自分らしくいれる場所にいれてるから。そこは恵まれてる。まだ51歳だから曲もたくさん作れるし、ライブにも沢山お客が来てくれる。ずっと末広がってる。ありがたいよ。

一一幸せなことだし、それを穏やかさとして表現できているのが今回のアルバムだと思います。

BOSS:うん、今回わりと力を抜いて作れたと思う。hondaさんの時はもっとガチガチで強靭な曲が多くて。hondaさんがそれを求めてたわけではなく、俺が勝手にそうしただけなんだけど。今回は同世代とかだからそう感じるんじゃないかな。

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